パターン分類10-12
んちゃ、講義を始めます。出席カードを回してください。
前回非行の具体的な定義で、虞犯行為という言葉を使いましたが、きちんとした下調べをしないで使っていました。ごめんなさい。
法的な定義そのものも下調べなしで、間違ってはいない、という程度でした。
非行少年の定義から・・・(注釈少年法;田宮ら;1998;有斐閣)
「第三条、
- 第一項、次に掲げる少年は、これを家庭裁判所の審判に付する。
- 罪を犯した少年
- 14歳に満たないで刑罰法例に触れる行為をした少年
- 次に掲げる事由があって、その性格または環境に照らして、将来罪を犯し、または刑罰法例に触れる虞(おそれ;投稿者注)のある少年;
イ;保護者の正当な監督に服しない性癖のあること。
ロ;正統の理由が無く家庭に寄りつかないこと。
ハ;犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し、又はいかがわしい場所に出入りすること。
ニ;自己又は他人の特性を害する性癖のあること。
- 第二項、家庭裁判所は、前項第二号に掲げる少年及び同項第三号に掲げる少年で14歳に満たない者については、都道府県知事又は児童相談所長から送致を受けたときに限り、これを審判に付すことができる。」
が非行少年の法的な定義で、虞犯少年とは第一項3で述べられているものです。簡単に注釈しますと、非行少年とは犯罪少年、触法少年、虞犯少年に分けられます。犯罪少年は第一項1の14歳以上で罪を犯した・・・刑法犯だけではなく、道路交通法や軽犯罪法、その他の何かの処罰を伴う法律も含め、それらに触れる行為をした者です。触法少年とは第一項の2にある通り犯罪少年と同じですが、14歳未満です。虞犯行為の意味はそのままイ、ロ、ハ、ニに上げられている通りですね。
その点、単なる犯罪も立派に非行なのですが・・・ここではそれを取り扱うことはしません。少女漫画における重犯罪はそれ自体ミステリー、サスペンスという別のジャンルを構成しています。その意味、ここでいう非行はほとんど虞犯行為ですね。それに加えて飲酒、喫煙、万引き、暴走行為など比較的軽い罪があるぐらいでしょう。家庭が中心の話や、秘密恋愛がばれるきっかけとしてでない限り、補導若しくは逮捕ということはありません。ですからそれ以上の少年法に関する注釈は必要ないでしょう。
非行について、大きく分けるといつ誰がを考えるべきでしょう。
いつは話が始まった時点で既にぐれていたのと、話の中でぐれるのとがあります。
誰がは、まず(女子である)主人公、ヒーロー、その他に大別され、その他には友人、三角関係のサブヒーローやサブヒロイン、家族、それ以外のやられ役キャラがあります。家族は兄弟姉妹や同居相手の場合もあります。大人では非行という言葉は使いません。
それぞれの場合について、話に与える影響を考えてみましょう。
- 主人公がぐれている場合ですが、これはそれが自発的である場合と、別の誰かを追いかけてである場合とに大きく分けられます。
自発的であれば、根本的な原因である絶望を解決した時点でぐれる理由がなくなります。
別の誰かを追いかけてでしたら、その誰か、これは片思いの相手が多いのですが、その人が(主人公自身や第三者の影響で)更正し、同時に自分も理由がなくなるというのか又は、その人に対する思いが幻だったと気付く、幻滅系統のモチーフが多いです。理由は第三者のおかげということも多く見られます。
主人公がぐれている場合には、幼年少女誌では普通それほど深刻な非行ではありません。重犯罪にまでいくことはまれで、単にいかがわしい人物・・・新しい友人や好きになった人と接触するようになり、酒や煙草を教わることもある、と言った意味での虞犯に軽犯罪が加わった程度が多いです。いじめとして強要された万引き等はいじめを扱うことが幼年少女誌では少ないため余り見られません。非行としての自覚が無い、校則で禁止されているに過ぎない男女交際などや非行と呼ぶのには微妙な無気力、登校拒否なども見られます。いずれにせよ問題が解決したらあとくされなく更正できる程度です。
- ヒーローの非行で圧倒的に多く見られるのが上流階級の子弟で、容姿端麗成績優秀スポーツ万能と完全なまでに優れた人間でありながら、遅刻常習犯で学校には反抗的もしくは無関心、人間関係にも無関心で主人公には主人公が好意を抱いたら冷たく突き放し、主人公が彼に余り関心が無い場合には意地悪な迫り方をします。またそのヒーローの父親が何か、芸術や芸能、その他の世界で権威がある場合、既述のように才能をもつ主人公を利用しようとしたりもします。この態度の原因はほとんど家庭に対する慢性的な絶望です。詳しくはキャラクター分類でクールなヒーローとして研究する予定です。
他ヒーローの非行でみられるのは、部活関係など学校での絶望が多く見られます。この場合には急性の絶望で、主人公や彼の友人による励ましですぐ更正します。
やや粗暴な感じの不良で、無視していたのにいつの間にか触れ合って、というパターンも多く見られます。この際にはヒロインはしばしば彼を心配して、更正させる結果になります。
- 友人が非行に走る場合、主人公より制約が少ないです。その分深刻な非行が見られます。話の上では主人公の友人に対する心配が主眼になります。その点、友情ものが主体ですね。友人の急な変化に驚き、何とか事情を知ろうとして反発され、そして大抵は別の情報源から事情を聞いて忠告を重ね、そしてなんとか引き戻す、つまり主人公に起こったことを客観的に描くのが基本ですが、厄介なのが直接原因が自分・・・三角関係の影響でぐれたケースですね。後述。
- 三角関係におけるサブヒロインですが、一番多く見られるのはヒーローがクールなタイプの場合、彼の過去を知っている昔からのGFである場合が多いです。初めから参加してヒロインにヒーローのことを知っているのめからヒーローのとなりにいるか、又は途中かは自分だけ、と干渉したりします。
上で指摘した、主人公の友人が三角関係が原因でぐれるケースですが、ヒロインの親友で、疑似姉妹関係もよく見られます。この場合疑似姉妹のどちらの可能性もありますね。(理性では分かっていても)一種の裏切りを感じ、恋を失った事に耐えられず、何より親友を憎んでいることの辛さから絶望に陥ります。非行のタイプとして多いのが、幼年少女誌では無気力になっていく側です。登校拒否に陥ることもあります。自棄による性非行は幼年少女誌範囲外ですので見られません。この場合には友情の回復がそのまま更正につながります。時間と誠意です。
- 三角関係のサブヒーローですが、登場の時期で役割が大きく分かれます。初めから主人公に近い立場で登場している際には、初めからぐれている場合には多くは上述のクールなタイプですが、そうでない、比較的粗暴な非行もよく見られます。その場合にはその粗暴さに惹かれ、また彼が教えてくれる夜の街など、新しい世界に惹かれるということですね。非行と言いますか、そう言った闇の世界にはそれなりの魅力があるものです。それに惹かれる主人公には勿論、好奇心と真面目でいることに対する疲れ、正しい生活を強制されている感覚に対する反発、自分がつまらない人間であると言う劣等感等もあります。最終的には既述のように幻から覚め、絶望から回復して、同時に幻である恋愛感情もなくなって、と言うことになることが多いです。彼に人間性があり、共感が残る場合も多いですが。
クールなタイプがサブヒーローである場合には、そのライバルとなるヒーローは匹敵する能力をもつか及ばないが成長の余地がある熱血タイプで、主人公の幼なじみである事が多いです。
サブヒーローが途中から登場する場合ですが、これは長期連載における新展開です。ヒーローとヒロインが一応つきあい始めるか、それとも十分仲良くなって安定するかした頃、それをかき乱す為に登場するわけです。その非行のタイプは多様です。暴力的に振る舞ってヒーローを脅かすか、クールな魅力と卓越した能力でヒロインの心を奪うか、あるいは深い絶望を心に秘めて、たまたまそれに触れたヒロインの同情を誘うか・・・。
- 家族ですが、これは多彩です。幼児のちょっとした家出から深刻な非行まで、様々なケースが考えられます。原因が主人公にある場合と関係ない場合に大きく分かれます。誰がぐれたか、ですがそれには姉、妹、兄、弟、そして同居している、これも事情があって下宿している人間、両親を失って引き取られている従兄弟等結構色々考えられます。
原因が主人公にある場合は姉妹間の三角関係、単純な喧嘩や暴力、喧嘩から出た暴言等の直接的な原因と、それまでの圧迫や不満の積み重ねがあります。
- 姉妹間の三角関係ではふられた、もしくはそう思い込んだほうが自棄になることがあります。これは三角関係の相手の同情を引くため、というのが意識無意識に関わらずあり、二人で説得することになります。
- 単純な喧嘩が重要になるのは年の幼い場合です。無論これでの非行も、ちょっとした家出や幼稚な模倣に過ぎず、簡単に回復できます。単純な暴力を伴うこともあります。
- 喧嘩から出た暴言ですが、これはあらゆる家族に当てはまります。不満がたまっており、他の問題もあって両方が追いつめられていて、それで決定的な弱みを言ってしまって大きく傷つけた場合、言われたほうをかろうじて支えていたものが折れてしまう場合さえあります。この場合にはやや深刻な事態に陥ります。言ったほうも意地になり、謝れずに放置する場合が多く、時間が解決するだろうとたかをくくっている間にいつの間にか大変なことになる、それでやっと言ったほうが思い切った動きをして解決、と言うのが一般的なパターンです。
話の中での役割ですが、これは家族が中心の話では話の中心になります。構成員の非行は家族の絆に対する強い不満表明であり、それを再構築するのには格好の材料です。そうでない場合には恋愛ものの中で、姉妹間の三角関係となるか、または協力してくれた恋愛の相手に対して恋愛感情を抱いたり強化したり顕在化させたりするきっかけにもなります。
それ以外のやられ役キャラとはまあ、ゲームの雑魚のようなもので、単なる暴力だけの存在です。細かくはデートの絡まれるケースで詳述しました。
非行の原因ですが、前回単純化し過ぎました。絶望は根本的な原因であり、直接的な原因とは微妙に異なるケースもよくあります。無論、一見単純な動機に見えても、その深層には様々な絶望があって、ということが大半なのですが。
直接的な原因として、絶望のみならず他人の影響や恐怖心に対する対抗として、根本的には絶望によるものであることが大半です。
それ以外の原因には、幼年少女誌では余り見られませんが、サブカルチャーとしての非行に対する単純な憧れによるものがあります。
学校によることでの絶望として、束縛に対する反発、学校の期待に対する反発、部活に対する反発、冤罪に対する怒り等を挙げました。
- 束縛とはご存じの通り生徒の人間性を無視した校則が代表的です。他にも様々な生徒の自主的な活動を認めないこともありますが。校則に関して、法的には決着がついています。事実上学校の裁量権を無制限に認める判例がでており、生徒側には一切法的権利はありません。話における具体的な事ですが、幼年少女誌でしばしば見られるのは恋愛に関すること・・・男女交際禁止の校則でしょう。これは校則のみならず、体育会系の部活でもまれに見られます。これらに対する反発は二つに分かれます・・・まず理性的に言葉で抗議して対応しようとする姿勢があります。これは現実には無効ですが、少女マンガの中では最終的に有効な手段です。経緯として、まず抗議を直接言いだし、それを否定されて反発を強め、あえて逆らい続けることを選びます。校長にまで話を及ばせることもあります。その意味、法的な非行とは違って校則違反を確信犯的にしているだけですね。理性以前のものは、その抑圧を理性的に分析できず、強い不満の感情が膨張し、結果的に学校に対する反抗的な態度、服装の変化や虞犯行為に至ったりします。この場合は解決が無いです。むしろどうやって更正させるかの問題になりますね。
- 学校の期待ですが、これは部活での期待も含みます。成績優秀な生徒の場合には受験で難関校に合格することにより、出身校そのものの名誉を高めることにつながります。部活において功績を残すことも同様です。それらは記録に残され、私立校でしたら直接これからの受験生数を増やして、受験料収入を増すと共により優秀な生徒を入学させることができる、という好循環を生み出します。受験の無い公立中学校でも名誉なことです。これを期待して教師達が可能性のある生徒を励まし、またその環境を整えることは当然ですが、当の生徒にとって、自分の努力が学校のためであり、また教師の励ましも学校の利益のため、と見切ってしまったときには深い絶望を覚えることがあります。特に一時的なスランプなのに、手の平を返すように見放されたりしたときにはショックが大きいでしょう。それによって勉強やスポーツに打ち込む意志がなくなり、今までの禁欲的な生活の反動として激しい生活の荒れに至ることもあります。この解決はスポーツなどでしたら誰か(普通恋愛の相手)が何故そのスポーツをするのか・・・親の思い出などと組み合わせて本当はそのスポーツが好きだから、と思い出させて回復させます。受験の場合には・・・勉強が好きだからやっている、という人はごく少数でしょう。難しいところです。
- 部活に対する反発には、上であげた利用されている面に対する反発、成績なども含む自分の能力(学校に含まれるかもしれないが・・・事故などによる特定のスポーツや芸術、技術等の断念も含む)に対する絶望、部活内部の先輩後輩の支配服従関係や勝利至上主義などの体制に対する反発等があります。これらに対する反発は意欲を失わせ、生活習慣も崩壊させます。それまで賭けてきたものがなくなり、自分を道化と思い込むなど強い自己否定を感じます。それからの回復には上述のような情熱の復活、または別のうち込めるものの発見等があります。
- 冤罪に対する怒りは、何かの事件で冤罪をかぶせられ、それに対して怒りと絶望を感じて非行に走ることです。特に冤罪の背後に差別感情やひいき、特に金持ちの子弟に対するひいきがあると感じた場合、それはより強いものになります。
それ以外の個人的なものとして、親や恋人などの大切な人の死、はっきり分析できない不満感、そして生来の反社会的な気質、男子の場合恐怖感の裏返しとして周囲に対する威嚇を前回挙げました。
- 大切な人の死は深い傷になります。これはどうしようもなく、時間が解決するしかないです。復讐相手がいれば復讐を遂げるまでは悲しみを憎悪に転化できますが、普通はそれもないですし。特に恋人の死に対して、周囲が無理解でちゃんとケアをしないこともあります。これによって無気力や、自棄のため刹那的な快楽に身をまかせるタイプの非行にのめり込むこともあります。これから復活するには恋愛相手の一喝が一番有効です。
- はっきりと分析できない不満感と生来の反社会的な気質、これが一番大きいかも知れません。これについては分析は通用しません。はっきり言って理由が分析できないのです。解決も非常に難しいですね。上述の理由はそれのきっかけにしか過ぎないと言う場合もあります。
- 周囲に対する威嚇は一般に男子に限定されます。その理由は多分性役割的な文化で、暴力が男子に独占されているから、女子にはそれがとりたくても取れないからでしょう。これは最近では武器の携帯やそれを用いた威嚇、昔ながらの暴力的なサブカルチャーへの参加や暴走族など反社会的な集団への加入等で表現されます。暴力的な文化の強い学校では常に暴行、恐喝の危険があり、そうでなくてもいじめへの恐怖は常にあるものです。愚かなことではありますが、それに対して暴力で対抗する以外に考えられることが少ないことも事実です。本当は暴力でもいじめには対抗できないのですが・・・。こういった場合、極めて粗暴な態度をとりますが、根本的には恐れで動いています。
何か質問は?御静聴深謝。
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