山田デイジー (山田デイジー)

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作風概説

 表情豊かでデザインとしての顔も結構柔軟に使う。鼻がほとんどない。
 かすかな、ぼーっとした光が全体に漂うようで、さりげなく深い甘みとなんともいえない哀しさ切なさを感じる、すごく控えめだが複雑玄妙な白ワインの味わい。
 どこを見ても体から非常に柔らかい印象が伝わってくる。
 デフォルメ絵は部分強調がうまく、ころころした丸っこさが可愛い。書き文字の丸っこさがまた可愛い。
 表情と体による感情表現のどちらもとても強く、伝わりやすい。

 背景などはかなり手が込んでいてリアリティが高い。
 技巧もかなり使うのだが、それも背景のように隠れていて目立たない。

 ストーリーはとことん正統派で、さまざまな感情を生理的な描写も含めてとても丁寧に描く。
 青春そのものの痛み、家族の複雑な関係や友達の複雑な心理も丁寧に、共感できるように描く力もある。痛みを強調することが多く、全体にやや暗い雰囲気がある時期もあった。

 ただし、「恋ブル」は明るい雰囲気で終始した。


代表作

2004「恋が、はじまる。」
 告白がゴールだと思っていたけれど、両思いで付き合い始めてみたらどうしていいかわからない…
 恥ずかしくて顔も見れない、とりあえず「みんなやってること」というメモにあった手をつなぐ、一緒に帰るなどをやろうと思うが恥ずかしくてとても動けない。
 苦しくて、気まずくて、彼の困ったような表情がとても辛くて…とうとう…
 恋がかなってからの苦しさをとても丁寧に描いた、傑出したデビュー作。

2004「トマトと14歳」
 学校にはあまり来ないし授業も受けない、服装は違反だらけの今井くんと風紀委員の友子ちゃん、当然友子ちゃんは怒鳴ってばかり。
 しかもそろそろ受験が迫る。自分は先生とお母さんの言うとおりの志望校にしたけど、自分が何をしたいのかまだわからない…
 六時間目だけ「国語は好きやから受けにきてんっ」などといい、さらにノートまで借りていく(しかもみんなにも先生にも好かれている)彼の勝手さを見ていると、まじめにしている自分が損に思えてくる。
 でも彼は勉強にも真剣だし…そして、貸したノートとともに机においてあったトマト。今井くんを見つけたのは学校の畑で、校長先生と農作業をしていた。そして「こばやんも勉強たのし?」という一言が心に刺さる…人とちがうことをしてしかられるのがこわい、そして受験のことばかりの母親のプレッシャーが重い…
 車輪の下に押しつぶされるような感じと、暖かな救いをまさに受験生の視点で丁寧に描いた傑作。

2004「まっしろ」
 もし…好きな人にもうすぐ彼女ができそうだったらどうする?
 冷え性の愛美ちゃんに、暖かく声をかけてくれる山本くん。でも、理沙と山本くんはいつも仲がよく、二人はいずれくっつくだろうと予想できる…その現実に痛みを覚えながら思いはどんどん募っていく。
 切ない思いをあらゆる角度から丁寧に描ききった最高傑作。

2006〜11「イノセント・ワールド」
 ごく普通のクラスの、いろいろな子に起きるちょっとしたこと…それぞれの悩みと青春を丁寧に描く。

2008「ギリコイ」単行本全二巻。
 家の前で学区が変更されたから、引越しもしていないのに一人だけ中学が違う冨永真央ちゃん。
 一人ぼっちで不安だらけの中学生活の始まり、その最初から上級生に囲まれている男子を助けて叫んでしまった。実はいじめでもなんでもなかったんだが…
 自分以外皆が友達同士で溶け込めない新しい学校、それで不安がっていたときに、さっきの男子…陸くんに王子と呼ばれて、それでみんなにうまく溶け込めはした。
 しばらくは彼のことを松田陸、とフルネームで呼んでいたけれど、小さいのにサッカー部の期待のエースだったり、実は彼のほうが王子だと感じてしまう。そしてお互い名前で呼び合うようになり、ますます惹かれていくけれど、彼が用事があると断った祭りで…彼が女の子と手をつないでいることに気づく。
 許されぬ、けれども激しすぎる思いに振り回される甘く切ない恋物語。

2009〜10「ボーイフレンド」単行本全三巻。
 転校生の橘聖姫(ひじき)ちゃんは初日にちょっと迷って、崖を登って桜咲く台についたとき、一人の男の子に出会った。同じクラスだったけれど、彼、宝来くんは彼女を完全に無視する…明るいクラスメートたちに溶け込むように見えるけどどうしても宝来くんが気になるひじきちゃん。
 そんな中、「今年の目標や夢」について、宝来くんとペアを組んで発表するように言われるが、彼はそれを拒絶する。
 そして発表の時に皆に注目され、何か強い対人恐怖を感じて教室から飛び出し、そこを宝来くんにかつがれて教室に帰る…
 明るさの底の緊迫感が恐ろしいほどの迫力、激しい痛みで読者を引き回した衝撃作。

2010〜11「先生に、あげる。」単行本全三巻。
 まじめだけれどそれほど頭がいいわけじゃない田中あざみちゃんはみんなにも疎外され、何の光もない日々を過ごしている。
 彼女の日課は、昔大病した姉の見舞い…ある日、姉は自分のための大人っぽい服をあざみちゃんに着せた。
 その帰り道、カバンをひったくられ、それを追ってカバンを取り返してくれた男にお礼をしようと、メモ用紙がなかったので手に携帯電話番号をメモし、それからまた彼が何かなくしたようなのを探すのを手伝う。
 それからあらためてお礼に行き、衝動的にキスしてしまった。
 そして翌日、再会…新任教師だった彼と。
 凄まじいまでの切断感と迫力で、死に至るような恋の深みを描いた。

2011〜13「王子とヒーロー」単行本全四巻。
 田舎から東京に急に転校、城としか言えない超金持ち学校に入った勝平花ちゃん。みんな美男美女でおしゃれ、学校専用のバスに自動車通学…さらに王子様としか言いようのない超美形男子。
 丸一月、全く学校に馴染めず友だちいない状態…それで癒しスポットの裏庭の花壇をいじっていたら、別の黒髪の男が走って花壇を潰した。
 その翌日、その花壇を潰した子とバスでぎゅうづめ再会、さらに王子まで声をかけてきて…ダサいのに、とジュースまで飛んでくる。

2013〜15「恋するふたごとメガネのブルー」単行本全五巻。
 対照的な双子、頭はいいけど内気な春田ももちゃん、活発なさくらちゃん。
 ももちゃんが初恋、ということで浮かれる家族。
 それがきっかけで、さくらちゃんも恋に関心を持つようになり、ふだんじゃれているフジタくんにからかわれたりしている。
 そんな帰りに、教科書返したいけどニキビができて彼に会えないから入れ替わって、とももちゃんに頼まれたさくらちゃん。塾で探し当てたメガネは、なんとフジタ!?

2015〜16「初恋はじめました。」
「センパイのこと…好きになってもいいですか?」
ずっとスクールカーストの底辺で本を読んでいる姫子ちゃん(高二)は、恋愛が大嫌い。
リア充にデビューした幼馴染、心愛ちゃんに恋の話をされては拒否している。
心愛ちゃんに引っ張られて、全国大会一位常連のハルキくん(中等部)を見に陸上部の練習を見る。
そしてのんびり、桜の下で本を読んでいたら…
突然、塀をとびこえたハルキくんに潰された。そして彼は泣いていた…
彼も同じ人間で、スランプにもなる。それを見た姫子ちゃんは思わず大声で…見事に飛んだ彼は、冒頭の一言を。

2018〜「ブラット・ハントちゅっ」
 兎本ちゆ、小学校六年生。昨日からいきなり幽霊みたいなのが見えるように。
 それでうかれまくっていて…
 祖母の家に住むことになったが、その祖母はその能力を理解してくれる。
 それで、見かけた辛い思いをしている子の心を理解しようとしたが、それを止めるイケメンがいた…


今までの実績、現在の地位

「なかよしまんがスクール」が改編されて始めての、ゴールド賞での直接デビュー。
その後も本誌別冊付録に出るなど注目されている。2006年冬から増刊で連載、本誌にも二ヶ月連続で登場、それから順当にレギュラーに定着。


個人的な感じ、思い出

 むしろ飢えていた、本当に純粋な少女マンガをとことん堪能できた。
 この細かな感情表現や自然に作品になじんだ技巧など、とてもいい作品だった。

 楽しみにしていたデビュー後第一作は見事に受験生の重い心理と成長が描かれており、たまらなく感動した。
 願わくば、『車輪の下』のように青春の負の面と初恋の純粋ゆえの残酷さもこの抜群の心理描写で繊細に描いて欲しいし、それが読者に理解され、読まれて欲しいと切望している。

 本誌連載はここ数年で一番嬉しいニュースだったかもしれない。とにかく読者にこの素晴らしさが分かってもらえるように、と祈るばかり。

 ただ、個人的にはいじめの話は描いてほしくなかった。力のある作家だとわかってはいても、あまりひどく人の闇に手を突っこみ、それで読者をひきつけるようなことは…

 どうも連載だと負の感情が強い、暗い作品になりがちなのに首をひねっているが、それは感情表現力の高さを活かすためには仕方ないかもしれない…読みきりならできないところまで連載なら掘り下げられるし、また連載は続くかどうかも分からない制約の中、ある種のクリフハンガーで読者をひきつけ続けることも必要で、それには負の感情が一番便利だし。
 ならむしろ、普遍的なテーマを深く掘り下げる、やや恐怖よりの作品のほうがいいと思うのだが…クリスティ「春にして君を離れ」のように。

「恋するふたごと〜」で一応、暗いワンパターンなしで明るく楽しいまま終わった。これからも、楽しい作品を読みたい。