最終通告通信

現在多元宇宙を放浪中の平行宇宙連合艦隊から、この時空で進化した同胞へ通告する。
本来ならば闖入を陳謝し、平和を願う挨拶をするところだが、今回のみ事情が異なる。
当該時空に転移した直後当艦隊は、宇宙空間に投棄され凍結した人間の遺体を発見、回収した。医師団の尽力によりその蘇生に成功し、事情を聞いた上で家族のもとに送り届け、確認調査を行った。
救急救命艇に密航することが現実に可能であるずさんな運用に、全艦隊が強い衝撃を受けている。救命艇の構造・運用に致命的な欠陥があり、非人道的な人命軽視と断定せざるを得ない。
密航の試みが常にあることは、前提とすべきフールプルーフである。重装備、植民星を破壊するような悪意でもありえ、その排除を軽武装のパイロットのみに委ねることは危険である。もちろんパイロットの重武装は救急救命艇自体にとって危険なだけだ。
余剰燃料や設備の余裕はなくとも、救命艇発進時に出力・加速度の比を計るだけで引き返し不能点以前に密航者の質量は検出可能であり、それは当然の点検である。発進前の、艇内外の徹底的な点検も当然のはずだ。
また、燃料や宇宙服の予備は、安全で安定した運用に元々必須である。密航だけでなく、どんな些細なトラブルにも対処できない低性能な緊急艇が、他にも多数の事故を起こしてきたことは確認されている。
燃料の予備、発進前後の点検すらない救急救命艇の運用状況は、当艦隊所属のどの艦艇の緊急時安全基準をも下まわる、非人道的にして言語道断というべきものだ。
些細なコスト、否官僚主義的怠慢のゆえに多数の人命を犠牲にし、多くのパイロットたちに深刻な心的外傷を負わせ続け、多くの簡単に防げる重大事故を構造化する貴文明のありようはそれ自体人として容認しがたい。
貴星は全艦の、惑星破壊級兵器多数によって照準されている。大至急最優先で、救急救命艇密航者の船外投棄の、万全の再発防止策をとることを、絶対的な実力をもって強要脅迫する。
この私も、今回は生きた人が標的だと知りつつ分子破壊砲の照準を合わせている。
これより宇宙戦艦ヤマトが、無人と確認されている第四惑星の衛星に波動砲を試射する。威力を観測せよ。
当艦隊は、再発防止策がとられない場合は諸君を人外動物(ヴァーレルセ)とみなし、異類皆殺し(ゼノサイド)を躊躇わない。

宇宙軍大元帥野田昌宏名代 多元宇宙連合艦隊総司令「異類皆殺しのエンダー」「死者の代弁者」アンドリュー・ウィッギン

以下、各艦艦長のコメントを付け加える。

「わたしは、ご先祖のお導きと戦争法に従い、住民殺戮を避けるよう艦隊を指導してきた。
だが、わたしは故障した救命艇には我慢できない。もっと我慢できない唯一のものは、コスト削減のため構造的な欠陥が放置されている救命艇だ。
人の死を安易にコスト扱いする者たちが、他者を残虐に侵略し数百億の人命を数字として使い捨ててきた歴史を、わたしはこの目で見、この身で経験した。そのような指導者は、どれほど深く地を掘ろうとわが艦隊から逃げきれたことはない。
わたしを虐殺者にさせないでくれ。一般市民に告ぐ、わたしが攻撃するとしたら、諸君の指導者たちが諸君を見捨てたからである。
われらが先祖に名誉あれ。アライアンス艦隊司令 ジョン・ギアリー大佐」

「一人の少女、そのご家族、そして救命艇のパイロット。五人の張り裂けた胸、佐渡医師の汗は、そのままわれらの怒りだ。絶対に二度と繰り返すな、この手をまた血で汚すこともいといはしない。
波動砲試射の命令受容、発射準備完了、十分後に発射する。当星系内の、着弾点から星の影でない者は可能な限りの放射線防護をせよ。ハイドロコスモジェン砲で太陽を超新星化させる準備も完了している。
宇宙戦艦ヤマト艦長 古代進

「抵抗は無意味よ。
USSボイジャー艦長 キャサリン・ジェインウェイ

「住人がいる星に武器を向けるとは、エオニアの同類になってしまうなんて、悪夢であってほしい。
でも、君たちは、治療を担当した大切なクルー、ヴァニラ・Hとケーラの心を深く深く傷つけた。
クロノ・ブレイク・キャノンの点検は万全だ。どうか使わせないでくれ。
元々点検は当然だろう?
エルシオール艦長 タクト・マイヤーズ

「恥を知るがよい!存在自体目障りじゃ。
ラアルゴンは慈悲深い戦友たちとは違う。我ら全軍、そなたたち全員闘神アードラの生贄と捧げたくてうずうずしておる。
友のたっての願いで、ただ一度だけ我慢しているが、それもどれだけもつか……
ゴザ16世 アザリン

「『正義と惑星殲滅の間に、境界線なんかありゃせん』われらが時空の歴史における偉大なる英雄、ピョートル・ピエール・ヴォルコシガン卿の言葉を引用して挨拶とする。
われらの低温治療スタッフの尽力で奇跡的に助かった少女の、悲しみと怒りはわれら全員が共有している。
以前の戦いで、シャトルの斜路に欠陥があり大切な隊員がそれを蹴飛ばし、ともに落ちて戦死し多数の味方を救った。修理の際、メーカーを脅してその欠陥は改善させた。
厳しい宇宙では犠牲はつきものだが、それを当然とし、努力もせずに損益分岐点だと思考停止することは、われらは絶対に容認しない。
絶滅を選んでくれるのなら喜んで全力を尽くす、とネイスミス提督の伝言がある。
デンダリィ自由傭兵隊参謀長 カイ・タング准将」

「生きた人に武器を向けることが、こんなに平気だとは思わなかった。ずっと人が死なない戦争やってきたから、そのときどうなるか怖かった。
当然よね、あんたたちは人でなしだもの。コストでしかない命なら、何百回も七十億皆殺しにした《レイストーム》のセシリア住民よりなんてことない。ザッパーとブラスターの許可も取った。
TA-29 ヤマモト・ヨーコ

「『他に道はなかった』あの男はそう言った、それはロングナイフ家伝統の言葉。わたしも、わたしの家族たちも、その言葉で多くの人を死に追いやってきた。
あの時は確かに、あの男にとっても船長にとっても、他に道はなかった。でも、その前にも後にも、あの男や船長に、そしてあなたたち同胞全員に、できることはたくさんあったし、ある。
重力の方程式は変えられない。でも点検マニュアルは変えられる。あなたたちは、どちらも変えられないと思いこみ、考えることを拒んでいる。
そうして、生命を数字に変え、ただの悪夢とすることであなたたちは、二度殺した。肉体を真空に投棄しただけでなく、再発防止を考えず教訓を忘却に沈めることで、少女のもうひとつの生命を人間全体のつながりから放り出した。それは許せない罪。
わたしたちはいつだって、どれほど痛くても思い出し考える。忘れない、忘れるのは二度殺すことだから。どうすればあの言葉を言う前に防げたか。どうすればあの言葉を口に出す前に防げるか。そのためにできることは何でもして、それでも言う言葉。
あなたたちに『他に道はない』という言葉を口にする資格は、ロングナイフ家の犠牲者すべての名にかけてない。
『他に道はない』という言葉を、思考停止、何もしない言い訳のために使う人間をわたしは、ロングナイフ家の名にかけて決して許さない。誘拐犯より容赦しない。
クリス・ロングナイフ大尉」

「宇宙航行者にとって何より重要な救命艇の点検を怠ることを、コストの美名で常としておる汝らに、星海を航く資格も誇りもない。
スポールがおれば、よりふさわしき言葉を投げたであろ。アブリアルは、口より武器じゃ。
アブリアル・ネイ=ドゥブレスク・パリューニュ子爵(ベール・パリュン)・ラフィール

「宇宙生活者仲間、ラフィールの言葉と同じだ。
クラッシャージョウ

「本来はこのような内政干渉は許されないが、これほどの怒りが艦隊で共有されたことはない。
これを見逃せば、人ではない。
ハガネ艦長 テツヤ・オノデラ

「宇宙において犠牲はつきもの。だが、欠陥が判明すれば改善に知力を尽くすのが知的生命体というもの。
怠る者に、大宇宙に拡がり生き続ける資格などない。
太陽系帝国大執政官 ペリー・ローダン

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