早稲田ちえ(わせだ ちえ)
作風概説
鋭い絵。天才的な感性の持ち主でやおい的な、刃物、否ガラスの破片のような鋭い表現力がある。
まるで骸骨のように、肉の存在を拒否するかのようなやせ細った体の人物、激しい怒りの表現、登場人物の性格の悪さと軽妙な会話などに強い中毒性がある。
甘さを拒否した、激辛で冷酷な片思い描写がとにかくすごいし、そこから無理矢理両思いに持って行く場合も凄まじい迫力がある。
代表作
92「好きっていわない!」
単行本全一巻。ゆみと坂上くんは幼なじみでなかよしだけど、つきあってはいない。坂上くんの親友で、モデルでもてる諏訪くんがいつもちょっかいをかけてきたり、陸上部で何か、精神的なものが足りないと言われたりして大変な中、いきなり坂上くんに彼女ができた。鋭い想いの交錯で描かれた、非常に感性豊かな作品。
95「バージン・ショック」
草薙夏緒ちゃんが恋したのは先生、塚原裕貴。ずばっと告白したけど、残酷なまでのギャグ扱いをされ、いつもの、皆に向ける笑顔で胸を叩き切るような真似をする。
その八方美人に傷つきながらもどうしようもなく好き。でもその残酷さのわけを昔馴染みは知っていた。文字通り、ガラスの破片が食い込み、血を吹き出す傷口を見つめているような生々しさのある、凄まじい感情描写。
93〜98「高慢チキ子ちゃん」るんるん準連載、単行本全一巻。
ハイテンションで意地っ張りのチキ子ちゃんは、クラスメートの泣き虫、泣田くんをいつもいじめている。が、好きだからと言うのが見え見え。
子供も生き生き描けているファンキーで楽しいギャグマンガ。
96「Summre Blue」
親しすぎた水谷さんにふられ、傷心の北田・・・痛みを押し殺している中、小悪魔の要にからかわれ、ひっかきまわされる。しかももうすぐ、アメリカに行かなければならない・・・。
どうしようもない、どれだけ痛んでも彼女には何も届いていない・・・感情が暴発する瞬間、上の階からバケツ水が。胸を7.62mm×51NATO弾で蜂の巣にするような、覚悟なしでは読めない作品。
2000「純情事情」
引っ越してすぐ一目ぼれした啓司は隣、ということで猛烈アタックの新庄マリアだが、啓司の対応は徹底的にそっけない。その啓司は、心に余りにも重い、息が詰まるような恋を抱えている。
啓司が誘った中学仲間の気の置けない集まりで「シノブ」と会えるか、と思って決めまくったマリアの耳が捉えた。男同士の罰ゲームキスを啓司が強く拒んだ親友の名前が「恣伸」であることに・・・。余りにも痛い、それでいて恐ろしいまでの美しさと圧倒されるほどの強さがある戦慄の傑作。
「NERVOUS VENUS」本来「Amie」連載で、現在は増刊で連載中。KCアミからも単行本五巻まで発売中。
大切な人、アキを交通事故で失ったハル。高校の入学式で彼女に一目ぼれしたセキは激しくハルに接近するが、ハルは激しく拒絶する。
そして不思議な安らぎ…泣く場所さえ与えてくれる、たいこーという男も登場して…切れ味鋭い感情に満ちた最高傑作。神田とセキのホモネタ専門漫才、ゲッヒンズも楽しい。
今までの実績、現在の地位
短期だが「なかよし」本誌連載経験もあり、増刊でしばしば大きな読み切りを発表、単行本もかなり出ている。
ただ、その激しすぎる、鋭利すぎる表現は明らかに「なかよし」の枠には収まりきれていなかった。
だから「Amie」の創刊はファンにとって最上の福音だったし、素晴らしい傑作「NERVOUS VENUS」をものにしたが、無残にも「Amie」は廃刊となってしまった。
現在「なかよし」増刊で「NERVOUS VENUS」連載再開。
現在増刊は「NERVOUS VENUS」に強く依存している。
本誌付録カレンダーにも載ることがあり、トップレギュラーに準じる扱いではある。
個人的な感じ、思い出
その凄まじいまでの感情表現と、切ないと言う言葉を通り越した、拷問並みの痛みは簡単には耐えられない。この苦痛が本当の快感になる、それだけの強さを持ちたいものだが。
本誌でもこの力には狭すぎる。増刊を目にする人がどれだけいるか…もっと大きな場で活躍するのも見たい。
何よりも「NERVOUS VENUS」でその力を出し尽くし、大人の事情ではなく描き尽くして無事に完結することを祈っている。