F.K.
ダム、ダダダダ・・・
はやいリズムでボールが弾む。
花道は流川とにらみ合いながら、丁寧にドリブルしている。
「変異抜刀霞ドリブル改!」
などと叫んでいる。
「どあほう」
一年ちょっとでレッグスルードリブルを手元を見ないでできるのは十分すごいが、流川に通用するレベルではない。
それより、流川の目には左右の元木と中田の動きが気になっていた。
花道が一瞬ゴールを見て、ボールを右手に移す。体重移動は左。
(スクリーン)
元木が、いつのまにか流川の右側に来て腰を落としている。
同時に中田が流川から見て左のコーナーで右に踏み込むと見せ、鋭いステップで角田を抜き、ダッシュ。
「パス!」
中田の高い声が響くと同時に、花道はそのまま左に抜けて
「天才スラムダンク!」
「どあほう!せっかく」
一瞬で回り込んだ流川が、とんだ。
花道はもう空にいる。
「!!」
ボールは弾け飛び、拾った元木が素早く中田にパス、中田はフリーでレイアップを決めた。
「ナイッシュ!」
「結果的にフェイクになったか・・・でも二人のナイスプレイを見てなかっただろ、花道!」
宮城が怒鳴った。
ぶつかった流川と花道は、エンドラインを超えて壁近くで倒れ、起き上がらない。
「あ・・・もう、このインターハイ前の大事な時期に!」
彩子の声。
流川は静かに起きた。
そして、何事もなかったかのようにプレイに戻ろうとした。
花道から、まぎれもなく・・・ゴゴゴゴゴゴゴが立ち昇っている。
その動きは誰にも見えなかった。
花道の、渾身の右ストレートが流川の頬に食いこんでいた。海南戦で流川が三千代を泣かせた時のように・・・
「なにしやがるどあほう!」
泣きべそをかいている花道に、流川の左右フックが叩き込まれる。
あとはお定まりの・・・
「今日はどうしたの?桜木くん」
晴子が花道の鼻に綿棒を突っ込み、鼻血の残りをぬぐいながら、姉が弟を叱るように聞いた。
「・・・・・・」
「あたしにもいえないの?むぅ」
晴子のすねるような表情が可愛い。
花道はもう泣きそうになっている。
「そ、その・・・その、その」
「災難でしたね」
三千代は流川の頭に包帯を巻き終え、穏やかに微笑んだ。
「どっちの意味でだ」
ぼそり、と聞こえないような声で。
三千代は聞こえないふりをして、氷を入れたビニール袋を流川の頬に当てると、唇もアルコールを染ませた脱脂綿でぬぐいなおした。
「笑うな」
「笑っていませんよ」
「笑ってる」
「笑っていませんってば」
流川は面倒になったのか黙って、三千代からアルコール綿を奪って何度も唇を拭いた。
「ねえ、なんであんなに怒ったの?」
帰り道、晴子がしつこく花道に聞いている。
「あのプレイは流川君のファウルだけど・・・いつもあれくらいのディフェンスはしてるわよぅ」
花道はいつのまにか、晴子の腕が自分の腕にからんでいることに気づいているのか・・・
「よう花道、」
桜木軍団が校門の陰から飛び出し、晴子は瞬間的に顔を赤らめた。
この状況は客観的にはラブラブカップルである・・・さすがに体が分かったのか。
「お〜め〜で〜と〜お〜〜ご〜ざいます〜〜〜」
亡くなられたあの方の口調と身振りで、野間が。
「祝ファーストキ」
それ以上言わせず、花道が大楠を蹴り倒した。
その隙に、洋平が晴子の耳に何事かをささやく。
「え、え、え・・・・・・」
真っ赤になる晴子。
「ふんぬー!」
花道の頭突きが軍団を沈黙させ、花道は全力疾走で逃げ出した。
「ま、待ってよ桜木くん!」
晴子が追うが、400m中学記録保持者の風馬とも互角の花道、あっという間に引き離される。
もちろん晴子がこける。
花道が飛んできて手当てをする。
「だ、大丈夫ですかハルコさん!」
晴子は優しい目で花道を見つめ、その肩に置いた手を引き寄せながら目を閉じて・・・
「く・ち・な・お・し」