水上航(みずかみ わたる)

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作風概説

 可愛い絵とまっすぐなキャラクタ−が印象的で生意気な子供や意地悪な男子がとても魅力的。線は簡素で柔らかい。

 初期は動物を扱った作品が多かった。乗馬などの動きの表現も迫力があり、うまい。

 コミカルで軽快な面も持っており、連載ではそれを強調して(人間的にほぼ完成している主人公の)巻き込まれ不条理ギャグから始まることが多い。
 反面読み切りでは初期作品も含め、悲しみを帯びた雰囲気から「強くなる」過程を描く力が強い。非常に高いストーリー構成力の持ち主。


代表作

96「NEVER GIVE UP!」
 生野くんの家、乗馬クラブにプリントを届けに行った魚住秀子ちゃんは、馬に乗せてもらって、その優しい瞳につい涙ぐむ。秀才で医大を目指す彼女に、受験のストレスが重くのしかかっていたのだ。だが馬を育てて大会に出ようとする生野くんの夢に感動し、また自分と同じかそれ以上に夢に向かって努力を重ねている彼の姿を見る。また、彼もまた受験という道を選ばなかったことにコンプレックスを感じていて、馬に救われたことを語る。
それで互いに苦しくとも自分の道を歩んでいこう、と確かめ合うが、彼は大会を棄権する!その理由を聞き、静かに自分を見つめ直した彼女の決断は?
 互いに逃げず、よろめきながら精一杯自分の道を歩こうとする姿を進路選択と受験という厳しいテーマの中、素晴らしい輝きで語った衝撃的なデビュー作。

97「ペンギンパラダイス」
 陸ちゃんが水族館に勤めている叔父にもらったプレゼントはペンギン。でも彼女はそのペンギン、銀郎を人間に馴れさせず、故郷に返すことを決意する。でもBFの竜飛は彼女を悲しませたくないと必要な書類を握り潰すが。
 ユーモアもある描写で人間と動物の触れ合いに潜む偽善と、それを超えた本当の思いやりを描き出す傑作。

98「明日まで走ろう」
 
要ちゃんは流星号という馬に惚れ込み、買おうとするが牧場主の息子、功人に反対され、難しい条件を出される。その条件は見事にクリアするが、彼女は流星号が功人しか乗せることを考えていない事に気付いた。
 でも功人は絶対に乗ろうとはしない。彼の母が流星号の母馬から落馬死した事を恨んでいるから。複雑で重い心理とまっすぐな心の触れ合いを激しく描いている。

99「星降る夜には」
 涼子ちゃんは母親に無視されている。母親は病気がちの弟、涼也にしか関心が無いから。かろうじていい子でいるけど、苦しみは心にただ積もり、人と交わる力さえ失っている。でも彼女が引っ越した先で出会った少年、ハルが言ってくれた、わかると。
 その優しい瞳にすがろうとしたけど、それを彼は冷たく拒絶する。人間の本当の強さ、優しさを胸が痛くて涙が押さえられないほど、押さえたタッチで語た最高傑作。

99〜2000「ワーキング娘。」単行本全三巻。
 愛より金、借りたら返すがモットーのお金第一少女、早紀ちゃんがある日起きたら、家族が夜逃げして一億の借金を背負ってしまった。連帯保証義務はないはずなのに、借金取りの巧に返すと宣言してしまい、そのまま同居&バイト人生に…。
 一種独特の迫力とコミカルさ、法理を吹き飛ばす強引な展開と熱さを持つ人気作品。
 連載開始前の準備的な読みきりでキャバクラでのバイトを扱ったことに批判を浴びたこともあったが当時からヒットは確信していたし、批判を集めた自分を売る事に無反省だった人格の問題も作品の中で見事に払拭した。
 巧の執事、スキンヘッドにサングラスで家庭的な華月さん(後に似たキャラが「結婚しようよ」で再登場)がとてつもなくいいキャラ。

2001〜2002「夢見なサイキック」単行本全三巻。
 エリート校とは名ばかりのお気楽学園、鳳凰聖学園に北海道から転校してきた馬好きのちょっと野生児、六匠みことは転校早々、守護神と呼ばれる能力者……五感のどれかが異常発達した能力者による、生徒会を隠れみのにした影の学園警察に加わる。
 彼女自身は、その優れた第六感をトクベツとは意識していなかったが……触覚の能力者、坂祝温夜くんはみことを激しく拒絶するし、「鬼」と呼ばれる般若の面をかぶった敵も正体不明。わくわく度の高い、とてもキャラクターが魅力的な作品。
 終盤の胸が痛くなるような盛り上がり、負け組の勝ち組に対する憎しみという一見どうしようもないテーマを、とことんピュアな心で乗り越える過程を丁寧に描いたのには感動した。

2002〜4「結婚しようよ」単行本全四巻。
 祖父の栄吉の悲恋物語に憧れて育った桐子ちゃんが突然、その相手である大金持の鹿遠寺乙女に脅迫されて呼び出され、栄吉様との約束だから双子の孫と婚約しろと!
 その婚約者、凪と風はどちらもいい男だけれど性格は極悪。しかも栄吉じじいからキスだのなんだしろ、というの過激な指令が毎回届き…純情少女の桐子ちゃんの明日はどちらに?とにかくかっこいいシャープなドタバタラブコメディ。

2007〜9「メガネ王子」単行本全四巻。
 白衣で近寄りがたいメガネの増田先輩に告白した幸、でも「きみにいっさい興味ないから」と切り捨てられた。
 でも、今日はもっと…父がなくなり、これまで保護者だったおばちゃんが老人ホームに入るため、小さい頃捨てられ長年会ってもいない母の元へ…これ以上悪くなりようがない、とドアを開けたら増田先輩!
 もちろん血のつながりはない…そして「オレはきみとの同居には反対だから」と冷たく…なんとか説得しようと夜なのに外出した先輩を追ったが、なぜかとんでもない繁華街に。
 かなり大人な店で雨宿りついでにちょっと面倒を見てもらい、そこで出会った美形兄さんにふと心を開いて…
 メガネフェチ*SM*熱血根性のどうしようもない人気作品。

2010〜「タンブリング」TBSドラマの平行コミック化。
 男子新体操部というドマイナーな世界、強豪でもないので体育館の隅で目立たずにいる…そんな彼らに、学校一の不良、東航が学内たらいまわしの末に押しつけられてしまった。
 めちゃくちゃな彼の行動に迷惑ばかりかけられ、ついにはカツアゲにせっかく無抵抗を通していたのが航の乱入で部員の一人が負傷し、人数不足で大会出場資格を失うことに。それで航も代わりに出ると真剣に部活に取り組むようになるが…
 男ばかりの熱い世界をさわやかに描く、魅力爆発の青春まっすぐ作。


今までの実績、現在の地位

 デビュー当初は動物ものが多かったが「星降る夜には」で普通の作品でも高い表現力を持つことを見せつけた。
 筆者のホームページの訪問者などネットを見ていると本来の読者層、小中学生女子の人気が非常に高い。

 一時増刊連載に移っていたが、ドラマタイアップだが本誌連載にも復帰。


個人的な感じ、思い出

 初期からその、人間の強さと動物との関わりを描き出す力に惹かれていた。人間の業をたびたび、あまりにも残酷なまでに見せ付けられ、そしてその前で見せる輝きに圧倒されたものだ。

 何度も、動物ものかどうかなどというジャンルに関わらず、人間の本等の強さ、輝きを正面から語っていく作品に直接的に心の弱点を刺激され、強烈な苦痛と感動を覚えている。

 連載がコメディーから始まるのはいつも不安を覚えるが、結局素晴らしい話になるのはすごいと思う。正直に告白すれば新連載のたびになんでこんなことをするのか疑って、そして連載が進むにつれてもっと信じればよかったと後悔する羽目になるのだ…
 ただ、個人的には読み切りのような本来の「強くなる」連載をとても期待している。

 傑作ぞろいの読み切り単行本は嬉しかった。