奇妙な味のDQ3

DQ3的100のお題

酒場

 ちょっと昔、岡場所のお触れが変わる前、「ぱふぱふ」が「ルプガナ遊び」と呼ばれ、ムーンブルクが疫病で潰滅しかかったりした頃、おいらは下船町でぶらぶらしていた。
 塩湖の都、ベラヌールは二つ。島と船だ。島はがっちりと地面があり、揺れないけど臭い。船を集めて繋ぎ合わせた、もう島より広い街は、時々水をかい出したり直したりしなきゃいけないし揺れるが、クソもションベンもゲロも船縁から水面に直だから臭くない。
 魚を食う時は変な気がするけど、気にしてたらきりがねえから酔っぱらってうまい、だ。
 あと湖岸から運ばれるきれいな水が、ちょっと高い。下手するとエールの方が安いぐらいだ。まあメロワインほどのぼったくりじゃあないが。
 いつもの店は、混んでいた。
 木の扉が開き損ねた。ここの扉は右舷側に傾いたときじゃないと開かねえんだ。昔の船材で、フナクイガイの喰い跡とハルナツボが、模様みたいできれいなんだ。この扉をあつらえるのにえらい借金したって、閑なとき店の酒飲みはじめたマスターがいっつも語り出すんだ。
 開き損ねるってことは、初めてってことだ。
 そうそう、そのときのおいらは、ちょっと困ってた。嫌な客につきまとわれて殺されそうだから足抜けしたい、って、知り合いの女郎に泣きつかれたんだ。その嫌な客ってのが凄い奴でな。下手すりゃおいらがなぶり殺される、どうしよう、って。
 逃げればいい?どこへだ。おいらは、尻は水で洗わなきゃどうにもだめなんだ。陸でも海でも暮らせねえんだ。
 いやその話はあとだな。初めての客、四人。
 頭をムーンブルクふうの頭巾で覆った、男か女かわからねえ、とんでもねえ美形が先頭だった。
 その脇に、背が高くてなんか迫力のある、貴族か僧侶みたいな男がいた。黒ずくめだったな。
 後ろから、年は考えない方がよさそうだけどすげえ美人の姉ちゃん、ジーブって名前だっけ?どうせ偽名だろうけど。ルプガナふうのドレスで、すげえおっぱいしてた。
 最後に入ったのが、暑そうな厚革のポンチョで深くフードをかぶった、やたら着ぶくれした男だった。
 ジーブが、おいらの隣に座った。びっくりしてたよ、メロワインがうまいって。
「アレフガルドから」っていったのに、おいらは笑ったよ。アレフガルド、って土地の名前は聞いたことがあっても、とんでもねえ大魔王に封じられて出入りもできない、伝説のお話しでしかなかったから。あの頃はまだ。
 土地のいろいろな酒やごちそうをいろいろ注文してやった。妙に金離れもよかったっけ。

 楽団が一休みした時、暑そうなポンチョの兄ちゃんが立って、そっちに行った。よくいるんだ、とにかく歌いたいってバカが。
 そしてなにか言ってごそごそしてたら、何人かの楽団が強烈な、まるで鉄をぶったたくような音が店中に響いて、それに叫ぶように強烈な歌。
 どんな魔法だったんだろうな、ありゃ。
 きいたら、「シーデーラジカセヲカンデンチデ」だっけ、妙な呪文を唱えてた。でもおいらがその呪文を唱えても、何もおこらないんだよ。変なやつだった。
 すげえ歌だった。ちょっとは覚えてるぜ、繰り返してもらって覚えたから。その歌をちょっとがなるだけで、どこでもおごってもらえるんだ。誰も聴いたことがねえ、とんでもねえ音だった。
 酒場のみんな、総立ちで叫んでたよ。
 最初の歌は、「ワイタゼニガイザエレデ」って歌い出しだ。はじめは激しく、「オ、ベリトール」の繰り返しをちょっと甘く歌うんだよ。
 次の歌だったよ、「ヨルオマイガサ・レ」って箱が歌ったら、兄ちゃんが大声で「ぴーぽーぴーぽー」ってわけわかんない言葉叫んでたな。それから同じ節で、「キノ・マウドソウロ」に「早漏早漏」なんていきなり怒鳴って、酒吹いちまった。
 で、繰り返される「オ・リ・ユ」、「ソノママエ」に、確か「そのまま東」だっけ?
 また「オ・リ・ユ・カーラナミエ」に「飾りじゃないんだ涙は」、「一度と言わずに二度三度」とか、「バックは嫌」とかどんどん下品になってった。
 おいらと飲んでたジーブって姉ちゃんが、兄ちゃんの頭を大皿でぶんなぐって、「あんたの故郷の恥こんなとこでさらすな」なんて怒鳴ってたっけ。
 意味もわからねえのに腹抱えて笑っちまった。それがきっかけで、そのジーブと仲よくなった。
 そいつらはなんか世界樹探ししてて、あちこちで情報集めてた。歌ってた兄ちゃんは調子外れなことばかり聞いてたけど。結構いるんだよ、どんなに強くて頭がよくても、なにかが下手なやつが。

 酒の勢いでジーブを誘って、お楽しみの真っ最中に襲われたんだ。どんな豪傑だって、最中だけはひとたまりもない、はずなのにあの女だけは違ったね。おいらの上で腰振って甘い声上げながら、その声がいつのまにか呪文だったんだ。
 ドアを蹴破り、短剣や漁網を振りかざしてかかってきた大の男三人が眠りこんでぶっ倒れる。それで何もなかったように甘い声で「さあ続きだよ」って。
 すっかり縮こまっちまったけど、まあ……それからしばらくは内緒にしとくよ。いい女だ。
 済んでから、眠らせた男たちを縛り上げて起こした。
 最初はいきがってたよ、「おれたちにこんな事して楽に死ねると思うな」とか。
 そしたらジーブ、ザキ一発で一人殺してにこにこしてやがる。おいらもよくちびらなかったよ。
 寄越した奴は思ったとおり、おいらが余計なことに首つっこんだからお仕置きだ、とか。
 それでも殺すなら殺せとか言ってる奴もいたが、今度はメダパニでおつむの中引っかき回して、凄い奴の居場所も吐かせて、それから殺した奴もあっさり生き返らせたんだ。ザオリクなんて呪文、ほんとにあったんだな。
「それであたしまで殺す気だったのかい。なら、あたしたちを敵にまわしたってことだね」ジーブがにやっと笑ってた。ありゃ怖かったよ。
 それで、まあ何があったのか話した。それで……なんで初対面の奴らを信じたか知らないけど、あんなすごい連中を信じないほうがバカだ。
 とにかくとんでもないんだ。
 姿を消す呪文とか鍵を開ける呪文とか、伝説どころじゃない大呪文を連発して岡場所の女郎を、まるで子猫みたいに盗み出す。身請けにとすごい量の純金の塊を置いていく。
 返しようがねえって震えてたら、別にいいってわらってやがる、一生暮らせる金だぞ?
 それから、堂々と真正面から、島の……その凄い奴、今も名前出せねえよ……屋敷に乗りこみやがった。
 ありゃ、何を見たんだろうな。
 呪文で扉の鍵を開ける。
 おっとり刀の用心棒が何人も、一瞬で鉄像になる。
 大岩の吊り天井が落ちてくるのを、黒い兄ちゃんが軽々と支える。
 それからジーブと、ポンチョの兄ちゃんが手を軽く合わせてなにか唱えたら、ばかでかい岩が跡形もなく消え去った。
 それでもう、みんな震えあがってた。なんとか意地で粋がって、凄い奴が剣を抜いた。あの極悪非道と剣技で知られた凄い奴。
 あのやたらきれいな、男女どっちかもわからんのが、凄い奴を子供扱いで、右腕と左足を切り落としやがった。
 まるっきり、ちょっと起きて顔洗うぐらい朝飯前だった、って感じだよ。

 そうそう、いきなり半日いなくなって戻ってきて、ポンチョの兄ちゃんが悲しそうにしてたから飲ませたら、人を殺しちまったって泣きじゃくってた。あんな強い奴らで、そりゃどれだけ殺してるかもわからないだろうに、変な奴だった。

 それから、まあ件の女郎は船でデルコンダルに逃がしてくれたり、何もかもきっかりやってくれた。おいらの出番なんてなんにもなかったね。それで一銭もとらないんだ。
 それからすぐどこかにいなくなって、何年かしてから、伝説を聞いたんだ。アレフガルドの大魔王を倒し、宴の席から消え失せた勇者ロト。またムーンブルクの疫病も、厄介な海賊も……あいつら、ってすぐ確信したよ。
 まあそれも、酒の上でのホラと思ってくれていいさ。伝説なんてそんなもんだ……
 ジーブは何年かしてから、時々会いに来る。覚えた、あの変な歌を歌ってやるたびに大笑いするんだ。

*ゾーマを倒した後、上の世界に帰る道を求め、ドラゴンクエスト2のフィールドマップを旅しています。
*瓜生が口から出した言葉は、特殊な魔法、一種のテレパシーで意味が通じます。でも相手に概念自体がなければ通じません。また「CDラジカセを電池で動かして」鳴らした歌声は、聞いたことがない言語と同じく意味不明の音の羅列です。
*どうみても〈スス●ノ探偵〉シリーズです、本当にありがとうございました。

話す

 具体的にいったい何を「話し」ているのか、ぜひ一度聞いてみたいもんだ。
 とても具体的な、初めて訪れた国で、よそ者の旅人が人に話しかける「言葉」など想像もできない。
 それ以前に、なぜ言葉がどこでも通じるのかが……ルーラがあるから?

調べる

「ここだ」ミカエルが、何の変哲もない、村の真ん中の井戸を見る。
「ここに何かあるらしい、って?」瓜生が地面を見る。
「だね」
 瓜生はまず金属探知器を取り出した。それで丁寧に、井戸の周囲を回る。
 ビー、と音がしたら、長柄剣鉈の峰の部分で、丁寧に土を数ミリずつ削る。広い刃はちょっとしたシャベルがわりにもなるし、柔らかく研ぎやすい鋼材なので気軽に使える。
 しばらくして、折れた矢尻が出てきた。
「なんだ」
 と、また同じことを二回ほどくり返す。
「金属じゃないのかな?」と、井戸の回りを一周して、瓜生がつぶやいた。
「どうでしょう。でもいつも、その道具で小さな金貨でも簡単に見つけてしまいますね」
「ああ、金属は内部の自由電子が……」
「いいやめとくれ」
 ガブリエラが止める。
「じゃ、ボーリングするか?」瓜生が周囲を見渡し、地盤を確認し、
「そういえばやったことがなかったな。やりかた調べてみるか」と本のカタログを手にして、また別の本が手元に出現する。
「ボーリング?」ラファエルが聞いた。
「聞くんじゃないよ」と毎回ガブリエラが言うが、それがまあいつものことだ。
「とても深い穴を、ちょうどこんなふうに」と、寿命が近いFN-MAGの銃身をちょっといじるだけで外し、地面に刺して体重をかけ、「ここ叩いてくれ」とラファエルに言い、彼が長いバールをハンマーがわりに埋めていく。
 かなり埋まったら抜いて、銃身内に詰まった土を薬室側から丁寧につつき出す。
「この、表面から土が層状になってるのがわかるか?」と、筒に詰まっていた土が、模様のある棒状に出たのを示す。「これと同じように、より深く太く、地の底の岩盤までくり抜き取り出す。価値のある鉱山か確実に知る唯一の方法だし、これで地盤がどれだけ強いかわかれば、そこにどれぐらいの建物を建てても崩れないか、また崩れそうならどれぐらい深く杭を打つかとか色々わかる」
「それはすごいですね」ラファエルは興味深そうに聞いている。
「ガブリエラ、もう使えないからここらの人に売ってくれ。良質の鋼だ」と、瓜生が予備銃身をガブリエラに渡した。
「よすぎるんだよ、どうなってもしらないよ」ガブリエラが文句を言いながら、鍛冶屋のテントに向かった。
「おい、ここは井戸の脇だぞ。その横で穴を掘ったら、すぐ水が出るだろう」ミカエルが指摘した。
「そうだな。そんな場合はどうするんだろう」と、瓜生はその地面から少し突き出ていたY字形の棒に腰かけて、本を読み始めた。
 スーの人々は、その奇妙な行動に少しおびえながら、開いているところから井戸の水を汲み、瓜生たちには話しかけずに日々の営みを続けていた。
「もういいだろ」戻ってきたガブリエラが、瓜生を坐っていた棒から立たせ、その変哲もない棒を抜く。
 折れた股枝が上、せいぜいステッキに使える程度の長さと太さ。
 それに魔力が籠もった瞬間、細い稲妻が棒の周囲に沸き立った。
「いかづちの杖」ラファエルが畏敬に背筋を伸ばした。

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