奇妙な味のDQ3

長くなりましたのでテキストファイルにしました。
ダウンロードしてください。(日本語シフトJIS)

といっても、あまりに異色な内容なのでとてもDQ二次創作とは名乗れた代物じゃないです。
ある意味スーパーリアル風味。

読者には逆に入りやすい・・・わけがないですね。

キャラクター(ネタバレを含みます)

冒頭部はこちらに載せます。


 寝ていたはずが、いきなり固い床に落ちる。現代社会ではめったにない強い匂いに顔をしかめる。
 が彼はある意味慣れている、すぐ周囲を見回す。
「またあいつのいたずらか……今度はどこの世界で冒険させられるんだろうな」と小声で愚図った。
 二十歳ほど、上体に脂肪がついているが下半身は鍛えられている。
 四畳ほどの狭く天井も低い部屋、寝台といくつかの木箱だけ。彼には全く見覚えがない。
 彼は身を起こして軽く全身をたたいた。薄暗い部屋で、寝台に向けて軽く手を振る。そこに、音も光もなくいくつかの荷物が出現した。
 パジャマを脱いで荷物の一つをほどき、そこにある下着と靴下を二重につけて、デザートパターンの迷彩服を着る。二本の手ぬぐいを出して一つは首に巻きもう一つははちまきにし、軽い合成素材ヘルメットをかぶる。
 頑丈な鉄板入り革ブーツをはいて、膝や肘にパッドをつける。
 腿や胸も含むポケットには上下あわせてバンダナ数枚、アルコールウェットティッシュ、メモ用紙と鉛筆、ターボライター、絆創膏や消毒ガーゼ、特殊加工のチョコバー数本、メタルマッチ、ルーペ、薄いアルミとラップでできたエマージェンシーブランケット、コンパス、スパイダルコのソルト1、ワイヤーソーや針金、いくつかの小瓶、数メートルだけ平たく巻いたダクトテープ、針と糸・釣り針釣り糸その他こまごました物少し、何種類かのビニール袋などが恐ろしくコンパクトに詰まっている。
 多数のポウチ類をベストのようなのにまとめた代物を着て頑丈なナイロンベルトを絞める。ベルトには他にも防水布、まとめたロープなども見える。
 背中には1.5リットルのキャメルバッグ水筒があり、前に回したチューブから水を吸うことができる。ベルトにも約1リットルの水筒がついている。ただし標準で装備されている折りたたみシャベルは見られない。

 右腰に、やや大型の刃物が固定されている。刃は20cmほどで幅広く、鋭い先端があり鉈の厚さ。刃の曲線と30cm近い曲がった柄がゆるいS字を描く。長柄の出刃包丁か剣鉈、小さなシャベル、手斧のようでもある。
 プラスチックの鞘には、太糸を巻いただけの薄く細長い切り出しも収まっていた。
 刃渡り7cm程度の、尖った先端とかぎ状の峰でガットフックスキナーと呼ばれるナイフと、鞘に入れた板金や針金も切れるハサミも右腰に下がっている。
 ベルト左側のスイスツールと、左肩に刃を上に固定した刃渡り16cmほどの、先半分が短剣状の細いナイフにも触れてみる。

 トランクを空けると、ブルパップ式で全長70cm弱とコンパクトな散弾銃のスリングを右肩にかけ、脇に下げる。
 AK機関部で信頼性も高く、ボックスマガジンで再装填も早くフルオート射撃も可能。ダットサイトが上に、頑丈なフラッシュライトがフォアグリップについていて、弾薬を含めた全重量は4kgを切る。
 もう一つのトランクのAK-103にマガジンをはめ左肩から下げ、ぶらぶらしないよう布袋とベルトにつけた器具で腰に固定した。名銃AK-47と弾丸も機構も同じ、新素材で軽量化され銃床を折りたためる。

 いくつかの手榴弾を確認し、皮手袋をつけ、分厚く大きな、使い込まれた革ポンチョを全身にまきつけるようにし、軽く紐をしばってフードをかぶると、それは奇妙に太って見えるが変哲のない旅人だった。

 ドアを開けると、そこには剣や槍を持ち鎧を着た人や、杖と複雑な服を着た人などが何人かたむろしていた。
「ここは?」
 彼……瓜生がそっと聞く。
「ルイーダの酒場さ。冒険者の集まる」
 言葉は通じる。
 異世界に呼ばれる運命の、三つのサービス。言葉、故郷の商品・軍品なら何でも「出」せる、病気に感染しないさせない。
「なら仕事にはありつけそうだな。ありがとうよ」瓜生はそう言って、(聞いたことがあるような……忘れさせられてるようだな)と苦笑しながらカウンターに向かった。ゲームや小説の世界に放り込まれるとき、その作品についての知識だけはきれいに忘れさせられるのだ。
 片目と片足のない、ただし昔は相当強かったと思える老いた男がぐっと見上げる。
「冒険者かい?今ちょうど仲間を集めてるやつがいるんだ。いや、先に登録してもらおうかい」
「助かるよ。瓜生」
「ウ……リエル?職業は?」
 瓜生はちらりとその手元のリストを見て、少し考えてから、
「一応戦士だ。地図作りや医者も少しならできる」
 軽い罪悪感がある。彼の生まれた世界では、無資格での地図作りや医療行為は重罪だ。
 だが、近代以前の世界でなら、他学部受講で建築学部の講義を聞いたり、図書館で医学書を何十冊か借りて読み問題演習もこなしているだけの彼でも嘘とはいえないだろう。
 実際、以前の冒険では気球からの空撮写真とレーザーレンジファインダーなどでサソリ沼の地図を作ったこともあり、また衛生・栄養指導や簡単な手術で多くの人命を救っているのだから。
「そうかい、地図とかはないねえ。済んだよ、仕事があるだろうから」と、親指で階段の下を指す。
 階下は雑然とした、酒と香辛料、魚醤と香油の匂いが濃く漂う酒場だった。古びてはいるが全体に清潔で、ネズミや虫は見られない。
 ゆでた豆と穀物と魚のスープの大鍋が真ん中に沸いており、それを客が好きによそっていく。何人かは魚の塩焼きにかぶりついていた。
 客がジョッキを傾けると、ひげにエールの泡がつく。
 吟遊詩人のギターに似た楽器が単調に響き、客の一人が机を叩いて調子を合わせている。
 奥と入り口、二つのカウンターがある。奥のカウンターに顔を出すと、小学校の頃にPTAで見るぐらいの、崩れかけだがそれが美しい女が彼に話しかけた。
「ここはルイーダの店。旅人たちが仲間を求めて集まる、出会いと別れの酒場よ。何をお望みかしら?」
 しなは含まれておらず、かすかに酒と香料が匂う。
「仕事」彼はそれだけ言う。
「そう、おーい!四人目だよ、戦士だってさ。でもどっからきたのかわからないけどね。オルテガの坊や!」
 そう呼ばれた先に、一人の……子供が立っていた。使い込まれた、体に比べ大きすぎる頑丈な革鎧。幼さを無理に殺した、はっとするほどの美しさ。
 眼光は強烈で、瓜生は一瞬圧されるのを感じるが、ぐっとこらえる。
「勇者オルテガの」
「本当の名前はミカエラだけど、ミカエルって呼んでやんな。男として育てられたんだ」ルイーダが口を挟むのに、
「ルイーダ!」その子が壁を叩く。
「仲間にするんなら、隠し事は禁物だよ。いざというときにそれが命に関わる」
「ああ……あんたは、戦士には見えないな、鎧も着ていないし」
 彼女の目線がさらに鋭さを増す。
 そこに、店の奥から声。
「四人そろったんですか?やっと出発できるんでしょうか」
「なんか変な感じね、太ってるし」
 鉄帯を鉄輪で留めた木の棒を杖がわりにしただぶだぶ僧服の男の子と、奇妙な杖を持つ三十がらみの美女。
「ああ、こいつが戦士ならな」ミカエルがそちらを向く。
「この二人も仲間なのか、紹介してくれるか?」瓜生が聞く。
「ガブリエラとラファエル。魔法使いと僧侶だ」
「瓜生、ウリエルってこっちじゃ発音するか?戦士だ……率直に言えば、異界から来た」
 三人が少し目を見開く。
「ルイーダさんのお言葉だからな。まあこんなものがある世界だよ」と、瓜生は言ってポケットから氷砂糖の小袋を出し、数個ずつそれぞれの手に押しつけた。「そうそう、あと……これでわかるやつがいれば。角の三等分・立方体の体積を二倍・円と同じ面積の正方形を作図することは不可能だととっくに証明されてるし、345直角三角形みたいなのを、立方以上でできる整数三つの組みは存在しないと最近証明したやつがいるって」
 一瞬ガブリエラの目が大きく見開かれるが、何も言わない。
「食べてみろよ」まず瓜生自身が食べる。
 怪しんだように、三人が口に入れ……なんともいえない表情がたまらない幸福感になる。
「甘いです……固まった蜂蜜みたい」とラファエル。
「ううん、北に樹液を固めた甘いものがあって、一度修行中に食べたことがあるけど」とガブリエラ。
「なんだよ、これ」ミカエルがつぶやく。
「この世界は初めてなんだ、みんなのうまい物を少しずつ教えてくれ。あと、もし仲間にしてくれるなら」少し寂しげになる。「攻撃してくる敵は殺す。だが非戦闘員の虐殺・拷問・強姦は絶対にお断りだ」そのときだけ、目が少し強まる。
「当たり前だ、そんなことをする勇者なんていない!」ミカエルが低く怒鳴る。その迫力に一瞬はっとする。
「ならいい。よかったら行こう、おれの戦法にも慣れてもらわないと」
「さ、早速いくんですか?」とラファエルが頼りなげに左右を見る。
「無理にとは言わないさ、ついていくって言ったのはお前だろ」とミカエルが、甘い残酷さを含んだ声で言う。ガブリエラが苦笑した。
「ルイーダ、昨日の部屋代は?」瓜生がカウンターを振り返る。
「サービスだよ、オルテガの忘れ形見についていこうってんだ」ルイーダの懐かしげな目に、なんとなく昔のロマンスが見える気がした。
「ありがとな。よければこれ」と、ポンチョの下を探って氷砂糖の大袋を奥カウンターに置き、店を出るミカエルについていった。
 経験上、蛇口をひねって水が出る文明レベルでなければ一夜の支払いに充分なる。塩で払うこともあるが、客の一人が食べていたのが新鮮な青魚の塩焼きだったため、海が近いと判断してやめていた。
 おそらく、異界からもたらされた万能薬として一粒一粒高価に売られ、プラシーボ効果で何人も救うし、また何人もそれがなくても死ぬ人は死ぬだろう。そのなりゆきも見えているが、全員を救うことは無理だし、近代医療体制を築くことも自分の仕事ではないと彼はわかっていた。
 少なくとも、コウモリの糞と王の小便と水銀鉱物を混ぜた丸薬より氷砂糖のほうが、死なない人数は多いだろう。前近代では最高の処方は「何もしないこと」なのだ。
「王様から、武器と防具をもらってるけど」ラファエルが言うが、瓜生は首を振った。
「あるよ」
 入り口の預かり所で、荷物を背負った二頭の、体つきはラバ、顔はラクダに似て尾が太り蹄が三つのバロと呼ばれる役畜をラファエルが引き取り、余分になった旅人の服を嬉しげに着た。
 ミカエルが、地面から胸まである長方形の木盾を腕にはめる。
「戦士というより魔法使いだねえ」というルイーダの声、そして「あんな若いのに」「とんでもない旅に、よくいくもんだ。勇者の子供ってのもかわいそうだね」などの声を後ろに聞きながら、店を出た。

「じゃあいこうか。まず北の、レーベの街へ。アリアハンから船は出せないようだから、なんとか大陸への道を探す」ミカエルが城を振り返り、そのまま城下町を出る門に向かう。ラファエルが軽く袖を引くのを乱暴に振り払った。ガブリエラがふっと、右に目をやる。
「ご家族?」
 瓜生の言葉に小さくうなずく。門の脇に、老人とミカエルによく似た若い母親、そしてその脇にはラファエルの家族と思える僧服の男性と主婦、小さな弟や妹がいた。
 みな涙に濡れているが、ミカエルは振り返ろうともしない。ラファエルも必死で目をそらす。
 瓜生は軽く会釈し、その後について門を出た。それ以上聞かない、ただ右手の散弾銃の薬室に初弾を装填する。
 門を出るとすぐ近くに海があり、その対岸に煙るようにレンガ造りの塔がそびえていた。

「広いな」海と山脈に囲まれた森と平原、ところどころに人家と果樹園、囲われた放牧地がある。
「魔物が暴れだす前は、もっと豊かな畑だったそうですよ」ラファエルが軽く指を振る。
 瓜生は適当な盛り土に目を留め、
「先に言っとくよ。おれが来た世界での武器は」と、ポンチョの下から銃を出し、構える。「小さいが重い塊を、矢よりずっと速く撃ち出す飛び道具だ。吹き矢の極端なのと思ってくれ」
「飛び道具?むしろ魔法使いに近いんだな、ちょうど来たみたいだから試してみてくれ」と、ミカエルが空の一点を指差す。そこからは、恐ろしい勢いで巨大な鳥が襲いかかってきた。
「うわあっ!」ラファエルの悲鳴、ガブリエラがミカエルをかばうようにし、ミカエルが剣を抜く。
 瓜生は平然と箱形弾倉を替え、鳥用散弾を連射した。轟音が平原に響き、無煙火薬の匂いがつんと漂う。
「うわあっ!」誰の悲鳴だったか。
「終ったよ」瓜生が銃を降ろし、排莢口カバーを兼ねた安全装置をかけ、弾倉を交換する。
 三羽の鳥がゆっくりと落ちてくる。巨大に見えたのは錯覚で、せいぜい翼幅1.4m程度だった。ただ眼をつつかれたり幼児をさらわれたりしたら充分脅威だっただろう。
「剣を持っているな?なら左側は任せてくれ。おれの前に出るな。あと、どんな状態でも伏せろと叫んだら伏せてくれ。何か投げたらそっちから離れて目を覆い口をあけて伏せろ。ハンドサインはおいおいやっていこう」
 そういって、銃を半ば構えたまま大股に鳥の死体が落ちた藪に歩み寄る。
「剣は使わないのか?」ミカエルの、少しバカにしたような言葉に瓜生は苦笑し、
「こっちのほうが強力だからね。接近戦用のナイフならあるよ」と答えた。
「まだだよっ!」ガブリエラが叫んで杖を振りかざし、軽く踊るようにしながら何か唱えると、火の玉が地面からあふれようとしたスライムを包む。プラスチックが焦げるような匂いが漂う。
「ちっ!」ミカエルが剣を叩きつけ、踏み潰す。
「助かったよ」そうガブリエラに言うと近くの木陰にもう一発。
「一角ウサギか、危なかったな」ミカエルがもう驚かない、という表情で、突進しようとして倒れる獣を見る。
「解体します」とラファエルが大ガラスを回収に向かった。
「食えるのか?」瓜生の言葉に、ガブリエラがうなずく。
「おれの故郷の人間は、多分こんなこと想像できないだろうな。おれだって今までの冒険がなかったら失神してるよ。いやおれの故郷といっても、六十億の中には家畜を自分で解体する人も何十億もいるだろ」瓜生はそうぶつぶつ言いつつ、一角ウサギのところまでいくと、その大型犬並みの両膝に、ポウチの一つにわがねてあるロープを縛りつけ、枝に引っ掛けて逆さ吊りに引き上げた。
「どこまでやるんだ?」瓜生の問いに、
「内臓を出して、皮をはいで肉を食べられるように切り取ってください」とラファエルが返す。
「毒があったりする内臓は?」
「大丈夫ですよ。角は薬になるので傷つけないで、後で任せてください」
 うなずいた瓜生は皮手袋からビニール手袋につけかえ、ビニール袋を用意してナイフを抜き、首近くに切りつける。暖かい血が袋にたまっていく。
 すぐ一番小さいナイフに持ち替え、峰側の鉤状部の内側の刃……ガットフックを用いて喉から丁寧に、肉を切らぬよう皮だけを切り裂いていく。そのまま股間からY字に切れ目を進め、膝のあたりで、今度は鋭利な刃の側で皮をぐるっと切って、そのまま上から皮だけを服を脱がせるようにむいていく。抵抗があるところではナイフを器用に使いながら。さらに前脚も別に切りつけて、胴体の皮だけをむいた。
 それから、胸の下から刃を、さっきと同じように慎重に切りあげ、内臓があふれ出てくるのをビニール袋に受け止める。少し寒い風に、熱い湯気が立つ。
 その心臓に、奇妙な輝くものを見かけた。結石ではないようだ。
「心臓に何かあるんだが!普通の獣にこれはない」
「それは魔物である証、価値がある石ですのでとっておいてください」
「わかった」
 それから大きい刃物を抜き、柄の一番後ろを握る。そうすると、湾曲した柄と刃の曲線で、手斧やククリの角度で当たる……重さが集中し、やすやすと胸骨を切断する。
 柄の刃に近いところを握ると出刃包丁の使い勝手、背中から大きな肉を取るのも楽にできる。
 頑丈なハサミも頑丈な腱や細い骨、気管や食道を切ったりと活躍する。
「終ったか?」ミカエルの声。
「ちょっと待って、鉛汚染は悪いからな」と、瓜生は小さいナイフで銃創をえぐり、弾を取り出して別にしまった。皮に塩を振って、肉を包んでそのままバロに載せる。
「さっそく肝臓は食べてしまいましょう」ラファエルが呼んだ、少し離れた岩場にはもう焚火の準備ができている。
 削った木串に刺し、塩と近くにあった香り草の汁を塗ってあぶった肝臓は何よりのご馳走だ。
「うまいな」瓜生の言葉にラファエルがうなずき、
「これも神のみ恵みと思いましょう。魔王の力で不自然にゆがめられてはいても」と祈った。

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