高瀬綾(たかせ りょう)
作風概説
迫力があり、美しさと可愛らしさ、表現力共に高い絵と抜群のストーリー構成力、コメディセンスの持ち主。
知的で上品なお兄ちゃんタイプと情熱的で乱暴な同年代の男の子、という三角関係が多い。
作品は多彩で作風の変化も大きいが、共通して底に流れる温もりは心地よい。意志の強い、受け身のようで情熱的なヒロインがとても魅力的で、男の子の大胆な元気さ(バッファローと呼んでいる)も見ていて飽きない。
(現在)非常に鋭く、深いサファイアのような重厚な感じで美しい絵。色香もとても高い。ページいっぱいに人物を描いたり、わずかな表情の変化に無限の感情を叩き込んだり…表現の切れと大胆さ、美しさは息を呑む。激流ラブストーリー、と自称している。
最近はその様相を残しつつコメディタッチを仕掛けているので今度どうなるか、まだまだ予断を許さない。
(初期)ギャグの要素が強く、ふわっとした絵を巧みに活かしつつなんだかずれた熱さもあった。コメディとシリアス双方の作品がある。切なくなるような暖かな絵と、そしてやや子供向けながら非常に奥の深いストーリー、そして表情豊かなキャラクターが特色。
最新の単行本カタログには載っていないが、「オレンジポケット」は文句なしの最高傑作だし寓話風の初期短編も傑作ぞろい。
(1992〜98頃)ギャグシーンではほやっとした絵、ふだんはやや柔らかいが美しい感じで独特の優しいムードを活かしていた。しっかりしたストーリー、先進的な題材と魅力的な人物の、ふわっとした雰囲気の作品が多かった。ミュージカル仕立てを好む事もあった。
代表作
90「オレンジポケット」単行本全一巻。
グレーの街(ミルカはグレータウンと呼ぶ)のクリスマスに孤児のミルカは教師兼科学者のワイヤットに引き取られ、二つ上の男の子セラフの優しさに閉ざしていた心を開き、黄昏時はオレンジに染まる森(オレンジフィールド)の家で幸せに成長する。
そして二人の心が恋に変わり結ばれた直後、セラフに言い寄ったミレディという少女がセラフのミルカに関する記憶を奪った。セラフの記憶にある、昔ワイヤットとセラフの両親が研究していたタイムマシンのキーワードを狙ってのことらしい。哀調と無限の優しさを秘めた最高傑作。
91〜98「リリィ&アールのふしぎなお店」単行本全三巻。
恋に悩む少女達の誰かお願い力を貸して、という祈りに応えるのが修行中の不思議の国の王女様、リリィとお供のアール(リリィに手を出さないよう人語を話すねずみに変えられている)。
魔法のお店の不思議なグッズが願いをかなてくれる。正統派魔女っ娘ものの最高傑作。話のバランス、一つ一つのエピソード、ゲストキャラクターの魅力、グッズの設定など全てが素晴らしい。
92〜95「くるみと7人のこびとたち」単行本全五巻。
親類で童話作家の憧れのお兄ちゃんが帰ってくる!大喜びで飛んでいったくるみだけど、お兄ちゃんはいなくて代りに一冊の古い本が。その本から出てきたのはグリム兄弟。彼らの話ではその本を通じて春日おにいちゃんは童話の国、メルヘンランドに行ってしまい、白雪姫と恋に落ちてしまった!
それで筋通り死ななかった継母、サザーヌが権力を掌握、あらゆる童話を狂わせて悪役が栄えるようにしてしまっている。狂ったお話を直すため、そして春日お兄ちゃんを助けるためにメルヘンランドに行くくるみだけど、いきなり変態えっちっち王子カイルにキスされそうになって!
くるみとカイル、そして7人のこびとたちの狂ったお話を直し、お兄ちゃんと白雪姫を救い出し、そしてサザーヌを倒す壮大な冒険の旅が始まった。二転三転する筋、深い人間愛、もう夢を描く童話は必要ないという重い問いかけ、悪役さえも魅力にあふれた名作。
特に、「白雪姫」の白雪姫を助けた狩人に当たり、それゆえに片目を奪われ、以後サザーヌのために暗躍、一度はくるみ達の仲間になりつつ裏切り、そしてサザーヌに対する忠誠を、と思ったらそれも領主にする、という約束のため、それをも裏切られて最後にサザーヌと刺し違え、全ての動機は領主となって白雪姫を幸せにしたかった…善にも悪にも徹しきれず、ひたすら愚かで哀しいレオの人物像は白眉。
98「My Dear」単行本全一巻。
怜奈は両親を事故で亡くし、従兄弟のお兄ちゃんに守られて安楽で幸せな暮らしをしていた。でも、プレゼントにするつもりだった時計が原因で出会った少年、甲斐に唇を奪われ、そしてどうしても縁ができて、止めようもなく恋が燃え上がっていく。圧倒的なまでの鋭さ、崩さない美しさ、色気、激しい愛の表現など作風をがらりと変えた作品。
99〜2000「ほしいのはひとつだけ」単行本全三巻。
14歳になった梨化はおねえちゃんの大人らしい美しさ、16歳にして魔性の女とも言うべき恋愛手管に憧れている。そのおねえちゃんの、本気の相手は担任の矢野!?
その上クラスメートの哲太にも告白されてパニック。なのに、ある時は送るついでに、ある時はおねえちゃんの代りに何度も矢野とデートを重ねてしまう。
結局哲太の気持ちを受け入れ、彼を好きになろうとするけど、ある日矢野が好きと気づく・・・。大人の雰囲気に胸が締め付けられるような、運命的な恋を描ききった傑作。
2004「ディア・フレンド」
こどものころはむじゃきに「ともだち」って笑うだけでよかった…オトナになってもわたしたち“ともだち”でいられるのかな…
全国大会に進出した文武両道の鷺宮るかと亜由子ちゃんは、小さい頃からずっといっしょ。
でも、二人の能力…住む世界はもう違う…周囲は亜由子ちゃんにそれを思い知らせようともする。
そして亜由子ちゃんは両親の離婚問題、自身が常に人にいろいろな仕事などを押しつけられる…断れない、自己主張ができない性格などで徐々にストレスがたまっていく。小説も書いたりするけれど、やはり自信がなくて…
そんな時、るかと同じくできる大地くんが急速にるかちゃんに接近し、親友のはずなのに…と裏切られる思いが…
熱い友情を劇的に描ききった最高傑作。
今までの実績、現在の地位
「くるみと七人のこびとたち」以外は比較的短期の連載で巻頭カラーなども少ないが、ずば抜けた実力で長いこと安定した本誌レギュラーの座を確保。
近年は大人っぽい大胆な表現を武器にカラー扉が多くなるなど存在感を増したが、2002年から連載がない。
現在は増刊でよく活躍している。
個人的な感じ、思い出
今までのほやっとした作風も好きだった。反面、現在の激しい表現への変化で驚き、同時にこれ以上どこまで成長していくのか底知れないものを感じている。
「リリィ&アールのふしぎなお店」がものすごく好きで、「るんるん」の廃刊の時「なかよし」に移植してアニメ化して欲しかった。早くまた連載して欲しい。
初期読み切りや連載、特に名作「オレンジポケット」と「リリィ&アール」の文庫化も強く望んでいる。