パターン分類10-10
んちゃ、講義を始めます。出席カードを回してください。
まとめがだんだん視野に入ってきて、ふと気付いたのですが、僕は今までの講義で、「モチーフ」と「パターン」の使い方が混乱していましたね。意味が分かっていなかったのでしょう。今まで議論してきたことの、ほとんどが「モチーフ」の分析と分類だったと思います。「パターン」はもっと具象的なのかも知れません。その混乱を今更修正するのは不可能に近いですが、留意していきたいと思います。混乱させて申し訳ありませんでした。「パターン」とは例えば{眼鏡の女の子は眼鏡を取ると美人である}のようなものであって、{幼なじみはくっつく}はどちらかと言うと「モチーフ」に近い気がします。と言っても厳密に分けられるものなのかどうかはよく分からないのですが。とりあえず、モチーフのほうの検討を中心にしてきましたし、これからもそうします。この講義の根本的な動機は話がありきたり、というのは一体何を意味しているのかを知りたくなったからですから。そして、何故「デリシャス!」で一臣がりんごに三千代ちゃんの気持ちを告げられたとき、一臣が告白しようとして、その時に電話で中断される、と僕を含め皆が予測し、そしてその通りになったかです。予測ができたと言うことは、そこには何らかの理論が隠れていて、皆はそれを言葉で知らなくとも感覚として共有している、と思えたのです。例えば誰もがボールを投げて的に当てることができ、そのボールの弾道にはニュートン力学が隠れているのと同じように。力学を知らなくてもボールを的に当てることはできます。でも、僕はその理論を知りたいのです。それが何の役にも立たなくとも・・・。
今回から学校について考えていきます。昔の項目分けでスポーツなどの夢、学校そのもの(非行も)、受験と分けましたが、スポーツなどは家族ものと学校の部活以外にはないと言っていいのでそれぞれの項目で扱い、受験は学校生活の一部ですのでここでまとめます。
学校の重要性は舞台としての比重の大きさですが、テーマとしての学校とは学校の制度そのものとの葛藤です。結果として非行が起きたりしますが、非行は後述するように家庭問題などさまざまな原因があり、複雑です。特に大きいのが校則に代表される管理体制で、他には教師と生徒の葛藤、教師同士の葛藤、部活動のシステム、受験に付随する諸問題、学校の更に上位システムである教育委員会や文部省の教育政策まで色々とあります。
ジャンルごとに考えます。それぞれのジャンルで、今までの講義でみられたように様々なテーマの作品について舞台としての学校がでてきています。テーマとしての学校であることに注意していてください。
ギャグですが、学園を舞台にしたものはとても多く見られます。テーマとして、学校の様々な側面を皮肉で表現したりするのもよく見られる手法ですね。
ホラーの舞台としても学校は重要ですが、学校そのものが恐怖の対象となる形としては、校則などとの葛藤から学校を呪って死んだ悪霊や、学校そのものが持つ七不思議など、新しい民間神話の場としての闇に対する恐怖等があげられます。学校をその面から考えますとまず夜間無人であることです。夜間、無人となった巨大な校舎はそれ自体が恐怖感を感じさせます。空っぽの大きな器であり、そこに魔が住みつくと考えるのは自然なことです。次には闇のはけ口としての面です。子供たちの社会は現在、ほぼ学校を中心としており、その中で闇を見つけ出さなければなりません。子供はどうしてもそれを必要とする存在です。それで学校の様々な場所・・・鏡、理科室の標本、階段、地下室、屋上などの立入禁止場所等の恐怖感を抱かせる場所を素材として怪談を形作っていくものです。ホラーではそれを直接現実化させる形式が多いですね。
サスペンス、ミステリーでは、動機として教師と生徒、教師同士(学園内の権力抗争含む)、生徒同士等が葛藤から怨恨を募らせ、凶行に及んでしまったりがあります。この場合にはシステムと人間の関係をえぐる結果になりますね。学校の体質の問題として、起きてしまった事故や事件を学校の体面のためもみ消す行為(いじめに対する基本的なアクションです)が事を大きくするのもあります。
アクションで、学校と関係の深いものには少年誌でよく見られる不良格闘があります。少女誌にはその要素が少ないのですが・・・過去形かも。
スポーツなどはそれ自体学校の部活が主な舞台です。テーマが学校、と言うのは混乱しますが、部の規則などシステム面を問題にする場合を考えていきます。これはまずそれが部かサークルかによって大きく分かれてしまいますし、強豪か弱小かでも大きな差があります。部であれば部内での人間関係、伝統としての体育会系を始めとする緒制度の問題、その活動を支配する学校の問題、例えば高校野球における高野連のようなその分野の体制の問題等があります。サークルでは主に内部での人間関係、潰そうとする生徒会や学校との(しばしばギャグ混じりの)葛藤などが主です。
部内での人間関係ですが、これは特に同期の場合は友情ものでかなり詳しく扱いました。他、先輩と後輩、監督と生徒等の上下関係も重要です。まず先輩と後輩ですが、厳しい部では最初に厳しいしごきと上下関係の確認儀式があります。礼儀について徹底的にしつけ、一種の洗脳に近い感じで上下関係をすり込むわけです。これで始めに、反骨のある者は反発します。因みに、厳しい部のほうが強いことが多いのですが、これは必ずしも一般には言えません。マンガでは自由な事による強さのほうが尊重されます。先輩との関係について、三角関係でもある程度述べましたが、女子である主人公達にとって男子の先輩は憧れの対象である清潔感のある(一般に性を除去された)スターと、不潔感を感じるむさいおっさんのタイプに大別できます。スターのほうとの恋愛については大体既述。おっさんのほうが恋愛の対象になることが少ないのは勿論ですが、場合によってはその頑張りを見て尊敬が恋愛感情に変わることもありますし、単純に見直して尊敬の対象に変わるだけの事もあります。主人公の相手役にはなりにくいです。同性の先輩との関係がむしろ重要で、既述の通り三角関係になることも多いです。それ以外の関係ですが、上下関係ですので単純な友情ではありません。強い上で結びつく場合とそうでないものがあり、情が強いときについてはあちこちで考察してきました。それほど強くない、普通の先輩後輩について少し詳しく考えてみますと、普通の先輩は規則を押しつける存在として描かれることが多いです。逆に先輩から見た後輩はわがままで手がつけられない存在として描かれます。その葛藤と和解も重要です。監督と生徒の関係ですが、監督が人間である場合と服を着た規則である場合に大別できます。人間であれば規則と(生徒に味方する)人間性の間で葛藤します。規則の権化として描かれる場合も多く、この場合には監督と生徒の葛藤に見えて、実質的には規則と生徒の葛藤です。部活の類で重要な規則ですが、普通の校則と同じ、例えば服装(部活でよくでてくるのは男子の丸刈り)や恋愛禁止などもありますが、ここで問題にしているのは無意味かつ不合理なしごき、勝利至上主義による選手を部品と見なすような機械的な戦術、生徒の意志を無視したポジション転向の強制等があります。極端なケースですが、悪質な監督・・・生徒に対するセクハラ、金品授受によるものを始め悪質なひいき等もありえます。これら、部活においての悩みについても詳しくは後述します。
学校や家庭を舞台とする、学校生活全体を描くものが学校と言うテーマのメインです。別章後述。
歴史やファンタジーですが、歴史的時間やファンタジーなどの社会で、学校制度が設定されていることもよく見られます。
これは舞台でもあるので重複を避けるために同時に考えていきます。その学校制度は基本的に現代日本におけるものよりも管理教育の問題を誇張しやすいです。児童憲章がなかった時代や、ましてファンタジーなら・・・。また一般に階級制度を強く使えることも言えるでしょう。
ファンタジーでも学校があるものはよく見られ、これには魔法学校など、設定を重視するものがよく見られます。基本的には上流階級と同じような社会背景がありますね。魔法の場合、その才能が直接力・・・武力と権力の両方に結びつくので、その点例えば上流階級をからめたスポーツものと共通ですね。
歴史ものでは普通教育が普及した後の西洋とそれ以前の社会で大きく分かれますが、基本的に教育は上流階級のものです。そして、現在も上流階級では教育が特別な意味をもっています。イギリスではパブリックスクールが紳士階級を象徴しています。普通教育が普及した後、それでも階級が厳然として存在する社会ではですが、パブリックスクールが一種の基準です。寄宿制度をとり、その中で名門の子弟に教養と階級にふさわしい人格を植え付ける、これがそう言った教育の基本です。古典教養が中心であることも重要です。これについては細かくは国や時代ごとに色々な違いがあるのですが、それは略します。現段階では余り知りませんし。補講でできればいいのですが、かなり大変になりそうです。それらと密接に関連しますが、特に上流階級女子を対象とした教育の体系として修道院とそれに付随した学校があります。日本を舞台にした少女マンガで描かれる寄宿学校もそれが普通です。一般にそうしたところは極めて規則に厳しく(無論恋愛など厳禁)、それに背いた場合には現代日本では人道上許されないようなかなり残酷なものも含めた懲罰が課せられます。それを逆用して意地悪役が身分の低い主人公を冤罪に嵌める、と言ったパターンは昔よく見られました。身分を強く反映し、低い身分の人間がいた場合には奴隷扱いされることも当然です。学校そのものとの葛藤ですが、多く見られるのは近代的な感覚や教義に縛られることを拒否する、より純粋なものや新しい考え方、恋愛感情などに目覚めた女子がそれを抑圧する学校と葛藤する・・・過去形ですね。上流階級以外についての学校ですが、幸運な者が本来上流階級の為の学校に入って苦労する、というパターン(優秀故の奨学金、既述の養子縁組等)と、普通教育に分かれます。普通教育は普及がまちまちです。規則の厳しさと外国の場合の宗教性の強さを除き、現在の学校と変わることは余りありません。
普通教育の概念がない時代ですが、この場合教育は上流階級に独占されています。西洋において、国や時代によっていろいろありますが、修道院など教会、家庭教師、大学などがありました。ただ、女子と関係があるのは幸運なら家庭教師と修道院ぐらいです。
現代を舞台とした上流階級についてですが、外国ものとしてイギリスのパブリックスクールのような階級育成のための学校がしばしば見られます。日本において、現実ではそれはあまり見られず、偏差値によって輪切りにされるのが多いです。無論家の経済力である程度は偏差値は高まりますが。少女マンガの中では上流階級のための極端な寄宿学校を設定することがよくあります。また、少女マンガではしばしばデザイナー、芸能等の職業がそのまま上流階級となる事がよくあります。そう言ったものは単なる職業を越えて、世襲で伝承されるべき身分(家元株や親方株などの株でもある)であり、同時に莫大な収入と特殊ですが高い社会的地位を意味していますから。
芸能界もので学校との葛藤がテーマである、となりますと学業との両立の苦労が中心になりますし、本格的な芸能界入り前の段階の話なら芸能活動を許さない学校との葛藤もあります。
舞台について、学校との葛藤の大半が学校を舞台にすることは言うまでもないでしょう。が、登校拒否や非行は家庭や街等を舞台にすることも多いです。また教師と私的に会う場合には教師宅や様々な会話ができる場、例えば公園のベンチや芝生、街の喫茶店(恋愛疑惑の元になるが)など、図書館などの公共施設も用いられます。ファンタジーなど特殊なものについては上述。
それでは今回はここまで、何か質問は?御静聴深謝。