オデュッセウス〜「逆襲のシャア」の後日談〜
「逆襲のシャア」にて、アクシスを押し返したときの謎の光の余波ではるか彼方の、宇宙世紀と同じ宇宙かもわからない…単に星座、銀河配置などから、地球、銀河系近傍ではありえないとわかる程度…のどこかでアムロ、シャア、アクシスを押し返すのに協力したMS乗りが主を失った艦に救助された。暫定的にシャアを艦長とし、あまりにも遠い地球への帰還の旅が始まるが…
オデュッセウス
平行宇宙、遠未来の地球人を由来とする銀河帝国が、時空を超えた遠宇宙に進出した…そのときに試みられた無数の冒険の一つ、なぜか乗員が死滅した中型の探検植民戦闘母艦。だから「人類」が使用することもできた。
内部にはそれ自体が超粒子の対消滅、対生成をビットとしたコンピューター&(事実上無限)エネルギー供給の超空間へのゲートと、単純に物理的なスペースを確保するための固定空間につながるゲートの二種類の複素時空ゲートがある。実際の「内部」容積は月ぐらいあって各種施設や多目的全自動合成工場があり、「ロッテリアから巡洋艦まで」自動生産できる。
高性能のレーダーを持ち、物質転送装置でMSを敵の懐に転送できる。
一つの小宇宙をコンピューターにしたシステムとサイコフレームの直結により、ニュータイプならば一人で操縦可能。
武装
テラ粒子砲
複素時空魚雷
転移ブラックホール爆雷
複素時空烈風砲
搭載ユニット
RX-909 Fガンダム
テラ粒子ライフル
ファンネル
虚特異線サーベル
ブラックホールバズーカ
MSZ-019 ホープガンダム
ユニットクラス:大型合体可変MS
テラ粒子砲
複素時空魚雷(変形しデンドロビウムというかミーティアというか小型駆逐艦とくっついたとき)
ファンネル
虚特異線サーベル
ブラックホールバズーカ
「こ、ここは…ララァ?」
アムロが目覚めたのは、ごく簡素な病院の個室に似た場だった。どんな夢を見ていたのか、ララァの声が耳に残っている。
見回すと全て壁に作りつけのベッド、机と椅子、応接セット。地球程度の重力も感じる。
窓もディスプレイも明かりも見られないが、部屋自体がぼんやりとあかるい。
「おれは死んだ…のか?」
ふと、手を見て、少しつねってみた。痛い。
「アクシスを押して…押し出した覚えがある、光に包まれて」
つい今しがたまでの死闘が思い出され、すさまじいショックに体が包まれる…が、何度も経験しているだけに立ち直りも早い。数回慟哭に身を任せた後、制御してとにかく深呼吸…枕元の小机に用意されていた水を飲む。
ベッドから降りる。体のどこにも異常はない。
「ここはどこなんだ?ラー・カイラムではない。あの世か?」
心に、錯綜した情報が入ってきて、ふらりとベッドの手すりに手をついた。やはり多くの違和感を感じる。
自分が裸であることに気がつき、近くの壁にクロゼットになっているところを感じたので空けてみた…
「な、なんだ?」
そこには最後に自分が着ていたノーマルスーツだけでなく、何十着も旧世紀の様々な時代の服が並んでいた。
「これも…これも、ぴったりだ。これは…インドの、これは日本の…どうなっているんだ?見たこともない服もあるぞ」
ごくっと唾を飲み、念のためノーマルスーツに着替えて銃を身につけ、外に出てみた。
いくつか、似たような病室が並んでいる。
「病院?助かって、地球で入院していたのか?」
そう思いたいが、違和感のほうが強い。
そこで肩を叩かれ、振り向いて銃を抜こうとしたが…手を止めた。
「シャア!」
また、一気に様々な想念と疑念が爆発する。
目の前にいるのは素顔で背広姿のシャア…だが、微妙に違和感がある。
「シャアか?」
「アムロだな、しかし…」
シャアにも戸惑いがあるようだ…いや、違和感は…
「何か手術を受けたのか?」
自分がア・バオア・クーでつけた眉間の傷がない。そして全体の年齢も、最近殴りあった時より若く見える。
「そのようだな。多分全身焼けただれていたんだろう。貴様だって同じだぞ」
と、手鏡を出して突きつけた。
それが一番大きな衝撃だった…少し前の自分がそこにいた。そういえば、シャアと同時についた自分の、肩の傷もなかった。
「ここは、どこなんだ?地球だったら、貴様がこうして外を歩いているはずがない」
「ごあいさつだな。私もつい今、ここで目覚めたばかりだ。どうする…早速殺りあうか?」
「…それは後回しだ、まずここがどこか確認しないと」
「地球でないことは確かだ」
「何?」
自分も薄々わかっていることを確認され、怒りがまず出る。
「じゃあどこだ!」
「知らん。誰にもまだ会っていない」
いくつかの個室をノックしてみたが、どの部屋も一瞬ばたばたし、「少し待ってください」とぼやけた声がかかる。
廊下の突き当たりには大きな部屋があった。
「なんだ?」
非常に機能的な椅子が並んでいるが、地球では見覚えがない様式と素材だ。
「わかっているんじゃないか?」
「わかってはいても、認められないこともある」
「それはわかっているというんだ、ニュータイプのくせに愚かだな」
隅に何種類かのドリンクサーバーにグラス、チーズやドライフルーツ、ナッツ、パンなどが積んである。乾杯はせず一杯ずつ飲んだ。
「よ、いいもんがあるじゃねぇか」
懐かしい声に、アムロは自然に「一杯飲むか…」注ごうとして、凍りついた。
「カイ!」
「なんでこんなところでお目にかかるんかねぇ、アムロ。とにかく一杯。オレもわけわかんねぇんだ」
カイ・シデンがそこにいた。
「なんでここに…いや、そう、覚えている最後は何をやった?」
「ん、ごく…うめぇ…おれか?ジャーナリストとして特ダネ狙って、古いMSをちょっとアレして戦場を撮影してたら、おまえがバカやってたの手伝って、そこで起きた」
と、ナッツをつかんでほおばりながら後ろの病棟通路を指差す。
三々五々、ざわつきながら見覚えがある人や見覚えのない人が集まってくる…
「大佐!」
明るい声と同時に、弾丸のように一人の少女がシャアに抱きついてきた。
「クェス!無事だったのか」
「う、ううん…」
激しい恐怖がその目にある。
「落ちついて、話してごらん」
と、アムロがホットミルクを差し出すと、それを夢中で飲んで…熱さにむせ、じたばた…
そのアムロに、背中から抱きついてきたぬくもりがあった。
振り向くと、そこには…
「チェーン!」
激しく抱き合い、熱く口づけをかわす。
「無事だったのか…戦場で、キミを感じていた…」
「ち、あの…え!」チェーンがやっとホットミルクを飲み干したクェスを見ると、激しい恐怖に硬直した。「なぜあなたが!」
「…っ!」
クェスがとまどい…というにはあまりに激しい…をとりあえず憎悪にし、コップを床に叩きつけて…割れなかった…チェーンをにらみ返す。
「一体?」
「…報告します」と、チェーンが胸を波打たせ、心を落ち着かせるために軍の言葉使いに戻り、「私は、あなたに…ああ」もう一度深呼吸し、「失礼しました、研究用のサイコフレーム試料を届けるため、リ・ガズィを修理して発進しました。その途中で、MSで戦場に出ていたハサウェイ・ノアを発見、救助に向かいました。そこでハサウェイが巨大なモビルアーマー」
「α・アジール」
とクェスが、つぶやくように。
「そうね、やっぱりあなたなのね?」
「そう、ハサウェイが寄って来て色々話してきて、あんたがきて…あたしを撃った、それでとっさにハサウェイをかばって…αは爆発した…はず…」
クェスの声が、なまなましい死の恐怖に震える。
「その通りです。直後、怒ったハサウェイが私のリ・ガズィを撃破しました。私の記憶はそれが最後で、気がついたら…そこの、病室に」
「そうだったのか…やはり、ここは天国なのか?」
「だったら私がここにいるはずがないだろう」
「震えている…シャア、何か…シャア?」
チェーンを抱きしめたアムロが見ると、シャアが、一隅を見てショックに呆然としていた…その表情に一瞬、期待と恐怖が爆発し、その視線の先を見た…
「アルテイシア!」
「兄さん…」
違い、セイラ・マスがいた。アムロの全身が、冷や汗でぐっしょりぬれているのがわかる。
アムロは控えめに抱き合う二人を見、嬉しさに手を出そうとしたがやめて、チェーンを座らせて飲み物を用意した。
「兄さん、なぜ…ハヤトの言うとおりにしてくれなかったの…」
「ハヤト・コバヤシか…彼は立派だった。彼のいったとおり、地球で民主的に政権を取るべきだったかもしれない。だが…私は愚民を信じられな…かった」
「ばか…にいさんのばか!」
カイが、シャアの胸で泣き崩れるセイラの頭に手を置き、
「セイラは、シャアを止めようとして無理やり軍にもぐりこんだ…アクシスを押すのを手伝ったんだよ、な?あと」
と、カイが周囲を見回した。
そこで「クェス!」と、ギュネイ・ガスが彼女の手にすがりついたのがかすかに見えた。
それでクェスから解放され、セイラを座らせたシャアが、知っている部下を数人探して一人一人に声をかけていた。
が、彼が一人の、連邦パイロットを見て凍りついた。周囲の、シャアの部下もだ。
「な、なぜあなたが!」
「え!」
シャア以上に、セイラとカイが驚いていた。
「君は…」
アムロやチェーンには見覚えが、ないようで…ある…
「どうしたの、なぜジオンのみんながあの子にあんな反応を」
チェーンがつぶやく。
「ミ・ミネバ様…」
声が口々にもれた。
「ミネバ?どうして」
そこにいたのは、アムロはジオンのプロパガンダで見たことがある…後に自分たちが殺したと知った…ガルマ・ザビによく似た、ごく若い美女だった。幼い頃の彼女を、何かで見た覚えもあるような気がする。
だが、アムロにはふと違和感があった。
「ミネバ・ラオ・ザビ?で、でも君は…」
「認識番号86486537.ロンド・ベル、ラー・チャター所属ビーズ・ミネ少尉です、アムロ隊長」
その幼いのに複雑な笑顔、敬礼前の微妙な仕草、強い気配には覚えがあった。
「そうだ、君の気配は…訓練の模擬戦でずば抜けた素質を感じた、違和感も…あれは、…そうか、ザビ家の気配だったのか、ソロモンで感じた!でも、顔がぜんぜん違う」
「私の傷と同じ、ということか?」
シャアがつぶやく。
「ああ、そういうことでしょうか。私はあの戦いの後身分を隠して地球に脱出し、その後…いろいろあって」
「わたしが引き取ったの」
と、セイラがミネバの肩を抱いた。
「同じような立場だから…彼女のたっての希望で、整形してロンド・ベルに送ったはずなんだけど」
「私は最後にアクシスを押すのに参加し、機体がオーバーロードで自爆したのを覚えています。その時に整形された体の表面が失われ、遺伝子情報だけから…外見を再現したのでしょう」
「でも、まさか…そんな無茶な治療が、地球圏の技術でできるはずがない!」
「わからないの?ここは地球じゃないからよ」
クェスの声。
アムロはふと思い出した。確かミネバは、ドズル・ザビの娘だ…自分が殺した。あらためて、戦争の重さが胸を貫いてくる。知っていて、部下として素直に自分に従ってくれていたのか、あの時の表情や言葉…謝ることはできない…謝れるようなことではない。頭を下げるほかなかった。
「ここが地球じゃないなら、なんなんだ?」
見渡すと五十人ばかりの男女がいた。男性が三十、連邦側が…四十ぐらいか。
アムロは頭を集中し、多くの思念とは別に…この、船…そう、船だ…自分の脳?…あった…
壁に歩み寄ると、手を触れた。
「説明してくれ」
と、壁が一瞬で透けた…いや、特殊なディスプレイか…
そこには、数人の美女がいた。
「ラ…」
「ララァ!」
今度こそ、期待と恐怖が。アムロとシャアが声もなく叫ぶ。
「あんたがララァ?シャアはあたしのものよ!」
クェスが怒鳴った。
「あの人が…でも…」
チェーンが消え入るようにつぶやいた。
「ララァ…違う」
「ララァ・スンに、外見と気配はよく似ているが違う。それに君たちは?」
ララァの外見をした女性が口を開いた。
「私はパールヴァティ。本艦、オデュッセウスの指揮統制です…この言葉、古代北方ガリアの変種語、救助した機械にあった原始的な記憶装置にあった辞典の言葉で理解できますか?」
「ああ。ララァじゃないのか?」
彼女はシャアとアムロにとっては狂いそうなほどに、ララァに似た微笑を浮かべ、
「一つの意思と多くの力、ごく原始的な精神感応システムがあなたたちを、時空を越えて本艦のそばに送って来ました。あらゆる船舶の最優先義務として本艦はあなたがたを救助しました。あなたがたの遺伝子、蛋白質や量子角運動量方向などは本艦を建造した種族と一致していたため、再生治療は容易でした。
あなたたちを助けた意思の主、あなたたち二人の特に強かった記憶イメージを会話のためのアバターとして構成しました」
「なら、その姿でなくてもいいんだな?頼むから変えてくれ」
「そうだ、頼む」
「わかりました、では」
と、彼女が…普通の、よく見かける中東風の美女に姿を変える。
「つまり、オレたちは…ここは、宇宙船なんだな?地球のそばを飛んでいる?」
「どんな状態から治療したの?」
「はい、宇宙船です。ここは私たちの地球から八億光年ほど離れています。皆、乗っていた原始的な宇宙作業機が破壊されており、遺伝子と脳の人格記憶野が無事だった人のみクローンで再生させました」
あまりのことに、全員思考が止まった。
「ば、場所を確認してくれ。救助した残骸に、コンピューターの類があったろう?」
「はい」
「アクセスさせてくれ!」
シャアが言うと、シャアの目の前に床がせりあがり、操作器具が出てきた。
「早めに慣れてください、もうそれは必要ありません。治療時に最低限必要な生体内部品は埋めておきました」
「この周囲の星図…銀河間空間じゃないか、近くに小さな星団がある…え?」
「どうした、シャア?」
「クェーサー定点観測図を見てみろ」
「…あ!ちがう」
「どうやら、あなたがたの宇宙とはどこかで分かれた葉(シート)にあるようですね、ここは」
「シート?」
「複素数の対数関数の、複素平面が何枚も重なって、実軸マイナスの線だけでらせん状につながってるってアレ…なんか頭の中にイメージと数学概念が直接入ってきたぞ」
「どこまで飛ばされたんだ…」
「もう、地球には戻れないのか…」
皆呆然とした…
「で、ねぇちゃん」
と、カイの無遠慮な声が響いた。
「この船ってどれぐらいだ?おれたちみんな、当分食っていけるのか?」
「ご安心を、本艦の資源だけで一兆人は半永久的に生活できます。また、ご希望があれば最寄の居住可能星系にコロニーを作って降ろすこともできます」
「ならいいか、あと…」
「はい?」
「酒や料理の出し方教えてくれ。あと、カメラとレコ」
「はい、ラクシュミー」
立体映像の妖艶な美女が一人出てきて…立体映像とは思えないリアルさ…カイを連れ出した。
シャアが進み出ると、
「まず、この船の船長に会いたい。救助の礼を述べなければ」
「いません。本艦に生きた人間はいません」
「え?」
また、皆びっくりした。
「本艦は古地球年で七十三万八千五百六十二年前、小マゼラン・アショーカ第二十六帝国のアーナンダ侯爵が建造し、外宇宙探査、植民のために出発しました。本艦の航海記録には失われた部分が多くあり、その中の二十五万〜二十一万五千年前の欠損時以降乗員の記録がないため、その間に不明な理由で本艦は放棄されたと思われます。本艦はプログラムどおりランダムに航行しつつ、この周辺の星図作成と、居住可能星系のスターフォーミングを行っています」
「じゃあ、今のところ…この船に目的はないのか?」
アムロが目を輝かせた。
「はい。故郷帝国への帰還を禁じる以外、特別な命令は残されていません。計算小宇宙のみによる判断、行動は禁止されています」
「計算小宇宙?」
「はい」
と、中央の七歳前後の少女が答えた。
「私が、本艦の…皆さんのデータにあった言語を使うと、エンジンとコンピューターを担当するヘスティアです。
別次元の、一つの特殊な生成の仕方をした超高エネルギーの泡宇宙、宇宙のごく初期の火の玉宇宙に似た、特殊な宇宙をそのために生成してあります。
本艦は構造レベルでその小宇宙と常につながりを持ち、その宇宙での対消滅、対生成をビットとして計算を行うとともにそのエネルギーを得ています。あなた方の範疇から見ればエンジン、コンピューターとして無限といって差し支えないでしょう」
「この船はどんな形をしているんだ?大きさは?」
シャアが言うと、ディスプレイに大きな三面図と立体映像が浮かんだ。
長径二百二十キロに及び、ジャガイモ状小惑星に偽装されている。エンジンのようなものも見えない。皆その巨大さに驚嘆するとともに、一種の失望さえ感じたが、各ハッチ、甲板、砲塔類が開いたときの機能的な美しさにほっとした。
「ただし、ここのゲートから、純粋な物置となる空間につながっています。その容積は発祥地球の月の体積に匹敵しますし、必要があれば拡張できます」
パールヴァティが指し示した。
「装備は?」
くす、と左脇の、気が強い印象のギリシャ風…どこかでそんな彫像を見たことがある…の美女が微笑した。
「あんたたちの原始的な兵器とは、アリとあんたたちの差より離れてるわよ。あたしは戦闘担当のパラス=アテーネー」
「内部には工場もあり、様々な物を再現できます。
救助された残骸やそのデータと、私たちの原始時代の同様な、宇宙進出直後期と比較しても文化がかなり異なりますが、とりあえず、私たちの文明にある古代の記憶や、あなた方のデータから衣類と食料、生活設備をご用意しておきました。ご不満もあるかと思いますが、できるだけご希望に添わせていただきます。私は生活担当のラクシュミーと申します」
と、カイに色々説明していた女性。
「とりあえず、生きていくだけなら困らないようだな…」
と、シャアがつぶやいた。
「いや、オレたちの地球に帰るんだ!」
アムロが力強く言った。
「非常に困難です。あなたがたがどこから、多元宇宙を隔てる壁すら破って来たかもわかりません。
もちろん、該当する宇宙が発見できればそこの、任意の空間、時間に移動することは時間はかかるものの容易ですが、あなた方の故郷宇宙を発見し、その中からあなた方の故郷銀河を発見するにはどれだけの時間がかかるか見当もつきません。一つの宇宙であっても、観測可能範囲などは巨大な壁にライトが当たった部分程度でしかないのです」
「だったら、ここでずっと過ごすか?」
「あちこちに植民しても良いかもな、増えすぎたら」
「それとも、この艦を作った文明に接して助けてもらうか?」
「申し訳ありません、それだけは禁止されております。他にも説明することがあります。アムロさん、キャスバルさん」
「え?」
「うえ?」
ラクシュミーにいきなり本名を呼ばれたシャアがびっくりした。
「あなた方がいた操縦室の素材と同様な精神〜物質感応システムで、私たちの水準のものを改良してあなた方皆さんの新しい頭骨に埋めてあります。必要に応じて、あなたたちは思考だけでヘスティアにアクセスできます。他にも、皆さんの体には生活を補助するための人工物が色々内蔵されています。その大げさな宇宙服も銃も必要ありません、仮に真空に放り出しても平気です」
「ど、どうも」
「サイコフレームを、頭に直接?」
「勝手なことを…発狂しないか?」
とアムロが不安になり、見回したが、ふと気がついた。
「大丈夫だ。ここにいるのは全員、強かれ弱かれニュータイプだな」
「ニュータイプが選ばれて、ここに連れてこられたんじゃないの?」
「人類の革新は、成ってしまっているわけか…」
シャアがつぶやく。
「さて、それでこれからどうするんだ?」
アムロがシャアに話しかけた。
「もう、戦争なんて無意味だな…アムロが言ったとおり、協力して地球に帰るか?皆まず地球に帰りたいだろう?」
全員がためらいがちにうなずく。
「でも兄さん、あなたは…」
「帰ったら死刑だ。だがそれはかまわんよ、私は何人殺したか忘れているわけではない。ラサに落としたあれだけで億単位だろう…」
「一つだけ約束してくれ」
アムロが、銃に手をかけてシャアに。
「この艦なら、簡単に地球を破壊できる…だがそれはやるな、だろう?」
「そうだ!」
「私は地球を愛しているのだ。不安なら、そうだな…私は地球近くまで同行する、だが地球から比較的離れた星に植民地を作り、そこで暮らすさ」
「互いに攻撃しないという保証は?」
「同時に互いに、バカをやらないという抑止にもなる。では…双方軍としては解散し、今後は一致協力して地球を目指し、同時に希望者はその道上で好きな星があったらそこに植民することにしよう」
シャアの言葉に、あらためて皆が戦争が、軍歴が終わったことを感じ、衝撃を受けていた。
「パールヴァティ、協力いただけますか?それとも、どこかで同様の艦を建造することは」
「私の使命は人間の命令に従うことです。どうぞ本艦をご利用ください」
アムロはブルっと震えた。彼女たち…この艦には、無限の力と知能があるが意思はない。自分たち人間の、意志があるが故の責任の重さがのしかかる。
「で、オレたちのリーダーはだれにするんだ?」
皆が一瞬で固まった。
「ミネバ様?」
「そんな、こんな宇宙の果てのさらに彼方まで来て、ザビ家の亡霊はもう必要ありません!」
ミネバの表情は悲鳴に近かった。
「そうよ…兄さん、責任を取って」
セイラの一言に、シャアは一瞬苦悩を浮かべ、
「わかった。責任を取る…皆を地球に帰すため、全力で働こう。だがアムロ、私に勝ったおまえ」
「よしてくれ、オレは指導者なんてガラじゃない」
「そうだな、わかった…だが原則として民主的、いや皆ニュータイプだ、何事も即座に合意できよう…
じゃあみんな、乾杯しよう。これで軍としては解散だ…もう階級呼称も何も必要ない」
シャアの言葉に、皆…もう、この艦と新しい体、脳に慣れてきたのか、床がグラスを載せてせりあがる…
「母なる地球へ、乾杯!」
「乾杯!」
直後、アムロはクェスに話しかけた。
戦っているときとは違い、改まった姿勢で。
「あの…大変申し上げにくいことですが…」
「なに?」
つっけんどんな表情。チェーンがアムロといるからか。
「お父上が亡くなられたことを、ご報こ」
そこまで言ったとき、アムロもクェスも、瞬時に全てを悟った。
「まさか…あのとき!」
「ああ…」
アムロは猛烈な後悔に襲われた。
「どういうことですか?」
きくチェーンに、アムロは…クェスが彼女自身の父親を殺したことを告げた。
「ひどい…」
チェーンはクェスに手を差し伸べようとして、電気を浴びたように引っ込めた。
「べ、別に平気よ…あんなやつ、どうでも…」
言いながら、クェスの目には涙があふれている。
「あ、あれ、どうしちゃったんだろ、あたし…」
アムロは思わずクェスを抱きよせた。チェーンも手を添える。
「悪いのはシャアだ」
「誰が悪いわけでもないわ、わざとじゃないもの…」
が、クェスの体は固さを失っていない…心を開こうとはしていない。
「クェスを放せ!何をしたんだ!」
ギュネイがアムロを蹴飛ばそうとした。
「クェス」
「放っといてよ!みんな…みんなだいっきらい!」
クェスが飛び出そうとするのを、アムロが必死で抱きとめたが、己れの無力を痛感したように手を放した。
「なるほど、この船の主砲の原理は、メガ粒子砲に似ているのか」
「物理的には我々の方が高次で、コンピューターおよびエンジンとして使われている、別の宇宙に由来する高次複素物理量の量子を用いています」
「威力は?」
「光速の数倍の速度で飛び」
「数学的には、実物理の“飛ぶ”とは全然別だけどな。実時空で見れば、直線上の物質を完全に時空裂エネルギーに変え、連鎖反応で周囲も破壊する。時空歪曲シールドも通用しないよ。見てみな」
腕を組んだアテナがくいっと目を向けた方に、月の半分ぐらいある大きな岩塊がある。
「あの巨大放浪小惑星には生物の類はいません…標的演習に用いて大丈夫です」
と、別のアバターがさっと分析する。
「いまから射撃演習をする、危険はないので気にするな!」
アテナが全艦に叫ぶと、皆の目がそれに集まったのがわかる。
「いくよ」
無造作な一言、アテナが指差すと、それが閃光と共に爆発四散した。その破片も、一つ一つ瞬時に閃光の矢が刺さると爆光の中に消えていった。
「すげ…え…」
「うそ」
しばらく言葉を失ったアムロだが、
「発射間隔、信頼性、整備性、必要なエネルギーなどは?…このスペック表どおりなら恐ろしく早いな、弾のエネルギーをある意味液状のパックにできるのか…MSにはぴったりだし、泡宇宙エンジン直結なら連射もできる」
「射線上のずっと向こうに、不要な被害を与える恐れは?」
チェーンの問いに
「だいじょうぶ、この粒子は実時空には存在し得ないから、数光年で拡散消滅するよ」
「その面でもビーム砲に似ているんだ」
アムロが何か図面を書き始めていた。
「この船、シールドにはどんなのがあるの?」
チェーンがスペック表の検索を始める。
「複素数の時空に存在する風を衝撃波のようにし、それを利用するシールドで」
「それ、対空砲としても使えないか?」
アムロが顔も上げずにつぶやく。
「そうですね、確かに」
「表にあった、この…虚の特異線?」
「実時空にはブラックホールの線として出現するけど、最大で2kmぐらいしか安定しないよ」
「でも、何でも切れる線なんだろ?発振機は小型化できる?」
「できるよ。それはもう何でも切れるな」
「だったらサーベルにぴったりじゃないか」
「あと、主要な武器は…この魚雷と、一瞬大きく広がってかなりの範囲の物質をエネルギーに変えるブラックホール弾、どちらも座標を決めれば百光年ぐらいなら瞬時に転送できるんだな」
「はい。だから、観測者がいれば十分なんですよ」
……
この船のコンピューターのアバターと、アムロたちが話し込んでいた。
「とりあえず、おれたちのνガンダムにそのシステムを積んでみよう」
「無理ですよ、丸木舟に核融合エンジンを積む気ですか?」
「なんであんたら、そんな人間型にこだわるんだ?球形が一番効率いいんだよ!」
「作業機としても使えるからだ。第一、座標を超空間送信すればそこにミサイルを送ってくれるんだろう?こっちの火力は弱くても構わない、むしろ機動性優先だろ」
「索敵なら無人機でいい、作業だったらうちらの、シロアリをベースにしたののほうが性能はいいぞ」
「う〜ん…」
チェーンが苦笑してアムロに寄りかかり、
「とりあえずνガンダムを修理し、あれに乗せられる範囲で武装強化してパイロットの人数分生産しましょう。ここの技術を本当に応用した新しいガンダムは、それからでもいいでしょ?」
「そうだな。とりあえず頼めるか?」
「はい、それならすぐに」
と、アバターが余裕を見せて微笑む。
「チェーン、できれば監修してくれ」
「わかりました」
軽く微笑みを交わし、チェーンを残してアムロがブリッジに向かった。そこではシャアがゆっくりと宇宙を見ていた。
「アムロか?」
「ここの技術を理解するには、まだしばらくかかるな。クェスは?」
「だめだ…私にも心を閉ざしている」
「嘘ばかりついたからな」
「いうな」
ふ、と傷を押し隠して苦笑しあった。
「大人の士官はいるが、彼らの権威主義では彼女は反発するだけだ…逆に、オレのように甘いだけでも父親にはなれないし、おまえみたいに利用するだけの甘やかしのジゴロは論外、か」アムロがため息をついた。
「ずいぶんだな」
「事実だ。クェスに必要なのは父親、それもより大きく無条件に彼女を受け入れ、かつ厳しさを含む愛情なんだが」
「そんなの私だってほしいさ」
「オレだって。それでも生きていくほかないんだ。オレも、それでも親になるかもしれないんだから」
そのとき、突然ブリッジに警報が響く。
「三光年ばかり離れた、本艦の航跡上に時空の裂け目が発生しています。超光速航行の余波に反応した模様、そこから何かが転移、実体化しています」
「超光速観測…分析完了、大破した大型戦艦、生命反応があります。人間型です」
「一つだけか?」
シャアが叫んだ。
「船舶の義務として、救助しなければなりません」
「もちろんだ」
「ちょっと見て!別に…無人の艦がいくつか出現して…あ、こっちに向かってくるよ」
軍服姿のアテナが飛び込んできた。いつも以上にりりしい印象で、皆一瞬目を奪われる。
「人格はない、残された悪意だ」
アムロが目を閉じた。
「そりゃまあ、本艦はよその宇宙の敵味方識別信号なんて出してないからなあ…」
「別の戦争には介入しないのが原則ですが、どうしますか、シャア?」
パールバティーはあくまで冷静である。
「もちろん無人艦を殲滅し、要救助者を助ける!」
「ただ、本艦の武装は強力すぎて、ここから無人艦を攻撃したら余波で人がいる艦も吹っ飛ぶよ」
アテナの額に、冷や汗一筋。
「じゃあ、我々がMSで出る!アムロ、確かいくつか修理していたな?」
「緊急だし、それが最善だと思う。軽武装の無人戦闘艇はこれまで必要じゃなかった」
オデュッセウスはあくまで戦艦ではなく、探検・移民が主目的である…わざわざ敵がいるところを訪れて征服する必要はない、無人の居住可能星系はいくらでもある。
まず遠くから先に敵を発見して避ける、それでも攻撃されれば二度と自分に手を出さないよう大打撃を与え、追われないように長距離をランダムの全速で跳ぶ、という行動プログラムが合理的であった。だから本体に高性能センサーと足の速さ、重装甲と大火力があればそれで十分なのだ。
「OK、今回はロンド・ベル中心で行く。シャアは残っていてくれ」
「おれたちも!」
と、ギュネイと…おもやつれしたクェスが、それぞれ激しい感情をむき出しにして迫った。が、
「子供はいらない。戦争のルールを守れない奴や、自分を制御できない奴は使わない」
アムロは言い捨て、ドックに走った。
「準備はできています、すぐ指定座標に強制転送できます」
「装甲はこっちの超金属を使ったけど、あんな原始的な船外作業機で戦えるのか?」
「まあ、あいつを見ていてくれ…本物のニュータイプ軍団だ」
シャアが静かに微笑んだ。
その横で、ギュネイとクェスが悔しさに震えていた…
「そうす…シャア、悔しくないんですか!オレたちも出させてください!」
「とにかく戦いたいの!戦ってなきゃ…おかしくなりそう…」
シャアはその二人を見て、アムロの「子供はいらない」一言が身に染みて…吹きだしそうになった。
アムロこそ戦略兵器レベルの戦果を挙げた、超子供、ニュータイプの草分けではないか。
それを再現しようとしたジオンとその系譜の、ニュータイプ研究や強化人間は誤っていたのだろうか…だが、それを誤りと認めるのは、アムロ自身を否定するに等しいのだ。才能のある子供を心技体智礼とも厳しく鍛え、人間として、よき士官として成熟させつつその戦闘力を引き出す…ララァもそうしていたら…シャリア・ブルの忠告も思い出す…
「それができていたら苦労はしないさ」
と、シャアはつぶやいてギュネイとクェスを自ら監視しつつ、警戒態勢をとった。
「νガンダム改、アムロ出ます!」
「同じく出ます」
「発進準備完了!ロンド・ベルの心意気を見せてやりましょう」
「カイ・シデン、νガンダムHWS改、行くぜ!」
「同じく、準備完了」
「リ・ガズィ改、セイラいきます」
アムロは左右のカイ、セイラの声に安心感を覚えながら、ふと懐かしさを感じた。
「転送装置よし、機関あっためて、突然敵のまんなかに出るわ」
「全自動汎用救命艇、準備よし!非武装だが防御は固いから、おとりに使ってくれ」
チェーンが心配そうに見ている。まさか、別の宇宙まで来て彼の出撃を見守るとは…
「了解。全員、ブラックホールバズーカや対消滅ミサイルは核ミサイル以上に破壊半径が大きいから注意!」
「了解!」
「アホか、自分までやられかねない武器積むなよ」
「無理矢理重火力型に改装したのはどこの誰よ、カイ」
カイとミネバのνガンダムHWSはνガンダムに追加装甲を施して火力を強化したものであり、チェーンの資料にあった計画から強引に建造したものだ。もちろん、ハイパーバズーカの中身は拡散ブラックホール弾であり、計画より多数積まれたサイコミュ誘導ミサイルは推進剤、炸薬共に核より強力な対消滅を用いている。
「いきます!シャア…信じる」
十機ほどの編隊が、デッキから飛び出したと同時に…弱く輝く空間に包まれ、消えうせた。
「あ…」
ふっと意識が戻った瞬間、サイコフレームを通じて至近距離に数十隻の艦艇をとらえた。確かに全部無人だ…なら遠慮はいらない。レーダーであらためて位置を確認し、
「セイラさん、ミノフスキー粒子戦闘濃度散布!」
「了解!」
「カイ、ビーズ…ミネバでいいか、援護頼む!」
「了解アムロ隊長、どちらでも結構です。お気遣いなく」
「懐かしいなあ、こんな感じでホワイトベースから出撃したな」
「カイ!…いない人も…」
カイのつぶやきをセイラがとがめた。
リュウやスレッガーはもちろんハヤトも、小さい三人組の一人だったカツさえこの世の人ではない。艦にブライトもミライもフラゥもいない。
(でも、今の艦にはチェーンがいる…ロンドベルの戦友もいる)
「死なないことだなっ!これ以上一人も欠けず、地球に帰ってブライトさんたちに会うんだ!」
「あたぼうよ!」
「もちろん!」
いうや呼吸でセイラが突っ込み、対空機銃の弾幕をひきつけてそのわずかな隙間にアムロが機体をねじ込み一撃離脱、カイが重火力で援護。次の瞬間もうアムロのフィン・ファンネルと反転離脱したセイラが別の艦を襲い、あとからカイとアムロの対消滅ミサイルが一気に加速する。
「すごい」
ロンド・ベルの連中が、伝説のコンビネーションに呆れる間もなく戦艦が二つ火球と化した。
「こっち!」
アムロの誘導に従い、ロンド・ベルも散開してそれぞれの敵を認識、フィン・ファンネルを放出した。全員ニュータイプの素質があり、しかも頭蓋骨を初め体にサイコフレームのより高度なものを埋め込まれ、別次元の超コンピューターと直結されている。苦労はなかった。
「い…っけぇっ!」
「きっちりファンネルでシールド張れよ、ミネバ!左編隊を援護して」
「敵戦闘機きます、無人機です!」
「左右から挟め!」
アムロが右に、ファンネルを数基向かわせる。セイラがその陣を横切り、敵を数機撃墜してひねりを利かせた。
「速い」
セイラのリ・ガズィ改が、サイコフレームを積んでエンジンを強化したのに振り切れない。スピードの桁が違う…光速の何%という領域だ。
被弾した翼シールドを放棄、人型に変形する瞬間の減速を活かし、追い抜かせて二機瞬時に撃墜したが、すぐ数機が、有人機には不可能な機動で反転する。
「セイラさん!」
間一髪、アムロのファンネルがシールドを張って敵弾を防いだ。
「ふう…」
ブリッジのシャアがうめいた。
「補充のフィン・ファンネルができました、百基ほど転送準備完了」
「よしチェーン、やってくれ。行ったぞ、うまく配分しろアムロ!」
「受け取りました、ありがとう!」
見る見るうちに敵が半減する…アムロは編隊と数十基のフィン・ファンネルを手足のように使った。ミノフスキー粒子でレーダーや誘導ミサイルが潰されたのも、無人で新しい事態に対応できない敵艦を戸惑わせたようだ。まずファンネルでセンサーや砲塔を潰し、エンジンなどに対消滅ミサイルを撃ちこんで葬る。
また、敵の戦艦など大物はMSを戦闘機としか認識せず、非武装の大型救命艇やダミー艦に主な火力を集中している。それは反撃こそしないが、紫に輝く球形フィールドがどんな攻撃も吸収している。
「アムロも大きくなったわね」
「まったくだ」
軽口を叩きながら、セイラとカイがアムロの両手のように無人艦を撃沈していく。セイラの大胆な機動は変形したリ・ガズィ改でも変わらず、カイの弾幕を張るタイミングと狙撃の腕は錆びついていなかった。ミネバも遠距離で援護しつつ、卓越したニュータイプ能力を活かし多数のファンネルを操っている。
戦線が安定したら、アムロ自身は主にファンネルのシールドや狙撃で味方をフォローするだけでよかった。
「しかしあいつら、装甲固いし火力も強いな…ビームライフルがあまり効いていない」
「オレたちの世界の戦艦よりつおい」
「プログラムどおりの動きしかしない無人の敵で助かったな」
「新しい装甲板や…っと、このブラックホールバズーカがなかったら勝てない敵ですね」
ミネバが特大の弾を撃ちこむと一瞬虚無の球が広がり、次の瞬間新装甲でなければ危険なほどの爆発が起き、敵艦が消滅した。
「やっぱり、オデュッセウスの技術を理解してちゃんとしたMSを作ったほうがいい」
アムロがつぶやき、敵機を数機一瞬で倒した。
最後の一隻がカイに蜂の巣にされ、アムロのビームサーベルに全ての武装を破壊されて動きを止めると、素早く救命艇が生命反応のある大破した戦艦に向かった。
「ひどい…」
「リベ…シ…ン?」
「ひどくやられているな」
「リベラシオン、か?」
「誰かいますか!救助に来ました」
「後は任せて!」
後ろからの声、気がつくとオデュッセウスの、こうして見ると恐ろしいほどの巨体が迫っていた。
「全機無事着艦。損失、大きな損傷はありません」
「要救助者もなんとか再生治療できたわ…艦のコンピューターやエンジンも無事。私たちから見ると遅れているけど超光速推進技術もあるし、あなたたちよりかなり上の文明よ。よかったら解析する?」
「もちろん」
うきうきとチェーンが飛んで行った。
「で、要救助者は?」
「もうすぐ意識を取り戻すわ。それほど怪我はなかったので、体内に最低限の生活に必要なシステムを埋めただけ。内臓は強化したけど、それほど若返ってもいないわ」
「迎えに行ってくれ、シャア。おれたちはガンダムのメンテと、早めにちゃんとしたMSを生産する準備に入る」
「私のも頼むぞ」
シャアが笑顔を見せた。
「何か注文は?赤く塗るのは当然として」
「う〜ん…まさか貴様に注文するとはな」
お互い苦笑する。
「前いっしょに戦ったことの方がおかしいよ」
「はは。指揮官用にセンサー、情報処理、通信能力を高く、あと格闘性能もできるだけ。可変はよしてくれ」
「わかった」
ブリッジに惑星連合軍少将の正装で現れたのは、好々爺の風情のどこかに剛いものを感じさせる初老の男だった。
「惑星連合軍少将イツァーク・ハイフェッツ。救助に感謝します」
「ようこそオデュッセウスへ、歓迎します。ご無事で何よりでした」
「あなた方は?」いくつかの質問で、彼がアムロたちの宇宙とも、このオデュッセウスが建造された宇宙とも微妙にずれた平行宇宙出身だが、同様に人間であることは判明していた。
「最近私たちも、どこの宇宙とも知れないここに飛ばされ、たまたま無人だったこの艦に助けられたのです」
シャアが少しばつが悪そうに、艦のアバターたちを紹介する。
「わしがここに飛ばされた理由は、リベラシオンの記憶装置に語らせるとしようか」
と、きまり悪そうに手を振ってハイフェッツは引っ込んだ。
リベラシオンと、わざと爆発させず無力化した無人艦から回収された記録は壮絶の一語だった。
ラアルゴン帝国の一公国であったアシュランの、惑星連合とラアルゴン双方を手玉に取った鮮やかな銀河統一…英雄、タイラーたちの反乱、苦闘…ハイフェッツ艦隊の、十倍の敵に奇襲されての奮戦。
そして最後にハイフェッツは身一つで敵のもっとも濃密なところに特攻して味方が逃れる血路を開き、部下を総員退艦させて限界を超えた暴走ワープを行い、同時に時空の狭間に引きずりこまれた無人艦のみならず、多数の敵を道連れにした…
この好々爺がそのような老鬼だとは、敵無人艦とリベラシオン双方の記録を見ても信じがたいほどだった。
「ハイフェッツ少将…」
知らず知らず、シャアさえも背筋を正していた。
「じいさんで結構、もう恥ずかしいだけじゃよ」
「はい、それで、あなたは今後どうしたいのでしょうか?」
「できることなら地球に帰りたい、タイラーの娘も抱いてやりかったしの」
ふ、と哀愁がその頬に漂った。
「我々も、なんとか自分たちの故郷銀河、地球を探しています。どうやらしょ…あなたの宇宙と我々の宇宙とも微妙に歴史がずれているようですが」
「ついでで結構、送ってくれると助かる」
「はい、喜んで」
「アムロ?」
「シャアか?ちょうど試作にかかるところなんだ。チェーン!フェーザーとメガ粒子砲の複合システムはうまく機能しそうかい?」
「はい、先にフェーザーで時空に通り道を作っておくと、メガ粒子の収束率がとても高くなります。威力も数百倍になります」
「それはいいな」
「ギガ粒子砲とでも呼びますか、テラ粒子砲ほどではないですが、普通のエネルギーで…あ、シャア…さん、どうぞこちらへ」
シャアがアムロとチェーンの、試作部品が山積みになっている工場に足を踏み入れた。
艦内とは思えない巨大工場である…天井がかすんで見えないほどだ。
「いや、ハイフェッツ老が来てくれたのは実に助かったよ」
「すばらしい方ですね、一度会いましたけど」
チェーンがコーヒーを淹れ、夢中でコンピューターと格闘しているアムロを見上げ「少し休憩にしましょう」と声をかけた。
アムロがふわっと着地すると、シャアが軽くため息をついた。
「貴様にはこれが一番楽しいようだな。皆の半分は、今のところ物質的な贅沢を楽しんでいる」
「アレはエゴなんだが…オレはあの頃にひどい目にあって飽きている」
一年戦争終戦後の軟禁時代、贅沢はできたが…あの生きながら腐る感じは思い出したくもない。
「私やアルテイシアも小さい頃は王子王女だったからな。ミネバ様もその愚かしさは身に染みている。皆そのうちに飽きるだろう」
「第一、他人との比較ができない豊かさなんて虚しいだけです」
チェーンが言うように、全員が事実上無限の富を持っている状態は、物欲の中にある権力欲が満たされないため無意味になる。
「まあこれも贅沢だ、こんな研究開発資金使い放題なんて。そういえばクェスは、責任は取ったのか?」
と、アムロがまたからかった。
「大丈夫だ、ハイフェッツ老のところに通いつめている。ギュネイもな」
「あいつも?」
ケーラを卑怯にも人質にとり、惨殺したギュネイ…アムロも、その無残な死体とアストナージの嘆きを見ているチェーンもまだそれを許してはいない。
彼は助けられてから何度かシミュレーターでアムロに勝負を挑んできたが、そのたびに手ひどく倒している。救助の際に強化が病気とみなされ“治療”されてしまったこともあり、彼の能力は相対的に低下している。本人は再強化を希望していたが、検討中だ。
「あの二人がなついている…将棋や囲碁、チェスを習っているんだ。あの人はその名人でね」
「優れた司令官であり、そして人事や補給では右に出るものはなく、軍に入る前は闇を含め金融業界の大物でもあった、多彩で実に大きな人です」
「ほう。量産型に可変機構は…カミーユは本当にすごい奴だったな」
「人の話を聞いているのか?」
「ああ」
シャアはまたため息をつくと、
「あの不安定だったギュネイが、この二カ月でどれほど変わったか知らないのか?クェスも信じられないほど素直になっている。度量の大きい大人が一人いるだけで、いろいろと変わるものだな」
「そうなのですか」
「そうだ!なんでこんなことが思いつかなかったんだ…変なことから思いつくもんだな、ありがとう」
と、またアムロがコンピューターと取り組んだ。
「やれやれ、アムロにとってはパイロットより、むしろMS技師の方が天職のようだな」
「ご存じなかったのですか?」
チェーンが呆れたような笑みを浮かべた。
「アムロのお父さん、テム・レイ氏はガンダム開発の中心人物だったそうです」
「じゃあガンダムは、父親そのものだったわけか、アムロにとって」
「そんなものですね。それも、かまってくれなかった父親…」
「チェーン、ちょっと来てくれ!シャア、そろそろ試作機を作れるぞ」
と、しばらくアムロとチェーンが仲良く頭を寄せ合ってコンピューターと格闘すると、自動工場から轟音が響き…ハンガーがラインの最後から出現し、表面を覆うナノマシンが吹き飛ばされた。
「とりあえず試作。RX-909…Fガンダム、とでもしておくか」
「F?何の頭文字だ?」
「それは秘密だ。どうかな…」
と、アムロが待ちきれないように飛び乗った。
トリコロールも鮮烈、原点であるRX-78によく似ている。サイズも同様だ。だが全体に有機的で優雅、曲面が多いデザインで板金鎧の騎士を思わせる。ランドセルは見られず、印象はスマートだが胸と背中の厚みがかなりある。
両腕の前腕部がかなり膨らんでおり、手の甲のほうに小さな砲門が見られる。足は膝から下がゲルググを思わせるほど大きい。
ハンガーには、AUGに似たとりまわしがよく砲身が長いライフル、バズーカ、太いペンを並べて箱詰めしたように大型のミサイルが数基格納されたシールドなどがかかる。
そして長さ5m、一番太いところで3mほどの、イルカを思わせる黒い流線型のものが十数機用意されている。
「サーベルは?」
シャアが聞くと、ガンダムの右手が上がって腕から、するっと懐中電灯のような棒がすべり出て拳に収まった。太いケーブルで手首とつながっている。
「これさ。ブラックホールに近い直線状の場を斬るときだけ形成する、この刃自体以外斬れないものはないし、落とすこともない」
サザビーとの激戦で、ビームサーベルを蹴り飛ばされた反省があるらしい。
「本体の武装は?」
「頭部にバルカンと高出力ガンマ線レーザー、胸部と両腕に根本的に改良したメガ粒子砲…ギガ粒子砲があります。
コンパクトですが威力はZZのハイメガキャノン以上で、高収束から拡散まで、ほぼ無限に連射できますよ。でも本体の武装は最低限、汎用性と観測、機動性重視です」
少し疲れた表情のチェーンだが、それが奇妙に充実していて魅力的だ。
「どれどれ、できたって?」
何人かのパイロットが見に来た。
「おお…まさにガンダムだ」
「ガンダムね」
「このイルカみたいなのは?」
「これが新しいファンネル。この艦にあった無人小型艇を改良した」
アムロは手足の細かな動きを確認している。
「防御は?」
「装甲自体が物質の限界を超えた、素粒子単位で特殊な場を形成し、仮にダメージを受けても再生できる生物に近い性質の素材ですし、脚のユニットだけでわたしたちの戦艦以上のIフィールドを形成できます」
「例の紫バリアもまず破りようがない。本体からもファンネルが作る面にも張れる」
「さて、そろそろ宇宙でテストしてみるよ。ちょうどここには、恒星系になり損ねた岩だらけの宙域もある」
と、アムロのFガンダムが動き出す。
ハッチが開き、宇宙にFガンダムが飛び出す。後を追ってファンネルたちが続き、瞬時に、まるで魚が群れて大きな魚を擬態するように一つの塊を作り、Fガンダムがそれにまたがるようにした。
と思うと、瞬時にガンダムが彗星のように、青黒い光粒を引きながら駆けた。
「美しい…まるで巨大な黒馬に乗った騎士のようだ」
ため息が漏れる。
「すごい加速」
「乗っているアムロは大丈夫なの?」
「あんな短時間に…え、ワープ?」
一瞬、光の波長が赤くなり、ガンダムの姿が消える。
次の瞬間、半光年は離れた標的宙域に…事前に観測ブイをおき、そこから超光速通信で見ている…無数の紫の蛍、それが青に光が移ると、Fガンダムの姿が現れた。
「もしかして、ガンダムに超光速移動ができるの?」
「もちろん。自力で光速の80%まで加速できますし、ハイフェッツさんの故郷の技術をコンパクトにしたのを搭載し、超光速移動も可能です。
小型化、強化したミノフスキー・ドライブもありますから、スラスターが外部に露出していなくても非常に機動性も高いです。
特殊なフィールドを用いて慣性も中和できますから、パイロットが死ぬような大Gでも平気ですよ」
Fガンダム自身からの映像も表示される。
ガンダムが光の馬から下りると、瞬時に馬が崩壊してイルカの群れに戻り、まるで鷹と猟犬の群れが獲物を探すように六つを残して飛び去った。
間もなくあちこちで爆発、同時に各ファンネルがとらえた映像も映る。
「そうか、ファンネルは本当は、遠隔索敵に用いるべきだったんだ」
「いや、ミノフスキー粒子下でファンネルのカメラ映像を受信するのは、われわれの地球の技術じゃ無理だった」
「しかし、恐ろしい威力だ…あんな小さいファンネルに、この艦の艦砲と同様のテラ粒子砲がな」
「苦労しましたから、あれのコンパクト化は」
チェーンが誇らしげに胸を張った。
「数学的な意味でもコンパクト化だったんですよ。少しファンネルとしては大きい代わりに、反物質ジェネレーターに高加速ミノフスキードライブとマイクロワープエンジン、多重シールド形成装置と小型テラ粒子銃、ギガ粒子砲を積んでいます」
Fガンダム自身は四つのファンネルで正四面体のシールドを張って自らを守りつつ、高速で動き回りながら小惑星を次々と狙撃している。両肩近くに置いた攻撃用ファンネルも、特に後方を正確に撃っている。
テラ粒子ライフルの威力は御存知の通りだ。アクシス級の小惑星が瞬時に光球となり、月サイズの彗星が四分五裂する。
「あれ?弾が切れた?」
両腕からのギガ粒子砲に切り替えたことに、皆がびくっとする。だがその両腕と胸からの閃光も、巨大な岩塊をあっさりと破壊できる威力はある。
「あんな小さい砲門で、なんて威力だ」
「メガ粒子砲の千倍はあるな」
「チェーン!マガジンを」
と、アムロからの連絡。
「はい、すぐ」
「テラ粒子ライフルは本体直結じゃないのか?弾数が少ないな」
「あれはエネルギーの質が違いますから…Fガンダムからの最充填には少し時間がかかります。マガジンを多数持っていくことはできますし、いつでも送れます」
チェーンが転送システムを操作し、マガジンがFガンダムの胸元に出現した。
素早くFガンダムがそれを受け取り、マガジンを交換するとまた急激に…光速の%単位に…加速し、その速度のまま小惑星群に飛び込んで間を縫いつついくつかを破壊して抜けた。
「危ない奴だな」
「見てられないわね」
と、セイラが目を覆ったチェーンの肩に手を載せた。
アムロは鮮やかに抜け、急停止すると、小惑星を熱いナイフでバターを切るように切り刻む。
「よし、手足、本体の追従性はこれ以上ない。肉体よりずっといいよ」
「アムロ、今度は本艦との連携をやってみる」
アテナが声をかけ、Fガンダムは素早く小惑星帯を抜けて大きくファンネルの網を広げた。
「位置を送信したら安全な距離をとって!」
「わかった」
「おい」ふとカイがつぶやいた、「あそことは半光年ぐらい離れてるんだろ?何でリアルタイムで通信できるんだ?」
「そういえば!」
「なんとかガンダムに納まるサイズで、ヘスティア、本艦のジェネレーターでもコンピューターでもある存在と、時空を越えて連結するシステムができたんですよ。
見えないケーブルでこの艦とつながっているようなものです。だから瞬時に通信もでき、エネルギーも計算もあの小さい機体で処理できる限度まで使えます」
チェーンが誇らしげに説明した。
「そうなると、我々ミノフスキー粒子が前提のシステムとは全く違うやりかたになるな」
シャアがつぶやき、何かコンソールでいじり始めた。
「座標送信、安全距離はとった」
「いくぜ!次からは声なし、そっちから発射指示をくれればいい」
と、ガンダムからかなり離れた小惑星を、虚空から“虚無”がのみこんだ。
「複素時空魚雷を、指定された座標に瞬時に転送できるんです」
「本艦からの観測では、どうしても誤差もあります。でもこうしてMSが至近距離から偵察してくれれば、より正確に撃ちこむことが可能です。このMSや小型無人機を用いることで、本館の戦闘能力ははるかに増すでしょう」
パールバティーが平静に告げ、「戦闘能力はそれほど必要ではなかったのですが」とつぶやいた。
「なるほど、MS自体の武装は格闘用だけでいいんだ」
「むしろ対空やセンサー機能を重視するべきかもしれないな」
わいわいがやがややっている中、アムロがまたワープして帰ってきた。
真っ先にチェーンが飛んでいく。
「おかえりなさい!ご無事で」
「ああ、ただいま」
Fガンダムから飛び降りると軽くチェーンの抱擁に応え、アムロは皆に微笑みかけた。
その頃にはもう、十数人の艦船要員、技師やハイフェッツを除くMS乗りが皆集まっていた。
「アムロ、チェーン、俺たちにも!」
「わたしにも作ってください」
「オレは重武装で狙撃重視、ファンネルはいらない」
「私は可変機にしてください」
「大型MAサイズでいいから、弾切れがないぐらいのを」
皆が口々に注文する。
「わかった、みんなで協力して一つ一つ作っていこう。贅沢な話だけど、一人一人ベースさえそろえればカスタムメイドでいいんだからな」
「前はエース用のカスタム機と、安い量産機でだいぶ差があったけどなぁ」
「そちらはわしに任せてもらおうか、一応補給などでは経験がある」
ハイフェッツが微笑み、全員の希望をすばやく組織化して処理し始めた。
それからのアムロとチェーンは大忙しだった。
二ヶ月ほどして、何人かの技師の協力もあり次々に希望者の専用機が生産され始めた。
「さて、じゃあ一度全員の機体をそろえてみるか」
シャアが大型の白色矮星に照らされた、無数の破片が散らばる空域で皆を整列させた。
シャアの機体はもちろん鮮血の真紅、全高24m近くある大型MS。ジオン流の優美な姿で両肩のアーマーと口に大型のギガ粒子砲を持ち、背中の十字架を負うように突き出た大型のアンテナが印象的だ。
槍に見まごう長い、黒く輝く銃剣がついたライフルを手にし、ファンネルの馬にまたがっている。
「見事だ、アムロ、チェーン」
「ご希望通りのデザインですが、これでよかったのですか?ずっと血と十字架を背負うつもりですか?」
「当然だろう」
「うぬぼれるな、貴様の罪は一人で負えるような代物ではないぞ」
アムロは、シャアを警戒するような位置にFガンダムをつけている。
「あのアンテナは、地に立つときに邪魔にならないの?」
「折りたためる」
カイの機体はちょどガンキャノンに似て、盾を持たず両肩に、それぞれ違う砲身が乗っている。
手にはシャアのに似ているがスコープが大きく銃剣を持たない、繊細な狙撃用ライフルを手にしている。
「これこれ、やっぱりガンキャノンで育ったからな」
「あの砲は?」
「右肩が大型の多目的望遠鏡、左肩が実体弾投射砲。光速の25%で、反物質やブラックホール弾など様々な砲弾を毎分百発は発射できる」
「ファンネルはないの?」
と、バカにしたようなチェーンの声。
「小型の観測専用がいっぱいあんだよ。スピードも速い。
オレはここでも、戦闘よりむしろジャーナリストの仕事をさせてもらうから、いいな、シャア」
「ああ、それが一番ありがたい」
セイラが選んだのは人間型全高約25mの、洗練された単純な変形機構をもつTMAである。上に伸ばした両腕に細長いシールドと右手の機関銃と左手の連発グレネードランチャー、背中からスライドするカバーがあわさって機首となり、脚が変形してエンジンつきの尾翼となる。そして八枚の厚い板状ファンネルが周囲に集まると二枚ずつ縦につながり、脇腹にはりついてX翼となる。飛行機型は全長30m近い、白鳥を思わせる優美な爆撃機だ。
「わがままいってごめんなさい、変形なんて無駄なのはわかってるけど…ありがとう」
「ワープ性能が高く高速での一撃離脱に向いており、変形すれば大気圏内や水中での機動性も高いはずです。お気に召しましたか?」
「はい、とても」
どうもチェーンとセイラの関係は微妙である…。
そして、特に一年戦争を経験したベテランが驚いた…伝説のビグ・ザムにそっくりなMAが出現した。だが背の巨大な可動砲塔、本体に収納でき姿勢制御スラスターと強力な対空機銃を兼ねる脚、サーベルがついた触手状の作業腕、後部の多数のファンネル収納部など違いも多く、死角はない。
「ミネバ様?」
「様はやめてください、と何度も言っています」
「ああ…忘れもしません、ビグ・ザムが私たちを守ってくれたおかげで、今こうして生きているのです」
「われわれの撤退をかばって、一人怒涛のような敵を食い止めてくださいました」
「わたしも、そのおかげで生きているのです!皆ドズル様を尊敬しております」
ジオン出身者が感泣し、
「スレッガー…」
セイラやアムロ、カイが唇をかみしめる。
「ああ、兄の艦が一撃で…」
震え上がる連邦のベテランも多かった。
「すみません、刺激するような機体を。私は父、ドズルの娘です、そのことは否定するべきではない、いや誇りを持っています。もちろん私は私、ザビ家の名にとらわれることはないつもりです。私はただ、皆さんとともに地球に無事に帰り、皆が幸せになるよう微力を尽くすだけです」
「ご立派です、お父上もさぞお喜びでしょう」
ミネバの言葉に、ジオン出身者がまた泣き出した。
「あの時の父の戦略も、増援を得られずソーラ・レイ・システムによる攻撃を予期できなかった、政治と情報の弱さは客観的にはミスでした。功罪ともに覚え、背負うつもりでいます」
「わかった…改めてよろしく頼む」
「こちらこそ、アムロ隊長」
「信じてるぞ、ビーズ」
ビーズであるとき、ロンド・ベルの一戦士としての自分が彼女にとってはいちばん気楽らしい。
「ありがとう、みんな」
「ハマーンに与えられた悪影響を取り除いてくれたんだな、ありがとうアルテイシア」
シャアがセイラに呼びかけた。
「彼女自身の力よ、兄さん」
「念のため聞くが、ザビ家への恨みなんかもうないよな?シャア」
アムロが聞いたのに、シャアは苦笑で応えた。
続いたのはサメを思わせる全長100m近い大型MA、クェスの機体だ。
「ラアルゴンの標準駆逐艦のシャシーを参照にさせてもらった」
ハイフェッツを追ってきた無人艦のデータからとられた。
「砲雷撃戦に優れ、多数のファンネルを運用できるわ」
チェーンもこのデザインを気に入っているようだ。
「すごく調子いいわ…ありがと。これならアムロにもシャアにも負けないわ」
「シミュレーションで試してみようか」
と、シャアがなだめると振り向いた。
「ギュネイ!私の後ろにいろ」
シャアが招いたのは、シャアの機体に似ているが背に負ったアンテナがなく、チェロを背負うように巨大で不ぞろいな三つの砲身を束ねた砲を背負う黄色いMSだ。
その機関砲は大型のバックパックとつながったまま、左腕と一体化された。同時に右手にはFN-P90に似た小型の銃を手にしている。
大きな…多数の…ファンネル馬にまたがり、いかにも凶悪な印象だが…明らかに何かが違う。
「その三つの砲身は?」
「大口径テラ粒子銃、ギガ粒子機関砲、実体弾投射機関砲」
「強力な支援機だが、格闘線でも強い」
(違う、別人じゃないのか?邪気ではない…)
アムロがふっといぶかしんだ。
他の皆はおおむね、Fガンダムの量産版で個性を出した機体にしている。
Zガンダムに似た速度重視の可変機、重装甲機、脚を外して背に大型砲をつけた機体などとても多様だった。
かなり大型のMAもいくつか見られる。
「さて、少し遊びで模擬戦をしてみるか…ギュネイとアムロ、久々にどうだ?」
「はい」
「おい…わかった、また叩き潰してやる」
「シミュレーションですよ、あくまで。測距レーザーでポイントするだけです」
とチェーンが釘を刺した。
「はい、ぉねがいします!」
ギュネイの機体が一礼したのに、アムロが驚いた。つい二カ月前は至極乱暴に突っかかってきたのに。
次の瞬間、ギュネイ機がファンネルごと大きくワープした。
(しまった、先手を取られた)
余波が本艦に及ぶ心配はないが、逆にかなり障害物が多い瓦礫小星雲。
(いた)
早速ファンネルを数機、そちらに飛ばす…安全なところで、カイが実況中継しているのもわかる。
「とらえた!」
ファンネルの一機が飛び込もうとしたが、動けない…六つのファンネルに、前後左右上下からはさまれ、シールドの面で閉じこめられている。
「くっ」
次の瞬間、アムロのファンネルをはさむファンネルが同時にワープエネルギーを放出、「あ」一瞬でアムロのファンネルが消滅した。
「どういうことだ、チェーン」
「ワープの余波が干渉し、空間ごと虚無に!」
「囲まれたらアウトってわけか…なら本体を直接!」
と、向かったそこは岩と暗黒雲にさえぎられる。勘で位置をつかみ、ダミーを放出して横っ飛びに逃れたところをレーザーが…
「うわぁっ!」
アムロが急制動をかけて間一髪かわし、ファンネルを向かわせながら接近戦を挑む。同時にいくつか、岩に爆薬を仕掛けるなど布石をかけ、
「とらえた!」
と切りかかったが、もうファンネルに囲まれ…
「くっ、囲まれてはいけない」
といくつかのファンネルを縦につなぎ、シールドで連結して逃れ道を作る…が、それが巨大な岩にぶちあたる!
「しまった!」
「まだまだ初級じゃな」
艦上から観戦しているハイフェッツが、手元の碁盤にもう一つ石を置いた。
「あれに引っかからない?」
布石としておいていた爆薬が、逆にレーザーで起爆されこちらの逃げ場をふさぐ。
ファンネルがまた三つ、同時に囲まれて消失した。
「右辺に陣ができ、あとは…もう勝負はあったな」
ハイフェッツがつぶやき、別の模擬戦にモニターを切り替えた。
なぜか、アムロは力が抜けるような敗北感を感じた。
「くそ…」
敵のファンネルを打ち落とそう、ファンネル同士一対一にしようとするが、敵MSに近いファンネルは集団で強力なシールドを張っており、遠くのファンネルは…事前に置かれていた敵のファンネルが応援に来て囲まれ、破壊されてしまう。
どれかを攻撃で破壊したら、その背後からまた一撃食らう。まるで…と金を取ったらその背後から桂馬が銀を取って成るようだ。
数発の無弾頭ミサイルをギガ粒子砲とサーベルで切り落とし、ファンネルとファンネルが相打ちになって、
(六発、やられる)
囲まれる直前小ワープで逃れた、そのちょうど背後にギュネイのMSがいた。振り下ろしたサーベルが、頭上一寸でぴたりと止まる。
「…参った」
「やった!五手前にもう詰んでいた、そうですよね?先生」
「これ、礼に始まり礼に終わるんじゃ」
「はい、すみません。ありがとうございました」
ハイフェッツにとがめられ、また礼儀正しく頭を下げるギュネイに、アムロの全身は冷や汗に濡れていた。
(信じられない、あれが…ちょっと布石でフェイントをかけたらあっさりやられたあいつか?こんな冷静に、何手も先を読んで…)
「アムロ、わかったか?」
シャアが連絡してきた。
「ああ…大したもんだ」
「開発者の貴様がわかっていなかったのか?このファンネル装備機同士の戦いは、囲碁と将棋をミックスしたようなものになるんだ。
貴様が工場でがたがたやっていた間に、特にギュネイとクェスはその特訓をしていたのさ」
「なにぃ?」
「貴様も習っておいたほうがいいぞ」
別のところでは、他のMS同士がファンネルで同じようなことをしている。単純なMSの操作や空間把握より、布石と読みが全ての戦いになっているらしい。
「あんなに人が変わるなんてな…どうやったんだ、ハイフェッツさんは」
ギュネイの礼儀正しさを思い出し、あらためてアムロは首を振った。
艦内では数カ月の時がたった頃、艦から全員に連絡が入った。
「一度探査し、住めるようにしておいた所がありますので補給もかねて寄ってみます。一度、地球ではありませんが地を踏んでみませんか?」
「もちろん!ありがたいです」
「哨戒用ファンネル回収します」
特にニュータイプ能力が高い数人が交代で、数百基のイルカ型ファンネルを艦の周りに飛ばして警戒態勢をとっている。
それが回収され、まず位置を記録したブラックホールに第三次転移する…既知のブラックホールまでは、数百万光年離れていても瞬時に転移できる。空港のようなものだ。
そこから時速八十光年ほどだが下が見えない第二次巡航速度で近くまで行き、あとは…この速度はMSでも出せる…光速の数百倍程度で周りが見える、第一次巡航速度で目標に接近する。
太陽より少し赤みがかったオレンジ色の主星が見えるところで、急速に光速以下に減速する。
「ふう、普通のゆっくりした航行のほうが落ちつくな」
「ゆっくりといってもわれわれの地球じゃ夢の速度なんだが」
シャアが肩をすくめた。
「おお、星だ」
「あれは…ダイソン球殻か!」
太陽は半分以上太い帯で覆われており、その帯の赤道部分には強い光を漏らす隙間がある。その外に緑に輝く惑星が三つある。
近づくと多数のコロニーも見られる。
「この星系を探査したのは十七万年程前です。先住者がいないことを確かめた後に自動自己増殖機械をいくつか投下して、太陽に近かったいくつかの巨大ガス惑星の資源を太陽電池リングとし、岩石大気惑星に光を供給できるように隙間も設けました。その惑星にも水などの資源を追加供給し、地球型の生物を育てています。あの第二惑星はもう、地上で生活できるはずです」
「太陽リングにも発祥地球陸地の数億倍、生態系・生活空間が準備されています、人工的な環境ですが」
あまりのスケールに、皆呆れてものも言えない。
「ああ…地球圏の余剰人口も、皆ここに連れてくれば誰も不満はないだろう。大陸を一家一家に配れるんじゃないか?」
「戻ったら募るか?」
「いや、そんな簡単じゃない。地球から捨てられた、という意識が問題なんだ。ここに送られるのはこれ以上ないほど捨てられるってことだ」
「ハイフェッツ少将、あなたの故郷ではこのようなことは?」
「時間もコストもかかりすぎる、住める惑星の開発しかしておらん。だからわしのところも戦争が絶えないんじゃよ」
「どこに着陸しますか?」
「ああ、じゃあその第二惑星に」
「はい」
実にスムーズに着陸すると、そこには手つかずの巨大な森が広がっていた。
「すっごーい!」
クェスが叫んで飛び出し、まず宙返りをした。
「本当の重力は久々だな」
シャアが石を放り投げ、放物線を見守った。
「あたしは重力なんて大っ嫌い!重力に縛られているから人間はわかりあえないんだ」
「そんなことはないぞ。宇宙に出ても人間は戦うことをやめられはしなかった」
「君の家族の問題は、重力などとは関係ない」
シャアとアムロが答えるとかなりむきになり、
「それは、宇宙に出て間がなかったから!あれがうまくいって、地球から人類が切り離されていたら」
「それはエゴだよ!どんな理由があろうと、人間をたくさん殺していいはずはない」
強く言い返すアムロに、シャアたちが少し苦笑した。
「ここの生態系は?」
「この地域はあなた方の言葉で言えば、人類による破壊が起きる前のトルコ周辺の生態系を再現しています。ただし十数万年気象を安定させた状態で放置していますから、多少種の進化は起きています」
「こちらが学ぶべきなのかもしれないな、そちらの言葉を」
「お気に障りましたか、『あなた方の言葉で言えば』ということに」
「いや、気にしないでくれ」
皆ひとしきりキャンプやハンティングを楽しみ、
「どうする?」
と、ふとアムロがつぶやいた。
何がどうなのか、いうまでもない。このまま危険な故郷地球探索の旅を続けるか、それともここを第二の地球とするか。
「決めたじゃないか、地球に帰る、と」
「そうだな…ここには、地球に帰ってから志願者を募るとしよう。念のため、受精卵データベースに我々の遺伝子も登録しておいてほしい」
「かしこまりました」
「じゃあ、もっと遊んでいこうよ!」
クェスたち若い連中が、楽しげに森の奥にかけていく。
旅を再開して間もなく、何人かのニュータイプが警告を発した。
「逃げ、いや戦わなければ…あれは、あれは邪悪だ!」
「こわいっ…」
アムロとクェスがおびえたようにつぶやく。
「あれはバーサーカーです!」
「バーサーカー?」
「星間戦争で作られた悪魔の最終兵器、あらゆる宇宙に移動し、無限に進化、自己増殖しながらあらゆる生命を滅ぼす怪物…」
「分析完了、彼らはバクテリアンと名乗っています。起源を説明する必要はありますか?」
「どこのバカだそんなの作ったのは!」
「オレたちだって作れたら作りかねないよ」
と、シャアが肩をすくめるのに、「それはエゴだよ!」とアムロがかみついた。
「わたしたちはいくつもの星間帝国に分かれており、その中には…いくつも、バカがいます」
「だから、文明自体がr戦略、魚や昆虫みたいに多産多死にするしかないんだ。とにかくあちこちに植民船を送り、故郷との連絡を絶って新天地を作る。それが何万何億とあれば、多くが滅ぼされても生き残るものも多い」
アテナが不満そうにはき捨てた。
「この距離では逃げ切れない!反撃する」
「オレたちも出る!」
「…おねがいします、今の戦闘機なら戦力になるはずです」
「ハイフェッツ少将、指揮統制をお願いします」
「…よかろう。全機発進、攻撃用意!アテナ、どちらが最終指揮をとる?」
「本艦はいる場合には人間に従属しなければならない…任せた」
「よし。戦闘準備急げ!」
「完了しています」
画面のチェーンが微笑む。
「くる!」
画面のいくつかの光点…数光年先の、ファンネルたちが観測網に何かが引っかかる。
それはまばゆい輝きを伴う、人口太陽とその周囲の多数の巨大要塞…そこから、次々に巨大な戦艦や、まるで人体の顕微鏡映像に出るような触手を伸ばす細胞が出現する。
「ブルー小隊は本艦を守れ、レッドは敵本体の情報収集!グリーンは待機せよ!」
「了解!」
ジオンのベテラン将校を中心にミネバやロンド・ベルの若手が混ざった隊、
「承知」
シャアを中心にカイ・セイラが出向した混成隊、
「了解しました」
アムロが逆にクェス、ギュネイらとロンド・ベルのベテランを率いた隊…
それまでの恨みつらみを残さない人事で、十分に訓練で練られている。
艦に残ったメンバーが緊張して待つ中、突然ワープアウトの兆候。
「タイミングをずらせ!」
アムロの叫びが全軍に…その直感をハイフェッツが処理し、戦術プログラムを手早く変更する。
その直感どおり、ワープアウトの瞬間敵はものすごい弾幕を一瞬張ってきた。
それを回避し、いっせいに反撃が突き刺さる。
オデュッセウスに巻きつこうとする触手を次々にサーベルが切り払い、急所にギガ粒子砲を連発で叩き込む。
本艦の後部に仁王立ちした、ビグ・ザムそっくりのMAが弾幕を張り、火の鳥のようなエネルギー生命体や小さな戦闘機を次々に粉砕する。
「ドズル様、いえ失礼しましたミネバ様…失礼しました、ビーズさん、こちらから敵機が来ます。援護お願いします」
「はいっ!名前は気にしなくていいですよ」
その頃、シャアとカイの大型狙撃銃が次々に敵の防衛機を撃墜していた。
「中が見えない」
「ファンネルで進入する!」
「わたしが直接入るわ」
「危険だアルテイシア、遠くから情報を収集しろ!」
「複素時空魚雷、出前頼む!こっちは中継に入るから、援護が必要な時は呼んでくれ」
カイが叫ぶと、次々に虚無の光点が要塞に炸裂した。
「穴が開いたな!」
シャアが率先して飛び込み、セイラが後を追う…
「さすが兄妹、息はぴったりあっております!」
と、カイはもう中継リポーターになりきっている。
「シャア機に画像を切り替えます…おおっ、要塞内に火山が?噴火します!切り払っています!」
「敵が多い」
「一度引け、本艦の防衛システムに全力を出させろ」
包囲する敵を背後から急襲したアムロ隊が集中攻撃で敵を乱れさせる。四本の強力な触手を持つ艦を、懐に飛び込むと両断し、ライフルの一撃で発射寸前の砲艦や巨大な目を屠る…
そしてタイミングを合わせ、すばやく全員を退避させた。
「対空砲、テラ粒子砲一斉発射!下がれ!」
アテナが叫ぶと、オデュッセウスの周囲に光の渦が生まれ、そこには虚無が…
「ここに移動して!」
クェスが誘導した場はファンネルの網で完全に守られており、進入しようとした敵が次々に囲まれ、消滅する。
だが、とにかく敵が多い。味方はまずやられはしないし、やられてもコクピットを本艦に強制的に転送するシステムのおかげで死者はないが…
圧倒的な物量。要塞は外からの攻撃は一切受け付けず、中から攻撃するほかはない…
「ここは…地球由来の文明なのか? それとも…モアイだ!」
シャアとセイラの隊が苦戦している。
「シャア、セイラさん、離れろ!」
アムロの叫び、もうシャア隊のメンバーは大きく離脱行動を取っていた。
そこを無数のレーザーが貫く。
「大型艦、多数!」
「謎の細胞に、囲まれます!」
「きついかな…」
そこを、多数の強大な稲妻が上から貫いた。
「増援か?」
「無人艦?」
そこには…十六隻の巨大な艦があった。
「味方じゃ、一時下がれ」
ハイフェッツの、普段の好々爺とは一味違い存在感のある声。
「クェス、大きいほうの一つに乗り移れ。ファンネルを多数積んである」
「はいっ!」
体半分もぎとられたMAが引き返し、かろうじて巨大な艦の一つに接舷、直後に爆発した。
「クェス!」
「大丈夫、移乗しました」
「信濃型のAIは乱暴だからな、あまり干渉せずファンネルを使え」
「はい」
息を呑むような巨大無人艦隊の雄姿…
「八八艦隊のデータが、わしの個人データにあったのを思い出してな。至急艦内工場で建造したんじゃ」
ハイフェッツが静かに微笑む。
「信濃級全自動巨大戦艦八隻、六甲級巡洋戦艦も…完成すれば宇宙最強の艦隊といわれておったな、信濃の暴走がなければ。ゆけ」
八組が一気に分散し、大きな鶴翼を形成して敵を押し包む。敵は反撃するが、それがほとんど効いていない。
「何て防御だ」
「敵機大量に来ます!」
雲霞のような敵…オデュッセウスを守るシャアの機体が下半身を持っていかれ、かろうじてコクピット部だけ本艦に転送する。
最も濃密な雲が、巨大な無人艦隊を襲う。
そこを、一瞬で…光の暴風雨が巻き起こった。
「な、なにが起きているんだ…」
アムロが周りを見回す。六甲は本質的に巨大な機関砲にエンジンをつけたものに過ぎない、それがすさまじい光弾の雨を降らせているのだ。
瞬時に敵機の雲が消滅する。
そして、とてつもないエネルギーが膨らむのを感じる…
「全機退避!」
ハイフェッツの声に焦りがある。
「無限粒子砲、いくぞ!近接対空防御に徹してくれ!」
皆がとっさに引く。
そこに、全てを圧する光の奔流。
敵は一瞬で消滅していた。
「まだ本体がどこかにいる…ここだっ!」
脚を失ったアムロのFがワープ、同時に指し示した空域に魚雷が次々と着弾、虚無が何かを打つ。
追いかけてワープアウトしたクェスの信濃が一撃、目に見えない空域から巨大な姿が浮かび上がった…そこにアムロが真っ先に斬りこむ。
「悪意の固まりめ…消えろっ!」
目のように見える部分に、二本のサーベルが食いこむ。
「危険ですアムロ、コクピットを切り離して本艦に戻ってください!」
「強制的にやれ!六甲、信濃、ミネバ!」
ハイフェッツの叫び。次の瞬間Fが消滅すると、そこに六甲のバルカンフェーザーが降り注いだ。
直後に真上からビグ・ザムに似た機体が襲い、触手から伸びる巨大なサーベルで黒い不定形な、脳に似た塊を切り裂く。
「これで…チェックメイト!」
クェスの叫び。
「ミネバ、コクピットを転送しろ!」
無限粒子砲の最大出力、大量のファンネルの一点集中攻撃…同時に転移ブラックホール爆雷の嵐が襲う。
「逃げろ!全速で!」
アムロが叫び、動く機体は本艦に飛び込み、動かない機体はコクピットだけを本艦に転送し…最後にオデュッセウスが最大出力で魚雷と転移ブラックホールを叩き込むと、虚空に消えた。
銀河の爆発に匹敵するエネルギーがその、極超光速の航跡を追う…
「エネルギーの余波が強い、軌道が安定しない!」
「このままでは、別の宇宙に出てしまう…危険だ!」
「いや、本来あちこちの宇宙を探すんだ。行ってみよう!」
「そうですね、私たちも何度かこの手の空間転移はしていますし…リスクは当然ありますが、みなさん覚悟はよろしいですか?」
「もちろん!」
「ここからは未知の領域だ…」シャアが静かに、かつてのアジテーターとしてのそれではなく理知的に語りかける演説を始めた。「この宇宙にある既存の植民地に残りたい者は遠慮なく申し出てくれ。種を多くまくほうが、人類の遺伝子のためには良いのだが」
「いや。少なくともオレたちと、ハイフェッツさんの故郷の地球を見るまではみんなが一つの船だ」
「そのとおり、団結だけが船を守る」
「よろしい…未知なる並行宇宙へ!」
「強制大転移、行きます!全員体を固定してください」
ヘスティアの凛とした声。同時に、別の宇宙への門へジャガイモのように不定形な艦が飛びこんで行った…
気がついたそこは、元とあまり変わらないようにも見える宇宙だった。
「一応無事だったようですね」
「損傷は多数ありますが、許容範囲内です。至急修理を始めます、よろしければご協力お願いします」
「そこに白色矮星がある、資源補給にはちょうどいい」
オデュッセウスの整備が済み、機を失ったアムロ、そしてシャア、ミネバ、クェスなどに新しい機体が完成した。
「新しいガンダムか」
「チェーン、ご苦労様」
「いえ…うまく機能するとよいのですが。いってらっしゃい」
MSの見た目はそれほど変わらない。どちらかというとFガンダムの量産型に近い雰囲気だ。
「追従性や速力は格段にアップしているわね」
「でも武装は全体に少なめだな、ちょっと不安だ」
「散開して変形するぞ」
アムロの指示で、各機が広がる。変形、という言葉にギャラリーがいぶかしんだ…翼などはなく、可変機とは見えない。
「みんな準備はいいな、いくぞ…タンノバー!」と、アムロが叫ぶと、その機体が青紫の光の繭に包まれる。
次の瞬間そこには、普通の基準では戦艦というべき巡洋艦が出現していた。
全長1020m、鯨を思わせるどっしりした艦体に無駄なく配置された大型砲塔と半球形の対空機銃、前面の魚雷ユニットが独特の迫力を持つ。
「う、うわ…」
「転送システムを応用し、サブスペースに待機している巡洋艦が瞬時にMSが形成する転送受け入れフィールド内に出現します。合体したMSは脱出ポッドとして収納されています」
チェーンが誇らしく見上げた。
シャアがびっくりしたように、艦の感覚を確かめた。「すごいな、艦のシステムが自分の手足のように感じるし、強力なサポートAIも…サイコフレームを通じてか」
「一応オデュッセウス本艦のヘスティアとつながってはいるけど、あちこちの世界の技術を参考に強力なエンジンとコンピューターを小型化して積んでいるから、万一のことがあっても長期間単独で行動できます」
万一オデュッセウスが失われた場合、エネルギーをオデュッセウスの泡宇宙エンジンに依存しているMSは反物質燃料が続くだけの短期間しか活動できない。それに対し、この艦なら近くの居住可能星系に行き着けるだけの航続力がある。
もちろん多数の乗員を乗せることもできる。万々一生き残ったのが一人だけだとしても、記録にある遺伝子情報を人工受精卵にし、子孫を増やすことができる。
とにかく種を広く多く蒔くことが、生物の変わらぬ本能だ。だからこのオデュッセウスも故郷から遠く離れ、故郷との連絡を禁じられてひたすら旅をしているのだ。
「希望、ホープ」
チェーンが誇らしげに名を告げる。
「あれだけの艦を一人で操縦できるの?」
「オデュッセウスの故郷もハイフェッツの故郷も、無人艦の研究は進んでいたからね」
「サイコフレームなどより高度なコンピューターもいい助けになっている」
「あと、あの大きさでやっと、テラ粒子砲や複素時空魚雷を連続的に使用できる」
「そして…」
あまりにも多数の流星が艦から飛び出した。
「この状態だったら何百というファンネルを同時に使い、またその観測データをもとに直接複素時空魚雷を転送できます」
「うわ…たまらないな」
「一つの艦隊と言うか、光年単位の巨大な宙域を絶対的に支配できるわけか」
「もちろん、MSの補給や修理にも使えるから気軽に立ち寄ってください」
「いいな、これ。すごいパワーを感じる」
「怖いぐらいですよ、こんな力を預けてもらっていいものでしょうか」
「何人かの班で、この巡洋艦を直接運用してもいいかもしれない」
と今のところ未完で終っていますが、ここから「全艦隊集結」につながる…最終的に多元宇宙全体の危機を知り、ロンド・ベルの元へ戻ることになるでしょう。そこまで書く余裕が将来あるかどうかはわかりません。