菊井風見子 (きくい ふみこ)
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作風概説
はっきりしていて無駄のない、非常に分かりやすい絵柄。ふわっとした丸っこい全体の線がお米(ご飯や米菓)の味のように親しめる印象を与える。ただし最新作では題材もあり顔の線がはっきりとして鋭い、切れのある力強い絵柄を採っている。
全体の雰囲気も、なんだか霧のような、古い映画のような、夢のようなどこかほわっとした感じがする。
削りトーンを薄く頬紅のように乗せており、それが非常に豊かな表情を作っている。まっすぐな笑顔などの表現が非常に暖かくコミカル。
背景なども十分、服の質感もよく出ている。また歴史ものでも鎧・馬・弓・風景などきわめて多くの課題を確実にクリアする素晴らしい力を見せる。
ストーリーはデビュー作こそスタンダードだが、少し不思議な題材も多く、ジャンルが広い。
ただし心情がとても細やかで組み立てもうまい。たくまないユーモアもとても心地いい。
携帯電話の機能など題材をうまく料理できる。
全体に楽しい雰囲気が強くあり、同時に恥ずかしい感じもすごくよく伝わる。表情豊かで強い感情表現もうまい。
神秘的なまでにスケールが大きな描写もできるし、大人も男もしっかり描ける。
ごてごて描きこまず、無駄を省いて大きく描き上げる戦場シーン、磨き抜かれたような風景と音楽の描写、心理描写の深さなど圧倒されるほど。
半擬人化動物チビキャラを感情表現に活用するところはとても器用。
代表作
2004「愛をケータイしてますか?」
ついにカメラつき携帯電話を手に入れた千沙ちゃん、用途はもちろん憧れの高槻先輩の写真!
接写しようとしたらいきなり音楽が鳴って失敗、どうしても近づけない…いきなり河知くんがちょっかいを出してきて、「写真だけで満足してホントに好きっていえんのかよ」と…怒って泣いているときに、ふときたメール「今日はごめん。」
そして、それからいろいろ…協力してくれるのか邪魔しているのか、混乱しながら河知くんとメール交換をするようになって…
男女双方の心理を巧みに描き、間断なくまとめて安定した実力をアピールしたデビュー作。
2006「わらって盆ジュール!」
夏休み、お墓参りの途中に成海くんと出くわしてどぎまぎ、花束を痛めてしまった笑瑠ちゃんに、花屋の子供だった彼は店の商品をくれた。それを墓前に捧げて仲良くなりたい、と祈ると、亡くなったおばあちゃんが出てきて恋を応援してくれることに。
でも公園で彼と会えたら風でスカートをめくったり水道の水をかけたり、とんでもないお節介に正直困って…
さりげない過去を使った重層構造がまたうまい。
2007「となりのネズミくん」
小さいネズミくんこと根津実貴、長身のキリン子こと花垣喜鈴子…背が小さいネズミくんを、入学式で名前からネズミ、とうっかり呼んでしまってそれ以来目の敵にされている。
ある日、階段で落ちて人格交換が起きてしまい、いろいろ心配していたら彼は何も考えず外で遊んだり、逆にコンプレックスだった自分の長身が少し違うように思えたり、いきなり前髪を切ったりととんでもない行動ばかり、やはり気が合わないのかな…
お互いの心情描写と情景など非常にきれいな印象。
2010〜11「海鈴のジャンヌ〜TSURUHIME〜」(原作/阿久根治子:「つる姫」福音館書店刊)
大三島を守る、それがわたしのつとめ…女ながら鎧を着け、三島水軍を率いて立つ「つる」姫。
小さい頃から武を好むが、きちんと女の姿をすればその美貌は際立ち、姫の心も持っていた。
兄たちが水軍を率いて守るのは大山祇神社、その大祝職を務める父と多くの領民たち、神そのもの。
待つだけの女の生き方に反発するつるは城で暮らしたいと言い、厳しい暮らしで現実を見せれば諦めるだろうと連れてこられ、幼い頃会ったことがある、城で預かっている近隣の城主の息子明成が師となって、いきなり馬に乗せられたりと厳しい暮らしに入る。
それにも弱音を吐かず努めるが、やはり女の身では越えられぬ壁もある…だがそれすらも受け入れ、充実した日々を送るが、二人の仲を見る大人たちはそれぞれの思惑で動いていた…
雄大な自然や武具の精緻な描写、おおらかで心大きな人々、戦と恋の凄まじさを堂々と描きあげた大作シリーズ!
今までの実績、現在の地位
デビュー以来登場しない期間が長かったが、近年はかなり登場頻度が高い。
本誌でも星占いコーナーを担当。
「地獄少女 閻魔あいセレクション 激こわストーリー
暗」に参加、単行本デビュー。
(原作つき)増刊連載で大きく出てくる。
個人的な感じ、思い出
実力はかなりあるし、家庭的な定番メニューだがとてもよくできた料理のように暖かく親しめる味もよかった。
デビュー作の印象が強すぎたが、ちょっと不思議なネタを利用した暖かく楽しい話もとてもいい。
あまり洗練されず、この暖かな面白さを生かして頑張って欲しい。
逆にもっと大胆な題材でも意外と面白いかもしれないが。
大チャンスの増刊連載が非常に大きい、意外性の高いものだったのは冒険心が感じられてとても嬉しい。
壮大な原作に負けず多数の課題を丁寧にこなす勉強熱心さも素晴らしいし、肝心なところも忘れずきっちり描きぬいた。
これほどの圧倒的な実力なら、できない作品はない…舞台さえ整えば。