Dunk Like Lightning


第13章 陽炎の彼方(後半)

 ハーフタイム。
 ハゲ監督がぶちきれたのは言うまでもない。
「一年にここまでコケにされていいのか!大量リードで油断したのか!取り返されてるぞ!」
「最後に勝てばいいんだ…絶対勝つ!ディフェンス方針自体は間違っていないんだ、しっかり守れば勝てる!絶対全国に行くぞ!」
「おう、絶対勝つ!」

「哲太、大丈夫か!」
「おい!」
「後半は…」
「ばか、タンカだ」
「大丈夫、おれが出る」
 竜次が憮然と言った。
「大丈夫です、すぐ…」
「哲太」
 北野監督がじっと哲太の目を見る。
「この試合が終わったら、よー考えるんや。ええ仕事してくれたが、お前が後半出られへんのはチームにとってプラマイゼロやで」
 哲太は目を背け、痛みに顔をしかめ
「出ます」
 と言った。
「無理よ立てもしないのに、救急車呼んだほうがいいぐらいなのよ」
「だい、ぐっ、ぶっす」
「悪いのは向こうのラフプレイだよな」
 卓巳がなぐさめるのを
「やられるこっちがあまちゃんなんだ」
 竜次が厳しく言い放つ。
「まだ半分だ……一点リードされてる事には変わりないんだ。気を抜くな、絶対勝つぞ!」
「勝って、インターハイで湘北と戦るぞ!」
「そして勝つ!全国制覇だ!」
「バスケットは好きか…楽しんでくるんやで」
 北野監督が一人一人の肩を優しく叩く。
「絶対リバウンドで負けるな!」
 一臣が血が出るほど唇を噛んだ。
「短くはやくパスを回して、こまめにスクリーンをかけあうんだ!少しでも隙があったらインサイドにも突っ込め!哲太の勇気を見習うぞ」
「1、2、3、リバン!打倒潮見、打倒湘北!」

 後半開始、潮見37対大和台36の1点差。
 ジャンプボールは竜也がやはり競り勝ち、自分で一気に運ぶが、小泉弟が立ちふさがる。
 フェイクを繰り返すが、抜けない。
「パス!」
 一臣が後ろを走りながら、だがパスしようとしたボールをはね上げられ、奪われる。
 そのまま行く、と思ったら中へ。
 ゴール下の幹本がしっかり決める。
「くそ」
 次は竜次が一気に攻め、カットインから七緒にパス、アウトサイドの竜次に返す。一臣のスクリーンで攻めようとしたが読まれ、無理なシュートが外れてリバウンド、小泉兄!
「この一本は止めるぞ!」
「おう!」
 大塚が前線の小泉弟へ。
 竜也が俊足で追いついている!
「一対一!」
「エース対決か!」
 ストップしてシュート体勢、竜也の高いジャンプ…が、低いドライブで抜け、ダンク狙いのジャンプ!
 卓巳が跳んだが、その上から凄まじいダンクを叩き込む。
「バスケットカウントワンスロー!」
 場内が爆発的な歓声に包まれた。
 フリースローをしっかり入れる。
「くっそう…」
 竜也と卓巳が屈辱に震えた。
「返すぞ!」
 一臣がその背中を叩き、前線に向かう。
 竜次はインサイドの一臣に回す。
 そのシュートを幹本が叩き落とし、竜也が拾ってスリーポイント…だが、小泉弟の高いブロックでそれもまた弾かれる!
「くそっ」
 スローインを受け、また一対一。
「見ろ、回せ!」
「もちすぎるな!」
 皆が竜也に声をかけるが、
(おれがエースなんだ!まけられねー)
 フェイクから切りこみ、かろうじて二歩入って背中を見せたドリブルに。
「パス!」
 外の卓巳が叫ぶが
(コースふさがれてる)
 必死で右に抜けると見せ、左から鋭くターンしようとしたがボールは跳ね上げられた。
「全て読まれている…」
 かろうじて取った竜次のシュートが外れ、
「リバン!」
 一臣が目の色を変えてリバウンドを争うが、体格差に圧倒される。
 幹本が取り、しっかりと攻撃…小泉弟がシュートと見せて中の幹本にパス、鋭いターンからしっかりねじこんだ。
「外―中、いいリズム」
「大和台、後半まだ無得点だ」
「また大量点取られるのか」
「負けるな!」
「行け!とりあえず一本!」
 竜次が一気に切りこむ。
 追う大塚、小泉兄、幹本…密集状態
「無茶だ!」
 それでも足を止めず、突進しながらクローズアップ、と見せてボールは横へ、
「卓巳!」
 フリーのミドルシュートが決まる。
「ふう、やっと」
「ナイッシュ」
「こんくらいじゃ借りを返したことにゃなんねー、勝たなきゃな」
 竜次が卓巳に言い捨てて戻る。
「まったくだ、勝つ」
 潮見大の反撃、大塚が
「チャーリー!」
 叫んで後藤とボールを交換。
 その間に小泉兄のスクリーンで幹本がゴール下に切り込み、パスを受ける。
 素早く一臣がフォロー、七緒が追いついてダブルチームに。
 と思ったら、ボールはアウトサイドの小泉弟!
「くそっ!」
 竜也のディフェンスをあざわらうように、ボールは再び中へ…中を固めようと一臣が動く前に、後藤がマークを振り切るのを見てしまい、どちらにも動けない。その間に幹本がしっかり決める。
「はあっ、はあっ、はああ…」
 竜也の息が切れはじめる。

 それからも潮見大付属のペースは続いた。
 幹本と小泉弟を中心に、外と中のリズムが素晴らしくいい。
 小泉兄のリバウンドも冴え渡り、一臣が必死で食い下がってもどうしても取れない。
 中を固めれば後藤や大塚、小泉弟が外から攻撃の幅を広げる。
 ディフェンスでは大和台のパスを分断し、リバウンドで負けているため得意の速攻もろくに出せず、せっかくのオールレンジシュートもリズムが悪い。インサイドでは『トールハンマー』と『死神の大鎌』、外と中のリズムも作れない。
 何より、一年の一臣と竜也のファウルと疲労がかさんでいる。彼らが努力を怠ったわけではない……とことん走りこんではいるが、やはり経験と体重が違うのだ。
 序盤のように一点も取れずに圧倒されるより、一本決めたら二本決められ、一本守られるほうがずっと辛い。唯一の救いはほぼ確実なフリースローだが…それだけでは勝てない。

 残り十分、点差はじわじわと十五点差まで開いていた。
「うおおっ!」
 竜也を抜いた小泉弟を竜次が止めようと飛び上がる。が、腕を叩いたにもかかわらずボールはリングを抜けた。
「バスケットカウントワンスロー!」
 竜次がついに四つめのファウル。
「どうするんだよ…」
「哲太に…交代できるか?」
「出ます、大丈夫!」
「無茶だ、その怪我じゃ」
「つーか、医務室行ってろよ!」
 絶望感が広がる。医者が止めるのを振り切ってきた哲太は強く唇を噛み、感情的になったことを後悔した。
 その時だ。
 体育館の扉が開く。そこに、キャップをかぶりドラムバックを担いだ細い影がある。
「北田!」
「まだおわってねーよな!」
 大和台ベンチの表情が輝く。
「北田恭二」
 潮見大付属側も、何人かの全中経験者が信じられないようにその姿を見た。
 長身痩躯。頬骨が浮いた、宝塚の男役を思わせる整った顔。マイケル・ジョーダン復帰記念の『BACK 4 MORE』とプリントされたキャップの下の目は深い知性と闘志を秘めて輝いている。
「恭二!どうしたんだよ!」
「いやー、それ話してっと試合終わる。走ってきたから、アップは必要ねー!」
「すぐ出ぇ!」
「イエッサー!」
 完璧な発音、キャップとジャケットを脱ぎ捨てると下には21番の青いユニフォームと、一片の贅肉もない細く鍛え抜かれた肉体があった。
「交代です!」
 竜次に代わってコートに。竜也、一臣も一時交替する。
「頼むぜ!」
「絶対勝つぞ!」
 幹本と同等の198cmの長身、だが細い。
 試合再開、小泉弟がフリースローをしっかり沈めて65対49の十六点差!
「いくぞ!」
 交代メンバーが多いだけに、大和台は元気いっぱいに飛び出す。
「あいつは恐ろしい奴だ、早めに潰せ!」
 幹本がゴール下、北田を小泉兄弟ががっちりマークする。
「いきなり小泉兄弟のWチームかよ!」
「誰だあの遅刻」
 もちろんフリーになった反対サイドで、七緒が切りこむと見せてミドルシュート。その瞬間、北田が俊敏な動きを見せて二人のマークを抜いた。
「リバン!」
 ポジションを奪い返そうと幹本が全身で押すが、がっちりと受け止めて微動だにしない。
 そして高いジャンプでリングに弾けたボールをとらえ、柔らかくワンドリブル。
 そして、背中で小泉兄を押し返した。
(こんな細い体で、なんってパワーだ)
 歯を食いしばって押し返した、その瞬間支えがなくなってたたらを踏んだ。
 気がついた時には、もう弟さえ抜いてふわりと決めていた。
「な、何だ今のは」
 会場全員が呆然とする。
「何だよあのドライブは…」
「速すぎる!」
「沢北以上だ」
 我に返り、ボールを入れる。
 大塚が
「一本!」
 あくまで冷静さを失わず運ぶ。
 北田はやや中、ハイポストあたりで小泉弟と向き合っている。
 小泉弟が抜けようと、中から外に逃れるがしっかりとついている。
 高いだけではなく、重心が低く俊敏な動きだ。
 かろうじてパスを受けてシュートフェイク、逆からドライブを狙うがボールがあっさり弾き上げられる。
 弾むボールをとらえると、一気にドリブル
「速いっ!」
 二メートル近い長身選手として……いや、日本人の常識を吹き飛ばす速さのドリブル。
 そのままだれも追いつけず、美しく腕を伸ばしきったトマホークダンクが決まった。
「くそ…」
「想像以上のプレイヤーだな、全中決勝で戦った時ともまるっきり別人だ」
 沈滞ムードだった大和台が一気に盛り上がる。
「このまま一気に行くぞ!」
「おれたちも頑張ろうぜ!」
「チームワークを忘れるな」
 にっと笑みを交わし、右からインサイドに向かう北田に合わせた。
「つぶせ!」
 幹本も飛び出して守るが、三人がかりになろうとする瞬間、わずかな隙間からパスが七緒へ。
 フリーのシュートが決まる。
「ナイスパス!」
「十点差!」
 ハイタッチ、七緒が軽いガッツポーズ。
 大和台は北田のいる右側から、左側にボールを回した。中で小泉兄と見せ、固まったディフェンスをついてアウトサイドの後藤へ。
「させるかぁ!」
 卓巳が凄まじい気合でブロックに行く、だが勢いあまって押し倒してしまった。
「ディフェンス!」
 ここで痛い三点フリースロー!
「なぁにやってんだ卓巳!」
 ベンチから竜次が怒鳴った。
(くそ、借りを返さなきゃ、絶対勝たなきゃいけないのに!)
 前半、北野監督の言葉も頭に駆け巡る。
(絶対勝たなきゃ、自分ばっかじゃなく。でも、たのしまなきゃって言われても…わかんねー)
 入り、外れ、三本目…
(リバウンド!筒井や小泉兄を見習って、チームを支えるプレイをするんだ)
 卓巳が小泉弟を必死でスクリーンアウトするが、ボールはリムに当たって一度、二度弾み、リングをくぐった。
「よっしゃあ!」
 そして、潮見は激しいプレッシャーをかける。
「ディフェンス!」
 びりびり、と響くような声。
「この時間帯にすごい声だな」
(どこからこんな声が出るんだ)
 王者の威圧感に圧倒されそうになる。
 なぜか凄みのある笑顔を浮かべた北田に、小泉弟、幹本のダブルチーム!
「チャンスや、巣穴から引っ張り出したで!」
 北野監督の声、卓巳が一度ボールを受け、黒田から七緒に回す。
 小泉兄がブロックしようとしたが、柔らかなレッグスルーで翻弄してシュート。
 外れたボールを卓巳が取り、七緒が幹本にスクリーンをかける。
「スイッチ!」
 アウトサイドで七緒と幹本の一対一。
 北田と卓巳が逆サイドに走り、小泉弟が追う。
 ピボットで軽く揺さぶり、視線が北田に向いたと思ったら外側に抜け、瞬時にジャンプシュートが決まった!
「よし!」
「十点差に戻したぞ!」
「それでええんや!」
 北野監督の声。七緒はインサイド勝負で勝っていないのが少し納得いかないが、
(同じ二点だ)
 と思いなおす。
 小泉弟からの反撃を北田が鮮やかなブロック、卓巳が一気に攻めこむ。
 そして、七緒に一瞬回してリターンを受けたが大塚が戻っている。
(勝負…いや)
 見回すと、北田がアウトサイドでフリー!
 レッグスルーからドライブと見せ、パスが飛んだ。そして、北田が美しいフォームでシュート!
「スリーポイント!」
「なにいっ?」
 二メートル近い選手のスリーポイント!
 ボールは美しい曲線を描き、きれいにリングをくぐった。
 むしろ信じられない目で見ている観客。
「あの身長で…」
「パワーもスピードもアウトサイドもインサイドも、なんでもありじゃないか!」
「アメリカじゃガードだったからな」
 潮見は外―中のリズムを意識するが、卓巳と北田がトラップを作って分断、小泉兄がトラベリングを犯してタイムアウト。
 だが、卓巳は冷静だった…いや、むしろ焦っていた。点差はやっと一桁、しかも残り時間は五分台である。

 潮見のハゲ監督が気合を入れる。
「いいか、うちはこれまで常に勝ち続けてきた。その原動力は勝ちたい気持ちが誰より強かったこと、そしてそのために練習を重ねてきたことだ!地味で苦しいディフェンス練習の積み重ねは山王にだって負けはしない。
 自信を持て!確かに北田はとんでもないプレイヤーだ。そして他のメンバーだって、十分全国クラスだ。強い挑戦者だ。だが、うちのチームディフェンスは誰が相手でも通用するんだ!
 ここからは気持ちだ、声だせ、勝ちたい気持ちが強いほうが勝つ!絶対勝つぞ!」
「おう!」

「どや?楽しいか?」
 北野監督の言葉に、むしろ怪訝な顔をする大和台のメンバー。
「バスケットは好きか」
 一人一人の目をじっと見る。

 北田は強くうなずいた。中一はベンチ、中二の夏は決勝で負けた。そして中三は夏を前に、アメリカへの転校で日本一の夢を断たれた。
 アメリカのバスケは想像以上だった。必死でついていった。そして、帰ってきた。もう一度、日本一の夢に挑戦できる。しかも今日は電車に閉じ込められるわタクシーは渋滞で動かないわ、その他もろもろでずっと楽しみにしていた日本デビューができなくなるところだった。
 敵もアメリカほどじゃないが強い。味方も人種差別なしに受け入れてくれている。楽しくないはずがない。

 七緒は虚をつかれた……幹本のパワーしか考えていなかった。去年より頑張ったつもりだが、幹本も想像以上に成長していた。
 幹本に勝てないようで、桜木花道に勝てるはずがない……湘北に勝てるはずがない。

 卓巳には迷いがあった。今までのように、好き勝手にしゃべりながら一対一を楽しむスタイルをこの試合では捨てている……チームのために、勝つ、それにこだわろうとした。
 だからといって、つまらないわけではない。自分のパスがきれいに通った時、リバウンドを取った時、誰かと組んで狙い通りのディフェンスが決まった時……それはそれで楽しいのだ。今までとは違う難しさで空回りしている感じはあり、いつものような自信と充実感はないのだが……

 竜次はじっと唇を噛んだ。去年の負けパターンを抜け出せない。チームメイトのせいにはできない、皆期待以上によくやっている。全ての責任はポイントガードの自分にある。
 ふと、中学時代の卓巳との闘いを思い出した。勝敗も忘れ、残り時間を惜しんで一対一を楽しんだ思い出……だが、そんなことはもうできない。チームが勝つ以上の楽しみなんてない。

 一臣は悔しくてならなかった。どうしてもリバウンドがとれない。パスも狙い通りできない。疲労で体が思うように動かない。
 皆の、この試合に賭ける意気込みに応えたい。りんごの応援に応えたい。そのためには、なによりリバウンドだと強く自分に言い聞かせた。楽しむ、バスケットが好き……それを考える余裕はなかった。自分の無力がふがいなかった。
 北野監督の問いかけに……なぜか泣きそうになった。勝ちたい。

 竜也も悔しかった。小泉弟のうまさ、幹本のパワー……冷静な部分が、そして挑んでは負けた繰り返しの記憶がのしかかってくる。だが、相手の強さが分かるほど心の底から闘志も湧いてくる。
 そして、なんとなくかつて観戦した湘北と山王の試合を思い出していた。

 無理を言って医務室から戻った哲太は、苦痛をこらえて手を見つめた。あの時、疑惑と嫉妬……激情にまかせて矢野先生を殴ってしまった手。今度は激情を拳にする代わりにボールにぶつけた。点は取ったが、チームにとって控えのポイントガードを失ったダメージはよく理解できた。
 自分が怖かった。自分に、バスケをする資格があるのだろうか。そして、切れて全力で攻めている時の高揚感も麻薬のように怖かった。バスケが怖かった。

「ええか、バスケはみんなで楽しむもんや。
 でもって、相手の得意なことばっか対抗してへんか?向こうが数学百点英語五十点で、こっちが数学八十点で英語七十点だったら数学で負けてるから負けか?違うやろ。受かったもんの勝ちや、チームが最後に勝てばええんや。
 背筋伸ばしてツラ上げ!最後まで下向くんやない。バスケットは好きか?」
 北野監督の言葉が胸に染みるまで、返事ができるまで少し時間がかかった。
 残り五分、潮見大付属67対大和台60!
 大和台は四ファウルの竜也を入れ、一臣、北田、卓巳、七緒のオーダーである。
 七緒はふと、観客席を見てみた。りえこと目が合う。声をからして応援してくれている。
 そして、もう少し顔を上げてみる…ライトがまぶしい。
 そしてチームメイトと円陣を組むと、一人一人の闘志に満ちた顔を見た。誰も諦めていない。
 試合再開、大和台ボール。
 七緒がしっかりボールを運び、ファウルを誘おうと仕掛けてきた当たりを冷静に受け止めて一臣にパス。
 一臣は外でしっかりボールをキープした。
 北野監督の言葉を思い出し、顔を上げると残り九人の動きがよくわかる。切りこむと見せ、北田のスクリーンで外に出た七緒にパス!
 七緒は無理に切りこまず、幹本を引き出して
(この苦しい時間帯になんていい動きだよ)
(くそ、去年の大和台は後半にゃヘロヘロだったくせに…粘りやがる)
 レッグスルーから踊るように柔らかくターン。無駄のない動きは美しく、速い。鮮やかに抜いてレイアップの体勢に入って小泉兄を引きつけ、フリーの北田に回した。そしてアウトサイドのフリースペースに走り抜けながらダンクを背中で聞いた。
「よっしゃあ!」
 潮見大の攻撃に対し、布陣させる前から七緒が積極的に幹本に挑んだ。ゴール下に入る前に厳しく受け止め、しめ出す。
 そして竜也がボールを持つ小泉弟と激しく渡り合うが、小泉弟は北田の存在に強いプレッシャーを感じていた。
 鋭い切り込みからパスフェイク、ジャンプショット…相変わらずの速さだが、やや遠い。
「リバン!」
 一臣は顔を上げ、ボールを目で追った。
 ここ、と読んだポジションに横っ飛び、ちょうどリムに当たって大きく跳ねたボールを取る。
「速攻!」
 ワンドリブルで後藤を抜き、突っ走っている竜次にロングパス!
「速い、もう戻ってる!」
 大塚と小泉兄がダッシュし、竜也に追いつこうとしていた。
「さすがに全国ベスト4、この時間帯で……並大抵の練習量じゃない!」
「でも大和台もよく走れてる。負けてない!」
 大塚が立ちふさがった瞬間、かなり無理なドライブと見せてボールは鋭く横に飛ぶ。
 どう考えても無理な方向、だが卓巳が飛びついて着地もせず戻す!
 一臣がリターンパスに手が届かなかったことで足をゆるめた大塚は、ボールを七緒が取るのを見て激しく後悔した。フリーのダンクが決まる。
「よっしゃあ!」
「やっと速攻が決まった!」
「3点差、とらえたっ!」
「スリー一発で同点だぞ!」
 潮見大はまた小泉弟…
「エースだからか」
 中の兄に一瞬回し、抜くと見せて一歩下がる。
 そしてフォローに動いた卓巳のブロックを受けてうまく倒れ、ファウルをもぎとった。
「さすが、うまい…」
「くそっ!」
 フリースローの一本目が決まる。
 二本目、皆がリバウンドに集中する。
 リングにボールが弾け、北田がゴール下に!七緒は素早く幹本を封じ、中に入れさせない。
 一臣も敏捷性を活かして二番目に有利なポジションを奪い、しっかり守った。 
 そして北田と、ひときわ高く跳んだ竜也が争うようにリバウンドを奪う!
「速攻!」
 竜也がボールを奪うようにドリブル、小泉弟にはばまれた…と見るや、ふと上げた視線に手が映った。
 北田の高い手!少しドリブルを減速し、一気に加速と見せて鋭いパスが北田に飛ぶ。
 北田の高さはインターセプトを不可能にした。
 受けて着地、パス…一つ一つの動きが流れるように柔らかい。
 だが、竜也がキャッチしたボールを必死で小泉弟がはじく!こちらの気迫も凄まじい。
 必死でボールを追う竜也は、ふと山王=湘北戦での桜木花道を思い出した。
「どけぇぇっ!」
 叫んで飛び込んだのは卓巳!
 ボールが竜也の手に飛びこんだ、次の瞬間パイプいすが吹っ飛ぶのが見えた。
「あ……」
 はっきり伝わってきた『ダンコたる決意』。
 そこまで自分達RSや桜木軍団への感謝、哲太の勇気、なにより勝利への飢えが…
 その時、はっきりと思い出したことがある。
 卓巳は無事なようだが、脳震盪のため4ファウルの竜次と交代。強烈なハイタッチがその背中を送る。
 竜也の目に浮かんだのは、沢北にとことんやられてからパスで局面を打開した流川。
 試合再開、ドリブルをしつつ顔を上げた。
 小泉弟の気迫と隙のないディフェンスに圧倒されるものは感じるが、ゴール下で一臣が七緒にスクリーンをかけようとしているのが見える!
 わざと弱めにドリブル、取ろうとした瞬間に鋭くターン、外にドライブしてロングシュートの準備、だがマークは外れておらず密着してくる。
 その瞬間、密着状態を利用してボールを持つ腕を横に伸ばし、手首だけでパス!
 一瞬のフリーで取った七緒が、即座にジャンプショット。ボールはリムに嫌われたが、竜也は今度は北田のために幹本にスクリーンをかけた。リバウンドをがっちり取った北田が、即座に顔を上げてゴールを狙う。
 必死でジャンプした小泉兄、だがボールはフリーでゴール下に駆け込んだ一臣へ!素早いレイアップが決まる。
「っしゃあっ!」
 皆、全身を突き上げるような快感に耐えた。
「くそっ…」
 大塚のドリブルを、竜次が鋭く弾く。
 なんとかフォローした後藤だが、ライン際で卓巳と北田につかまり、北田が素早くボールを奪うと一気に運ぶ!
 柔らかいドリブルは、ポイントガードとしても超一流であることがわかる。
 小泉兄弟が必死で食らいつき、密着してファウル覚悟の激しい当たり!
 だが、わきに引き付けた右腕できっちり受け止めた北田は左手から右手にボールをまわす鋭いターンで一瞬隙を作り、ジャンプショットと見せてフリーの竜也に鮮やかなパス!
 ボールをよく見て受けた竜也は、リングをしっかり見た。大きく見える。
 時間が止まった。全てがゆっくりに見える。
 ふわりとセット、鋼のばねのように体が伸びる。飛び込んだ小泉弟の手が完全に視界をふさいでいるが、幻想的なほど美しいフォームは揺らぎもせず柔らかくボールが放たれる。
 ディフェンスは全く目に入っていなかった。
「リバン!」
 走るが、ボールはネットも揺らさずリングの中心を抜けた。
「ヒット!」
 会場中が美しさにため息をつく。
「逆転か」
「あんなきれいなスリーポイント」
「ふう…」
 だが、大塚が素早く運ぶとコーナー近くで小泉兄のスクリーンを利用し、きれいにスリーポイントを返した。
「うわあっ!」
「痛い!」
 だが、集中した竜也には外の声など耳に入っていない。
「返すぞ!」
 全力で叫ぶ。
「おう!」
 もう、全体の動きがゆっくりに感じる。異常なほど視野が広くなる。いつもはこうなると敵の動きが遅く見えてマークマン以外見えなくなるが、今度はゲーム全体がよく見えてくる。味方の動きの先も、なんとなくわかる。
 潮見の激しい、外に追い出そうとするプレッシャー。パスに対する徹底した妨害。
「ピストル!」「ボール!」「右!」
 かれきった声から伝わる気迫、素早いポジションチェンジ。凄まじいプレッシャー。
 だが、皆が動き続けていれば、どこかに必ず穴が空く。
 竜也に一臣がスクリーンをかけてくれ、そこに七緒が無理な加速で倒れつつボールを回した。
 小泉弟が瞬時に前に立ち、
「ボール!」
 のども裂けよと声を出す。
 だが、その動きはむしろ緩慢に思えた。シュートフォームに入った瞬間にできたわずかな隙、そこにボールを弾ませる。
 大きく見えるのはリングだけではない、ロングシュートに対するリバウンドを考え、微妙に変化したディフェンスもよく見えていた。
 かろうじてディフェンスを振り切った七緒の手にボールが吸いこまれる!
 鋭いストップからのジャンプショット、そのボールに遅れて飛び込んだ幹本の指がかする。
「リバン!」
 皆がポジションに必死で走る。
 一臣はもう、いいポジションを小泉兄に奪われているのを見て…体が勝手にその横に入った。
 歯を食いしばって腰を落とし、押し込む。ポジションを取れなくても、ジャンプはさせない。
 リング、バックボード、床と弾んだボールに倒れ込む。もちろん上から次々とのしかかられる。
「きゃああっ!」
「一臣くん!」
「一臣!」
 りんごを含むギャラリーの悲鳴!
 ジャンプボール、相手は小泉兄。
 行こうとした一臣が、一瞬ふらついた。
 強く歯を食いしばり、荒く息をつく。
「一臣、根性見せろ!」
 竜次が背中をどやしつけ、その拍子に一臣は客席のりんごを見た。
 涙。そして、声をからして叫んでいる。
 心の底から熱いものが沸き上がる。
「ゃあっ!」
 声を絞り出し、深く呼吸する。
「やれるか?」
「はい!」
 ジャンプボール、小泉兄も全身汗だくだ。
 上がったボールに、二人が跳ね上がる。
 互角、だがボールを奪った小泉弟が超高速のドライブ、素早く後ろの大塚に返す。
「ブラヴォー!」
 大塚が叫んでカットイン、逆サイドで兄のスクリーンを借りた小泉弟が斬りこむ!
「うがあっ!」
 七緒と一臣がとんだが、華麗なダブルクラッチが二人の手の隙間からリングに滑り込んだ。
「よっしゃあ!」
「さすが小泉弟、ここでこの二点は大きい!」
「返すぞ!」
 パスを受けた竜次が大塚と後藤を抜き去り、一気にゴールを狙う。
 小泉兄弟が立ちはだかる、と同時に
「もちすぎるな!」
 北田へ鋭くパス。
「いけえっ!」
 北田は即座に一臣にパス。一臣は受けてすぐロングシュートを狙う。
「くそ!」
 二枚ブロックが跳ぶ、その隙間に鋭いパス!
 鋭く動いて一瞬フリーを作り、受けた北田が打点の高いジャンプショットを決める。
「おっし!」
「死守!」
 一臣はガッツポーズもなく叫び、必死で戻る。
「とらえたっ!」
「残り一分!」
「二点差!」
「死守だあっ!」
「絶対取られるな!」
「一本!絶対決めろ!」
 大和台が必死で守る。
 残り一分、小泉弟のドライブを北田が弾く。
 ボールを取った後藤の背後から一臣が手を伸ばし、ボールを狙う。
 七緒が幹本のプレッシャーに耐え、ミドルポストに釘付けにする。
 残り五十秒、大塚から幹本へのリターンパス、小泉兄がスクリーンで七緒をこすり落とす!
「だあっ!」
 竜次と幹本が激しくぶつかるが、ボールはリングに滑りこんだ。そしてホイッスル。
 オフェンスファウルならノーカウントで大和台にとって決定的チャンス、ディフェンスならバスケットカウントワンスローでフリースローが入れば五点差、残り四十六秒。
 さらに幹本も竜次も四ファウルで、ファウルとされたほうが退場だ。
「ディフェンス、チャージング!バスケットカウント、ワンスロー!」
 竜次は唇を血が出るほどかみしめた。
 涙も言い訳もなく、胸を張って退場する…卓巳が拍手しているのを殴りたいのもこらえる。
 最後のタイムアウト、
「交代は?」
 ベンチが北野監督を見つめる。
 立とうとした卓巳がふっと竜次の腕に倒れた。
 女子の観客が総立ちになる。
「いけるな、哲太」
 哲太は自分の耳が信じられなかった。
「無理か?」
「いえ、いけますっ!」
 考えるより先に口が叫んだ。苦痛が吹き飛び、目が歓喜に輝く。いつもの明るさが戻る。
「泣いても笑ってもこれが最後や。こうなったら作戦もくそもあらへん。最後の最後までバスケをとことん楽しみぃ、勝てば百倍楽しいんや」
「おうっ!」
「バスケットは好きか?」
「はいっ!」

 幹本のスローイン。皆が入れ、外れろと二通りに祈っている。
 コートの9人は目の色を変えてリバウンドの準備をする。
 時間をたっぷり使ってセット、静かに放たれたボールは…まっすぐリングをくぐった!
「さすが、この土壇場で」
「うわああああっ!」
「しゃあああああ!」
 悲鳴と歓声が爆発する中、リバウンド争いでごちゃごちゃした人の渦から抜け出した哲太が弾むボールをつかみ、ライン外に着地すると同時に弾けるようなスローイン!
 受けた七緒が我に返った瞬間、哲太はもう走り出していた。
 北田と一臣も弾かれたように飛び出す!竜也にも加速装置がかかった。
 リターンパスを受けた哲太がハーフラインを切り破る。
 だが、その前に大塚と小泉弟が立ちふさがる!
「いけえ!」
 観客が叫んだ。
 哲太はそのまま一気にいくと見せ、急に減速した。大塚が置いていかれる。
 コースをふさいだ小泉弟の前で、哲太の体が深く沈みこんだ。爆発的な加速!
「抜いたっ!」
「いや!」
 後ろからダッシュした後藤が、哲太を大塚と自分とサイドラインで完全に閉じ込める。
「うわああっ!」
 悲鳴、だが…ボールは哲太の手にはなかった。
「筒井!」
「しまったあああっ!」
 スリーポイント。しっかりセット、小泉兄が全身で体当たりした。
 床に叩きつけられる一臣、それでも高い放物線を描いたボールが、リングを貫く!
「カウント―3点」
「ぎゃああああああっ!」
「ワンスロー!」
「二点差、とらえた!」
「かずおみいいいっ!」
「四点プレイ!」
「筒井くん!ス・テ・キ!」
「あああっ、悶絶しちゃう」
「失神しちゃーうっ!」
 大歓声の渦。
 倒れたままの一臣がガッツポーズした。
 フリースロー…
「うえっ!」
 ふと他校のユニフォームを着た観客がスコアブックを見直す。
「おい、筒井って今までの予選で、緒戦から一本もフリースローを落としてないよな」
「ああ、…あ!今までの記録が……四十連続」
「次で新記録だ!」
 噂が瞬時に客席を駆け巡る。
「あの『デリシャス・タイム』の筒井一臣が!」
 一臣は中学三年の一年間、りんごが出演していた料理番組で共演しており、全国的な有名人でもある。
「うわ〜」
「きゃああああ!すっごーいっ!」
「入れたら連続フリースロー新記録だぞ!」
 黄色い声に混じり、潮見大応援席から大声が飛んだ。
 七緒の顔が青ざめる…
(最悪の野次だ、緊張して落としたら)
「入れる、けどリバウンドはしっかり」
 一臣が七緒の目を見た。
 新記録の事など頭にないことは、その目を見れば分かる。
「ああ、任せろ!」
 軽く拳をぶつけ合う。
 会場が静まる。哲太が一言、メンバーに何かささやいたが。
(一臣、これが入ったら…もうなんでもしてあげる。だから絶対入れて!)
 りんごが涙ながらに祈っている。
 一臣は深呼吸し、無心で放った。
 ふわりと飛んだボールが、ゆっくりとリングを抜けた。ネットが高く跳ねる。
「ディフェンス!」
 歓声を一臣の叫びが吹き飛ばした。
 残り33秒、潮見 76対大和台75、
「一点差!」
「死守!」
「絶対決めろ!」
 後藤がこの状況で冷静さを失わず、的確なパスを大塚に入れた。
「三十!」
 哲太が必死で守る。全員、体が爆発しそうだ。
 冷静さを失わず、ゆっくりとボールを運ぶ大塚に、哲太もいつもの冷静さを取り戻した。
(すごいな、こいつ…ここでこんなに冷静に。
 負けるか、クール、クレバー、コントロール、コンセントレーション)
 だが、それとは別に熱いものがわいてくる。
 大塚がハゲ監督を見る。三十秒フルに使うか。
 両方体力、ファウルともに限界だ。もし延長になり、潮見に退場者が出たらファウルがない北田がいる大和台が有利だ。もちろん潮見大付属も選手層は厚いが、北田のようなスーパープレイヤーに対抗できる選手などそういない。
 向こうはファウルゲームにするか、正面から来るか。ファウルゲームなら全員フリースロー成功率が高い大和台が有利になる。
 ハゲ監督は時間を使え、とサインを出した。
(ギリギリで決めて、守り切って勝つ!)
 ドリブルを減速し、いつものポジションに位置する。残り二十秒。
 哲太はファウルをする様子もなく、抜かれないようがっちり普通に、バランスが取れた高いレベルの『普通』に守っている。あの異常な攻撃性も見られず、怪我の影響もないようだ。
(こっちのほうが怖いな)
 大塚が改めて感心した。中を見ると小泉兄に厳しい守りがつき、幹本が空いている。
 予想が外れた。潮見で唯一フリースロー成功率が低い小泉兄をフリーにしてシュートさせ、ファウルするかと思っていた。
 とっさにこれ以上なく確実なチャンス、フリーの幹本にパス…それを、飛び出した七緒がカットした!
「しまったあっ!」
 哲太の読み通り。幹本を捨てて小泉兄をマークすると見せ、大塚の動揺も計算してパスを狙っていたのだ。もちろん危険な賭けだ。
「ノータイム(残り十五秒)!」
 短いパスが縦につながれ、瞬時に最前線の哲太にボールが飛び込む。パスはドリブルより速い。
「くそおおおおっ!」
 怒りに任せて止めようとする大塚を嘲笑うように、ゆるやかなドリブルから突然爆発的に加速、と思ったらボールは北田の手に。
「させるか!」
 立ちふさがった幹本、だがドリブルで抜いてレイアップと見せ、飛んだ小泉弟の裏をかいてボールは後ろに飛ぶ。
 受け取った哲太が素早くシュートする。
「リバン!」
 全員が激しくポジションを争う。
 リングに弾けたボールをひときわ高く北田が弾く、それを幹本と争って一臣の指先が弾く。
 竜也がジャンプ力に任せて奪う、着地した瞬間小泉弟が下から打ち上げる。
 哲太はハーフライン付近で、味方が取った場合速攻に出ようとした大塚をがっちり抑えた。
 素早くポジションを移動した一臣がボールをつかみ、その場でジャンプショットと見せて七緒にショートパス!
「時間がない!」
「一点差あるんだっ、決めてくれ!」
「ディーフェンス!」
 アウトサイドで幹本と向き合う。ダンスのように躍動感があり、無駄なく美しい動きで右にボールをずらして左前にドリブル、シュートを狙う。
 が、小泉弟の鋭いフォロー!
「後ろ!」
 ボールは後ろにつけていた竜也の手に。そのパスも、酔わせるほどに美しかった。
「うわあああっ!」
 残りわずか、高いシュートが飛んだ。
 小泉弟も必死で跳んでいる。その指先がボールをかすめたか……
「リバン!」
 油断なくポジションを取るが、竜也はもう手をライフルに模して構えていた。
 入る、と確信されたボールが、リムに弾かれてバックボードに当たる!小泉弟の指か。
 その瞬間、ボールを北田がつかむとリングも砕けよとスラムダンク!
 同時に試合終了のホイッスル、全員が振り向く中審判のVサインが振り下ろされる。
「やったあああああっ!」
「全国だあっ!」
 大和台の皆が飛び上がる。
 抱き合って叩き合う中、哲太と一臣が完全に潰れた。
「おい、整列の間だけ立っていてくれ」
 七緒が苦笑しながら二人を引き上げようとして、自分もふらつく。
 だが、皆の心の底から大きな何かが膨れ上がってきた。
「77-76、大和台高校」
「あ(りがとうございま)したあ!」
 その時になってやっと、その「何か」がわかった。あまりにも大きすぎてそれと気がつかなかった、喜びだと。楽しさだと。
 バスケットが大好きだ、ということが、今までとは違う大きさで実感できた。

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