森下津嵩(もりした つかさ)
作風概説
上品で美しい透明感のある絵としっとりしたスト−リ−は絶品。特にラストシーンの美しさは上質の映画を思わせる。
吸い込まれるような美しさと繊細な可愛らしさ、仄かな色香に安らぎさえ感じるような暖かさがある。
極めて細い雰囲気なのに柔らかさを感じる体や髪の線や肩から鎖骨にかけての曲線が見事。
どたばたしたコメディもこなす。
代表作
94「未来へのプロローグ」
受験生の悠架ちゃんはなんとか高柳くんといっしょの高校に行こう、と必死で勉強している。でも普段は仲のいい喧嘩友達。
ふと親友の麻衣子ちゃんが好きな人が高柳くんじゃないか、と疑惑がきざし、麻衣子ちゃんが高柳くんを名前呼びしたりいっしょに帰るのを目撃したりで、不安が膨らんでいく。そして卒業の前日、優しく励ます高柳につい、期待するんじゃないと。さわやかに、そして優しく、時に軽妙に時に深く受験と卒業の切なさを描写している。手の込んだ誤解が実に上手い。
96「卒業からはじめよう」
今日で卒業。もう辻くんともお別れ。その事が回想と共に、どんどん深く胸に積もっていく。でも、チャンスがあったのに告白できなくて、涙があふれる。そして下校しようとし、風に飛ばされたマフラーが・・・。
絵の押さえた上品さ、そして空気の切ないまでの美しさに圧倒された最高傑作。その素晴らしさを言葉で表現するのは不可能。新人の持ち回り読み切りシリーズ「チャレンジ初恋」の一つなので、何としてもリクエストを出しまくって単行本化を実現させ、しみじみと読み返してほしい。
96「笑顔のポートレート」
成績はいいけど夢も特技も無く、進路が見えない千尋ちゃんは写真部の加賀くんに会報のモデルを頼まれる。
強引に引き受けさせられ、加賀くんの夢を追う姿を見て気持ちが不思議なほど楽になる。そして告白され、パニックになって断るが、その後彼の写真に写った自分の笑顔を見てやっと自分の気持ちに気付く。
私服学校での多彩なファッションの素晴らしさを始めため息が出るほど美しい絵、そして柔らかく、それでいて真っ直ぐに語られる重いストーリー、とても深い傑作。
98「きっと恋にかわる」
沢木稜ちゃんはまだ恋を知らない。藤井先輩との仲のよさをからかわれた時、先輩が告白してきたけど好きという気持ちが分らなくて今のままで、と断った。
でも、それ以来自分を避けるようになった先輩の事が気になってしまう。そして先輩が教えてくれた、ちゃんと言わなきゃ気持ちも何も伝わらない事を思い出し、今の気持ちを素直に伝えるために急ぐ。澄み切ったような美しい描写で、恋心を知らない心の、ごく微妙な変化を鮮やかに描き出した。ラストに至る過程が見事。
今までの実績、現在の地位
本誌掲載経験があるが、連載には至らなかった。
「るんるん」廃刊以来登場せず、残念ながら「なかよし」撤退を表明。
個人的な感じ、思い出
もう「卒業からはじめよう」の言葉にならない魅力に魅せられた。それから「笑顔のポートレート」これにもどうしようもないほど惚れ込んでしまって、本誌登場時にはすわ連載かと期待した。特にクライマックスからラストシーンに至る、極上の美しさはうっとりさせられる。
結果的に「なかよし」を離れたのは、もう言葉にも何もならないほど残念。いまあゆみゆいが担っている、「なかよし」の四番打者とも言うべき正統派のポジションの第一候補だったが・・・。まんがそのものは続けているようなので、どこかで再出発することを心から期待している。