桃雪琴梨 (ももゆき ことり)
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作風概説
初期は血のように濃い赤で、香りも強く甘く重く、そしてブランデーのように強いワインや重厚な緞子のイメージを与える緻密な美しさだった。
最近は余分な香りと重さが減っている、質感は鋼板のようになめした皮を思わせ、さらっと喉をこしてガツンと来る強烈なウォッカ、いやアップ系の恐ろしく純度の高いドラッグのように感じられる。
目のエネルギーがかなり強烈で、全身を用いた強烈な感情伝達力がある。特に悪役が「支配者である自分を崇め服従せよ、お前は奴隷だ!」というメッセージを全身から出すシーンが多く、その迫力は吹っ飛ばされて泣き叫びながら人格を全て投げ捨てて土下座したくなるぐらいに強烈。
女子は少し人形っぽいぐらいのナイスバディで、服にも質感があるので迫力がある。男子も右目と左目の軽いゆがみを活かして強い色気を出している。厚めの唇もとても色香を強めている。
非常に強いセクシー描写が多いが、最新作ではやや抑えて純度を上げている。
背景やファンタジーの小道具も非常にうまく、弓道の経験者チェックも満点…だが何故か剣道の手の内はだめだった…。
ストーリーはファンタジーを得意とし、展開が強引だがスリルはある。
どんな題材でもとんでもなく濃い味付けに仕上げてしまう。また数学的・心理学的な知識も豊富で緻密。
きれいで情熱的ではあるが、なにか少し虚数方向にずれた印象があり、一言で言えば変可愛い。
代表作
2003「キューピッド愛矢」
友達の恋愛相談にのるのが好きな愛矢ちゃん。親友の萌ちゃんが、最近彼氏が冷たくなってきたと悩むのに一生懸命答えている。
突然の転校生、瑞樹くんが超絶美形でしかも恋占いが好きで大人気!なのがちょっと気に入らない。なんとなくその占いの呪文を唱えてみると、本当に女天使のミラが降臨!キューピッドになるための修業のパートナーに愛矢を選んだのだ。
翌日それを見咎めた瑞樹くんは修行を終えたキューピッドで、ダーク・エンジェルを浄化する使命も持っている。
で、萌ちゃんとその彼氏は別れ話……そしてダーク・エンジェルに襲われている!愛矢ちゃんはミラと一体化して変身するが矢が外れ、追いつめられて瑞樹くんに助けられ…多彩なアイテムと華麗さが光るデビュー作。
2003「パーフェクト・ドール」
禁断の魔術実験…祭壇の上の人形に、口に含んだ玉を口移しで与えると彼女は生命を持って起き上がった。
とても明るく元気な少女となり、術者の冴島ケンジくんのイトコとして転入した未悠ちゃんは他人の魂を使うブラックマスターを倒し、ケンジくんの父親を助けるために頑張るが…むしろ一人の少女として、ケンジくんを恋している。
でも自分は所詮人形という情けなさも…そんな時最近多発する、人気のある生徒が突然姿を消し、人形のように意識がない状態で発見される事件に、未悠ちゃんも巻き込まれる。
高度な魔術、複雑な謎、派手なアクションと大胆なエロティシズムといっぱい詰め込み、人形の恋心というテーマもしっかり描いた。
2004「メリーキッス」
14歳のモデル、さやちゃんはセクシー写真集の売り上げも絶好調。「レンズの向こうにいる運命の恋人」に向けた視線をこめたのが成功の要因?
そして、新しい仕事で組むことになった男の子のモデルはやりやすかったけどいきなり激しく体を触ってきて…その那通サマは一流芸能一家のプリンスであるのみならず、大きな仕事で組もうと持ちかけてきた。
ものすごい露出度の衣装と、え…それファーストキスになっちゃう!
そこらの美少女作家が裸足で逃げ出す肉体の美しさ、しかもそれに思いを語らせる力も見せたインパクトの大きい本誌登場作。
2004「ラブラボ」
結城くんと莉子ちゃんは彼氏彼女のはずだけど、化学オタクの結城くんはクリスマス用フェロモンなんか作って売ったり実験に夢中でクリスマスらしくないのがちょっと不満。
その薬も効きすぎで、学校中いちゃつき通り越して本番に行きそうなラブラブカップルだらけ!変な男にそのフェロモンで迫られたけど、彼はちゃんと守ってくれた。
でも…やっぱり無視しないでよ!かまって欲しい思いをストレートに述べた、とても楽しい作品。
2005〜6「王子様のつくりかた」単行本全二巻。
「天使のような人間は楽園でこそ育まれる!」という、英国パブリックスクールとは正反対の教育方針をモットーとした全寮制名門学校、小鳥遊(たかなし)学園。だが、そこは悪魔の巣窟と化していた。
超わがままなスーパーセレブ四人組、天王寺陽太、謝名堂純、北ノ棒禅、天王寺颯月を更生させるため、学園の後継ぎであるハイリ、ユイリの双子が呼ばれ、まずユイリが天才ハイリの身代わりとしてハイリの人格を乗り移らせるかつらと眼鏡をつけて四人を指導することに…でも颯月に秘密がばれてしまい、いきなり貞操の危機に!
過剰なまでのエロと派手さ、そしていかに悪魔どもの人間性を描くか、とにかく豪快な初連載。
2006〜7「ピンクvvイノセント」単行本全三巻。
「レイジくん好きです あたしとつきあってください…」「いいよ」といきなり幸せに始まった恋。
初めての彼氏を報告したのは…膨大な使用人!そう、ココナはすごいお嬢様だったのだ。彼はパソコンにしか興味がない変人だし、この恋どうなることやら…
彼がやっているのは実はネット株。兄がゲーム作家志望の引きこもりオタクで、そうはなりたくないから自立すると言っているけれど…
それで彼がいないうちにパソコンに自分の画像を仕込もうとしたら変になってしまって彼を怒らせ…
とにかく変人同士のドタバタでやたらと熱い恋。ひたすら毎回パソコンを壊すのが最大の特徴。
2008「萌えキュン!」単行本全一巻。
男子に負けない運動神経で空手の達人のマコトと幼なじみの高嶺泉…彼は男の子なのに殺人的に可愛く、ちょっと油断すると男女問わず理性をなくして暴動を起こしてしまうほどのフェロモンを放つ。
その変態どもをいつも叩きのめして助けるのがマコトの仕事。でも、実は彼女は彼の前でこそ正気を保てるけど、彼から離れるととんでもない妄想をしまくって転がっている。
ついうっかり理性の皮から何かが漏れて文化祭で男女逆転メイド喫茶を提案してしまったマコトは夜衣装デザインでいろいろ暴走するけど、ほとんどのデザイン図はカバンの底に封じる。
あまりに似合いすぎる彼に、文化祭の客も暴動寸前。
他組のファッションショーに誘われたのがきっかけで、マコトの妄想垂れ流しの衣装デザイン図をもろに見られてしまった…
絵柄雰囲気を一転させた…まあある意味とんでもない作品。
2009〜「ミリオンガール」単行本一巻発売中。
琥珀色に輝く髪を持つ少女、琥珀幸が通うのは財界トップの子女のため新設された名門校、帝都学院。
学校ではなんだか、大金をやり取りする賭けが行われているようだ。
そしてある日、帰ると家は荒らされ、ヤクザが当主はお前を一億で売って逃げた、と連れて行こうとした。逃げた彼女はそのマネーゲームに関わることに…
今までの実績、現在の地位
デビューして間もない頃から注目度は高く、本誌別冊付録、増刊巻頭カラーと大抜擢を重ね、一気に連載。その後も常に連載に舞い戻る強さがある。
個人的な感じ、思い出
デビュー作はあまりに種村有菜に似ていて驚いたが、今はそれ自体が新時代の「派」だと納得している。
セクシー描写が多いのは時代だろうが、それも本職の美少女漫画と比較しても高い水準であり、しかもそれを高度な心理描写に使うこともできている…安易な読者サービスで読者を堕落させる恐れはないだろう。
最近はせっかくの素晴らしい力の使い方を間違えていないか、と思うことが多い。
逆に、とても無理と思えるようなとんでもないテーマに玉砕覚悟で挑戦してみて欲しい。
これほど圧倒的な支配力を出せるなら、圧倒的な悪を徹底して描いてみてもいいのでは…ディーン・クーンツ作品や「一九八四年」のコミック化、そのレベルの過激な拷問・SMシーンのある作品を考えてみてもいいと思う…まあそれは「なかよし」の枠から出るので他誌でになりそうだが、今の「なかよし」ならありえる。
本誌連載は苦笑する要素も多いが、とにかく華やかさと心を忘れまいとしているのはわかる。
増刊での新作には、少し見損なっていたかとさえ思った…とにかく家も壁もぶち抜いてまっすぐ突進するような圧倒的なパワーがあった。