征海美亜(いくみ みあ)(「征海未亜」より改名)
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作風概説
最新作では強めの線で、かなり単純な描き方。無駄がなく何とも色香がある。わちゃわちゃと人物や動物を集めたりも相変わらずうまい。
初期の絵は硬質で不安定だが非常に上手く、可愛らしく可愛いもの好き。幼い印象があるもののクリアーかつシャープ。非常に大きく画面を使い、背景を簡素にして浮き出させるラブシーンが得意。
最近は軽くもんだ和紙のようにさらっと乾いて少しラフな描線で、肉体にも生気が満ち人形のような感じはなくなってきた。ただ、そのかわりに初期にあった深く冷たい神秘的な感じがないし、一時感じられた色気も薄まっているが、逆に男女問わず裸体で何かを表現する力がある。
アクションもかなり(ただし剣道シーンは経験者である筆者が納得するものではない)こなせ、流血の剣戟も光の乱舞もできる。
オリジナルストーリーは少ないが心理的なことも深いところで理解しており、少女向けアニメの原作として企画された制約の大きい作品を、少年少女の不安定な心と成長を描く名作に変えることができる。
ギャグもかなり大胆に、さりげなくちりばめられている。特にコミックスのおまけで描かれた「それいけ!ジャイアントスーパーメカドールリカ」や人外と化すいちごの父には爆笑したものだ。
代表作
97「ウサギの降らす雪」
バイオリンの天才少女、白鳥深雪はコンサートを前に深刻なスランプ。魔がさして抜け出し、ウサギの着ぐるみに話しかけたらそこにはクラスメートが入っていた。同時にトラックに置いてしまったバイオリンがそのまま持っていかれ、追いかけて、そのまま彼とディズニーランドへ行こう!ストーリーだけでは表現できない、底知れない神秘性がある。
98「苺の森の眠り姫」
避暑地の夏、別荘を出た琴梨だが、小鳥が逃げて泣き出した。そこに声をかけた少年に助けられ、迷子になって共に野宿する事に。蛍の大軍に包まれて、不思議な夜はふけていく。
98〜99「スーパードール・リカちゃん」単行本全二巻。ご存知アニメ企画作品。
普通の女の子、香山リカちゃんを次々襲う変な怪物、でもそのたびにコーリングリングが光り、不思議なお姉さんが助けてくれる。ものすごく可愛いキャラクターと精巧なアクションが光る。
リカを好きな男の子、ダイがとてつもなくかっこいい。そして成長したリカが無限の愛で悪をも倒すことなく浄化し、自ら初恋にケリをつけた最後の展開にとても胸が熱くなった。
99「夢恋草紙」リカちゃんの外伝、SDR二巻に収録。
ドールリカが昔、人形だった頃の累さんの前世と動く人形の、とても可愛らしいのに切ない、無条件の恋。行き倒れた旅人を、昔死んだ人形職人が作った、生きた人形が助けた。いつもなら人形が動く、と人は驚くのに、彼は笑いかけてくれる。そのまま二人で暮らす事になって・・・。
99「TOKYO黒猫娘」「東京ミュウミュウ」4巻に収録。
闇夜に駆ける正義の味方、鈴の音ネコ耳肌もあらわな、江戸っ子口調、スタイル抜群、宇宙の侵略者から地球を守る火事とケンカは江戸の花・・・謎の江戸っ子娘は実は、いつもは恋する普通の少女、緋姫。でも、できたばかりの彼氏にそのことを伝えられなくて、秘密が増えて・・・しばらく正義の味方はお休み、でも・・・。
可愛らしさと抜けるような美しさ、人形ではない、人間の色香をも身につけた傑作。涙で視界がにじむのを、実際ににじんだ人影で描写し、そして・・・そのシーンには衝撃を覚えた。
2000〜2004「東京ミュウミュウ」(シナリオ吉田玲子)単行本六巻まで発売中、アニメ放映中。
アニメなども怪物などを含めたデザインは征海未亜だとコミックスの柱などにある。
桃宮いちごちゃんが、憧れの青山くんとデート!そこで謎の光を浴び、間もなく同じくデート中、突然巨大化したネズミに襲われる!かばった青山くんも倒れ、ピンチのいちごは突然ネコ耳しっぽにレオタードに変身、ネズミにとりついていたエイリアンを倒す。
そこに現れた謎の青年、白金がいちごを捕らえ、驚きの計画を打ち明けた。エイリアンに対抗するため、生きる力の強い絶滅寸前動物の遺伝子をいじったら、事故でその遺伝子がいちごを始め五人の体に。突然バイトしろと言われた、メイド制服の喫茶店「カフェミュウミュウ」を拠点に仲間を集めて、さあ戦闘開始!?
狙いすぎ、と思えるほどおいしい美少女五人組に敵味方謎魅力的な美少年たち、「ご奉仕するにゃん」「いちごはぼくのネコなんだから」などの爆発もののセリフもあり、「なかよし」がポスト「カードキャプターさくら」に打ち出した大人気作品。
終了後すぐ「東京ミュウミュウあ・ら・もーど」全二巻。原案講談社とあるが、原作は示されていないため「ミュウミュウ」の設定を借りたオリジナルストーリーとも思える。
いちごと青山がイギリスに去り、新主人公はお嬢様中学に入ったけどなかなか馴染めず、隣の幼なじみ、目黒たすくの猛アタックに閉口している白雪ベリーちゃん。放課後かわいい喫茶店の美形(カフェミュウミュウの白金)にひかれて裏に入ってしまい、ひっくり返して逃げた先の機械から…突然噂のミュウミュウに!キッシュ達は去ったものの、彼らが始末していかなかったエイリアンやそれを操る謎の集団と、旧メンバーといっしょに戦うことに。
残念ながら急な連載の終了で、「幼馴染から恋人に」と「敵としての大衆」という二つの大テーマを描ききっていたかは疑問だが、愛情をとことん追求したいいラストシーンになった。
また、増刊で幼稚園児版の「プチみゅうみゅう」がたびたび掲載されている。
2004〜5「wish」
あなたは友情を信じる?
親友三人組…あいちゃんが好きな山口君にアタックするのを、リカコちゃんも麻衣ちゃんも親身に協力してくれる。ずっと友だち、と誓ったビーズのブレスレット。
そして、ある日「天使のメアド」の噂…なんでも願い事をかなえてくれる天使の話が出る。真夜中、学校のあるはずのない階への階段の踊り場の鏡に映ったメアドにメールすると…
実行してしまった彼女たちの前に、セーラー服にマント+大きな帽子、黒猫を肩に乗せた神秘的な少女が出現して願い事を一人一つだけかなえる、と…リカコちゃんが「山口くんとあいをくっつけて!」という叫びが受諾され、翌日山口くんがあいちゃんに告白する。でも、それからあいちゃんがつきあい悪くなって…
どんでん返しが見事な、期待以上の血が凍るようなホラー。
その後の続編は皆ハッピーエンドだった。
今までの実績、現在の地位
デビュー後3作目が本誌初登場、初連載、アニメ化という伝説の大抜擢を受けたシンデレラガール。それに誰にも文句を言わせないだけの、圧倒的な実力を持っている。そのSDLも心配とプレッシャー、未熟をはねのけて、丸一年続けた上に素晴らしい成長と感動を与えてくれた。
新連載「東京ミュウミュウ」はポスト「カードキャプターさくら」の中核として、曲折はあったがアニメ化もできたし役割は果たせた。
「ASUKA」で「リピュア」を連載し、2004年秋ラブリーでなかよし復帰、そのままシリーズに。
2020年、「ミュウミュウ」の復活で久々に「なかよし」登場。
2022年3月、くも膜下出血で急逝との報。
個人的な感じ、思い出
デビュー作からその、神秘的なまでの美しさに驚嘆した。
アニメ連載は嬉しい反面、この逸材を潰さないかと心配していたが、順調に成長したようでほっとしている。特にSDLの終盤は最高だった!
「東京ミュウミュウ」はオタクを狙った設定を積み重ねただけで中身がないなど批判が多く、筆者も深い描写が少なくなったのが不安だったが、青山くんがいちごの正体に気づいていたことを告白した瞬間全てのキャラクターに血が通って動き出した、まるで魔法のような瞬間に全て吹き飛んだ。またキッシュの成長が見えた終盤は読み返していて泣いた。
待望していたオリジナルのホラーは期待以上の出来だった。
実力はあるのだからオリジナルでより本格的なホラー、学園長編ラブ、「水色時代」のように思春期をそのまま描く作品、そして静かな神秘性を出した読み切りなどもっと色々描いて欲しい!
非常に大胆な挑戦をする作家なので、これからも恐れずどんどんいってほしい。
……訃報には言葉もありません。
二十年ぶりにリメイク、これからまた活躍というそのときに……なんということでしょう……心よりご冥福をお祈りします。ありがとうございました。