猫部ねこ(ねこべ ねこ)

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作風概説

 明るい画面と擬人化、デフォルメされた動物による鋭いギャグが特色のギャグ作家。
 特に「きんぎょ注意報!」時代美少女の美しさは絶品。なぜか押さえているが底知れない深みを感じる。
 最近はクレヨン絵のような単純で重みのあるタッチで、キャラクターの毒が強くなっている。

 ギャグは金持ちと貧乏、都会と田舎のギャップを使うことがかなり多い。また、構造そのものはスタンダードな少女マンガでありながら、擬人化動物など変なキャラクターのせいで普通とは微妙に違うというネタが多い。

「きんぎょ注意報!」の終了後は明るい反面どこか邪悪な冷徹さを感じるキャラクターが増えてきた。ストーリーもどこに飛ぶかわからず、読者に一種の酔いを起こさせる。

 とても多彩な面を持つ作家で、タッチの変化も激しく言葉で表現する事がとても難しい。


代表作

89〜93「きんぎょ注意報!」単行本全八巻。説明不要に近い、アニメにもなった超大人気の最高傑作。
 超お嬢様の藤ノ宮千歳は父が急死して破産、残ったのは金魚一匹で学校も追われ、廃校直前の田舎ノ中学に転校してきた。そして出会ったお元気少女、わぴこの活躍で横領されかけた父の遺産を取り戻し、それを元手に田舎ノ中学を再建する事を決意する。
 わぴこと不良っぽい葵、優等生の北田秀一の協力を得てめざすは名門校!でも結局、動物と自然がいっぱいでのどかで元気な新田舎ノ中、いつもしっちゃかめっちゃか大騒ぎで千歳はギャグ顔で怒鳴ってばかり。
「なかよし」から久しぶりにアニメ化を達成し、そして大人気を得て「なかよし」そのものをここにいるような高年齢層にもアピールできる雑誌に転換させた。
 なお、アニメと違って原作は「Dr.スランプ」の亜流作品ではない。ぎょぴちゃんが空を飛び始め、ガッちゃんに近い感じになったのはかなり遅く、アニメと関連しての高等戦略と思われるし、他にも恋愛要素の重視、千歳ママ中心の政治的な陰謀の多用、アニメとの違いの一つだがアクション要素の欠如などあらゆる点で、深層の共通点はともかく違いが多い。
「Dr.スランプ」とも共通した動物の極端な擬人化、学校を諷刺しつつのんきで世俗のしがらみに縛られない平和で楽しい世界もとても魅力的。ラブロマンスをギャグにした話も多く見られ、関連して実は美少女が多い作品(これもアニメでは無視されたが)でもある。

94「猫にゃんにゃん」
 えみかちゃんは城皇治先輩にクッキーを渡したけど、彼はそれを親友の佐鳴くんにあげてしまった。
 同情した佐鳴が残したメッセージで気をよくしたえみかちゃんは更にアタック、それで事態を知った城皇治は真実をえみかちゃんに告白した。そのほうが本当の思いやりだ、と示した城皇治にえみかちゃんは更に想いを深め、ますますアタックを…かつお節入りクッキーで。
 そう、城皇治先輩は猫。その一点を除けば完璧なパターン通りの少女マンガ、という会心の一作。

95〜96「あいりんドリーム」単行本全三巻。
 麗史ちゃんは美人だけど貧乏。服が無いから憧れの折館くんの誕生パーティにも行けないほど。ひょんな事から超御令嬢だけど元気でハチャメチャな少女、あいりんに出会って、なんとかドレスを調達する。でもそのパーティで一目ぼれした K 様を追って、そして学校に行く事になったあいりんの学友として、名門校に行く事に。
 でも、どこの学校に行っても色々あって、あいりんの家庭教師でクリフト状態の徳巳、仲間に加わった優等生の水橋春蘭、 K 様にそっくりだけどスケベで怪しいスパイの美高弥也などと波乱万丈の学校遍歴が続く。とにかく一瞬先も予測できない、秩序崩壊のギャグ。振り回されてひたすら混乱、改めて底知れぬ天才を感じた。

99「呪って V あっこちゃん」単行本全一巻。
 謎の暗い美少女、御影あつこが始めて登校した。一目ぼれした太一が近づき、連れられていってふと気がつくと、黒魔術の生け贄にされる。
 あっこちゃんは呪術の天才で、暗黒神の召喚に成功して暗黒呪術同好会部活昇格の野望のため、様々な呪いで学園はパニック。話は暗いが、やはり根本的な明るさと可愛らしさが逆に出ている。

2000〜2002「どこでもハムスター」単行本全一巻。ゲームなどの原作で、四コマ。
 キャロ、ニーボ、サフランら元気で可愛いハムスターたちの本能に忠実な日常。

2002〜4「どーなつプリン」単行本全三巻。
 宇宙はわれわれのまだ知らないナゾにみちている。ある日うさぎ座流星群を観測していた望月美紅ちゃんたちカラメル小学校5-2をかすめて大きな隕石が裏山に。
 クレーターにあったのは卵。食べようとしたら変なしゃべるウサギ、うさっちがやってきて凶悪宇宙怪獣の卵だ、と言うけど時既に遅し、卵はかえって…羽の生えた可愛い小さな女の子が出てきた。
 モエちゃんと名づけられたその子はお菓子を食べたり楽しく過ごしているが、そこにやってきた悪の組織、ブラック・シュガー団が悪のパワーを送った結果悪のブラックモエちゃんに…ただし、お菓子が余波で焦げたことに怒ってB・シュガー団のUFOを破壊する。
 それからカラメル小学校そのものが、ピエール校長が飛ばしたカツラをB・シュガー団のペットのアライグマがかぶったせいで悪に乗っ取られたが、なんとなく共存している。
 とても平和でほのぼのとした、少し毒のあるギャグマンガ。


今までの実績、現在の地位

 早くから注目され、「きんぎょ注意報!」で大ブレイク。
 アニメに関してだが、「きんぎょ注意報!」なしには何も始まらなかった。時間帯、スタッフ、アニメの表現技法などから「美少女戦士セーラームーン」シリーズを準備した事も意味深い。「きん注」のアニメが無かった事を考えるとぞっとする。間違いなく「美少女戦士セーラームーン」の場外満塁ホームランはなかっただろうし、その後のアニメ作品もなく、「なかよし」、否「ちゃお」「りぼん」も含めて少女マンガ界全体が同人ともテレビアニメとも何の関係も無い、少女たちだけの世界でのんびりやっていた可能性もある。

 本人は「きんぎょ注意報!」の後数度連載をし、しばらく作品が少なかったり「Amie」に行っていた事もあるが本誌連載に復帰、安定したレギュラーとなっている。
 最近は四コママンガで連載、そして現在はショートギャグと多彩な才能を発揮している。


個人的な感じ、思い出

 筆者が「なかよし」にはまったのも「きんぎょ注意報!」のアニメのオープニングを何の偶然か見てしまい、TV側の狙い通り魂の大部分である「Dr.スランプ」アラレとガッちゃんの面影に触れ、そのまま禁断の世界に足を踏み入れてしまったからだ。
 それが無かったら今頃「なかよし」の名も知る事無く、単に汚らわしいものでも見るかのように通り過ぎていただろうし、同人界の存在も知る事はなかったはずだ。無論この本も書かれていないしホームページもなく、「ちゃお」「りぼん」を読むこともなかっただろう。どんな人生を送っていたか想像もつかないし、今生きているかどうかさえ自信がない。
 忘れられないのがサブキャラクターの海野民子ちゃんで、二次元の初恋。また、特に千歳の母のエピソードで、そのあまりの邪悪さに胸が痛んだ事もある。

 さりげなく登場する初期短編の登場人物、そして初期作品を含む世界の裏に深く見え隠れする神秘の領域、夢の森にも興味が尽きない。

 その後、多くの作品を読んでいるが、それでもまだ全然本領を発揮していない、もっと何かとんでもない素質を隠しているような印象が常にある。デビュー作から「Amie」連載作品「愛は惜しみなく奪うモノ」、増刊でのちょっとしたシリーズまで大量に残っている単行本未収録作品ももっと出して欲しい。

 時々思うのだが、昔の美少女美少年でとことん正統派少女マンガを描いたらどうなっていただろうか。「きんぎょ注意報!」の番外編というより読み切りに近い「わたしたちは親友ですっ!」は女の子の微妙な友情を描く傑作だったし、多分かなりの傑作になっただろう。初期の作風自体も懐かしく思っている。